#301 VSグランデ・スワーヴ&完璧紳士


 【王の再臨リ・キングスアウェイクン】によって強化されたAGIを以て、セバス氏に肉薄する厨二。鋭く繰り出される攻撃を互いにいなしながら、一進一退の攻防が続く。


「やるねぇ、一瞬でケリを付けるつもりだったのにサ」


「ふふ、それはこちらの台詞です。まさか死体が喋るとは」


「おや、ゲームは初めてなのかい? 蘇生なんてままある事だよ」


 皮肉を利かせた台詞を言い合いながら繰り広げられる凄まじい攻防。一瞬でも気を抜けば決着が付きそうだが、互いにそれを許さない。

 【アガレスの大穴】というコンテンツの仕様上、レベルは引き下げられている筈なのだが、純粋な技量こそが彼らの戦闘の質を引き上げていた。


「見惚れている場合でして?」


「ッ」


 鋭く、研ぎ澄まされた一閃。短剣を握りしめ、首を抉らんと襲い掛かるデスワさんの攻撃を後ろに飛んで回避する。

 反撃に跳弾混じりの矢を放ち、デスワさんを牽制するが、短剣で容易く切り払われる。


「ワタクシに跳弾は通用しませんわ。……これでもワタクシ、貴方のですので」


「ああもう、ライジンといい俺の厄介ファンはどうしてそこまで対策練ってんだ……!!」


 ライジンの奴が聞いたら「は?」と言われそうだが、跳弾というあまりにマイナー技術を研究してる人間は世界でも数少ないだろう。ましてや、このスキルの大本はAimsの跳弾の仕様をそのまま活かしているものだ。そんな跳弾の挙動を調べ尽くしている人間なんて、俺かSnow_menの厄介ファンぐらいのものだろうしな。


 厨二とセバス氏の戦闘に割り込んで厨二に有利な状況を作りたいが、それをデスワさんが許してくれない。俺が放つ援護射撃を悉く叩き落し、隙あれば俺を一撃で屠ろうと急所を狙ってくる。

 それでも俺は射撃を続け、地面や壁を穿ちながらデスワさんに攻撃し続ける。


「やはり、そうですわね」


 デスワさんは跳弾射撃を回避し、鋭い突きを繰り出しながら、言葉を続ける。


「あなたはこの世界じゃ真の実力を発揮できない」


「……!」


 デスワさんの言葉に顔を引き攣らせながら、ウインドウを操作する。

 道中で拾った状態異常ポーション。それを取り出し、彼女へと放り投げた。

 そのままでは回避されそうだったので、空中で矢で射抜き、中の液体を振りまいた。


「そうやって、あなたは搦め手を使って戦おうとする。どんな相手だろうとエイム一本でねじ伏せる、FPSの世界でのあなたの輝きは発揮する事が出来ない」


 だが、それも読まれていたのか、デスワさんは一度バックステップで回避し、もう一度突撃。

 咄嗟に腰に下げた短剣を抜き、彼女の攻撃を何とか防御する。

 鍔迫り合いになりながら、彼女はこちらの精神を揺さぶるべく問いかけ続ける。


「スキルによって補っていても、あなたの真の実力はFファーストPパーソンSシューティングゲームにおいてのみ発揮される。弓で真似ようと、威力も、速度も、何もかもが足らない」


「……」


 ああ、その通りだよ。Aimsで習得した技術を輸入出来ているとはいえ、向こうの世界に比べたら今の俺は劣化版も甚だしい。

 だが、こちらの世界だからこそ、出来る事だってあるんだよ。

 鍔迫り合いの最中、俺はもう一つの手に光を収束させ、弾けさせた。


「【フラッシュアロー】!!」


「ッ!?」


 周囲を閃光が包み込む。咄嗟に対応し、両腕で目を塞ぎながら後退するデスワさん。

 目を隠し、光が落ち着くまでその体勢で居る彼女を薄めで見ながら、を済ませる。


「またそうやって……!!」


「今の一瞬でセットアップは済んだ、つったらどうする?」


 ニヤリと笑いながらそう言うと、ハッタリと踏んだのかデスワさんはスキルを発動させ、赤色の燐光を纏った。


「ならば、貴方が動く前に潰すまでですわ!」


 デスワさんが地面を踏みしめ、一気に距離を詰めてくる。

 後一息、目前にまで迫ったその時──


「……がっ!?」


 その爆発そのものに致命的な威力こそ無かったが、彼女は大きく隙を晒した。


 彼女は、つい先ほどと言っていた。俺を追っていれば自然と他の情報も入ってくるだろう。

 例えば、


……!? どうやって……!?」


 黒い煙を上げ、ゲホゲホと苦しそうに咳き込むデスワさん。

 変人分隊を知っていれば、警戒しなければならない事。

 例えば俺であれば跳弾だし、厨二であれば常識に囚われないトリッキーな立ち回り。

 だからこそ警戒が出来なかった不意の一撃。もしこの場にポンが居れば、自ずとに警戒出来ていただろう。


。本来10階層に出現する筈だったギガントゴーレム相手に使う筈だったアイテムだったが、まあ予定が狂ったんでな。仕方なくここで使わせてもらった」


「っ、ここまで通用しないのに攻撃し続けてきたのも、その設置を誤魔化す為……!!」


「正解。普通に設置しても通用しないだろうからな、跳弾した時に出来た穴に仕込んでおいたんだよ」


 俺がそう説明すると、デスワさんはにやりと笑った。


「ただ、そこまでタネを明かして良かったんですの? ……今の隙に仕留めなかったのは舐めプでして?」


「いや、これでいい。デスワさんが俺に接近戦を仕掛けるのが危険だという認識を植え付ける為のもんだからな」


「そうですの」

 

 彼女は笑みを崩そうとしない。きっと、彼女には今の位置から飛んで俺を仕留められるスキルを持っているのだろう。そういうのが読み取れる笑みだ。


(勝負の駆け引きがいまいち甘いな、対人戦はあまりやって来なかったんだろうな)


 人を騙したいのなら、もう少し意図を読み取らせないように立ち回らなきゃ駄目だ。

 まだ状況に苦しんでいるような表情をしていた方が、もっと俺を油断させられただろうに。

 だからこそ、次の射撃で確実に仕留めに行く。


「そろそろ、終わりにするか」


「……そうですわね」


 先ほどのデスワさんの言葉。それは全て本当の事だ。

 俺の射撃は威力も速度も、Aimsでのそれに劣る物。

 だからこそ、俺はあるもん全部で勝負する必要がある。


 ──足りないもんは、こっちの世界でだけ使える技術で補えってな。


「……?」


 デスワさんが、俺の行動を見て少しだけ困惑した声を漏らす。

 三本の矢を番え、ギリリと音を立てながらデスワさんに照準を定める。


「新技初公開だ、初見の感動に震えてありがたく贓物ぶちまけやがれ」


「良いですわ、やれるものならやってみてくださいまし!」


 にぃ、と獰猛な笑みを見せるデスワさんに三本の矢を放つ。

 そのどれもがデスワさんから逸れ──そして、跳弾を開始する。


「甘いですわ!」


 挙動が読めているのか、一本目が彼女に着弾しそうになった直後、その方向へと短剣を振るった。

 同時に、足元に黄色い光を放ち始める。

 恐らく、一射目を防いだ後、纏ったスキルを駆使して仕留めに来るつもりなのだろうが──。


「──がッ!?」


 一本目が着弾すると同時に、

 一射にて三つの矢を放ち、違うタイミングで跳弾、そして同時に直撃。

 一射目を偽装に、二射目を本命とする射撃の進化版。

 。それこそがこの技──。


「【跳弾】多重射撃って所か。跳弾の挙動を読める奴ほど刺さる技って訳さ」


「……なるほど……お見事ですわ……」


 俺に出来て、相手に出来ない事。それは、

 まだ少ない回数でしか同時に着弾させる事は出来ないが、相手からすれば一本ずつに集中しなければならない為、どれが一番最初に着弾するかを見定める必要がある。

 その認識を誤らせる為に、移動距離などを駆使して上手く誤魔化し、【空中床・多重展開】を使用して跳弾回数を偽装する。

 裏で名付けたこの技術の名は、『ライジン殺し』。いつか、あいつにリベンジする為に編み出した技の名だ。

 

 矢に塗りたくられた毒矢の効果でデスワさんが倒れ込んだのを見届けてから、厨二へと視線を向ける。


「さて……厨二」


「なんだい?」



「了解♪」

 

 待ってました、と言わんばかりに笑みを浮かべる厨二。それを見て、セバス氏が少し不機嫌そうに聞いてくる。


「舐められたものですね、2対1になった程度で私が負けるとでも?」


「いいや、お前はもう負けたよ。執事としても、この戦いにもな。……それに、俺は加勢する気は無いよ」


 執事として守るべきデスワさんを守れなかった時点でセバス氏の敗北は決まっている。俺の言葉にぴくりと眉を動かしたものの、分かりやすく怒る事は無かった。

 その隙を突いて、厨二が襲い掛かる。セバス氏は即座に反応し、握り拳を厨二の腹部に叩き込むが──その姿が霧散する。

 【夢幻の怪盗ファントム・ミラージュ】の分身だ。


 そして、セバス氏の背後に回っていた厨二が姿を現し、スキルを発動させる。


「【真実の切り札ファントム・ジョーカー】」


 たった一体しか消失していないものの、厨二が発動した決戦スキルによって出現した大鎌は、禍々しいオーラを放っていた。

 厨二が振るった鎌は綺麗な弧を描き、正確な軌道でセバス氏の首を捉えたが──。


ぬるい」


 鎌がセバス氏の首を断ち切る前に、セバス氏の裏拳が厨二の身体を捉え、弾き飛ばす。

 そして、こちらへと視線を向けたものの、俺の射撃を避けようとする様子は無かった。


「逃げようとすれば止められるのでしょう? 知っておりますよ、私も見届けておりましたから」


 セバス氏が言っているのは、【二つ名レイド】の時の生配信の話だろう。

 厨二の決戦スキル、【真実の切り札ファントム・ジョーカー】は行動と結果を逆転させるスキル。非常に強力だが、種が割れれば対処は難しくない。


 ……と、思っているのだろうが。


 俺は確かに言った筈だ。、と。


「残念、はーずーれっ」


 厨二の決戦スキルの強みはではない。

 サンッ!と空気を切り裂く音と共に、無防備なセバス氏の首が宙を舞った。


「は?」


 弾き飛ばされた厨二の身体が消失し、何もない空間から厨二の身体が出現する。

 【真実の切り札ファントム・ジョーカー】を使ったブラフに、まんまとセバス氏は騙された。


「君の敗因は三つ」


 驚愕に目を見開いているセバス氏を見て、厨二の口が弧を描いた。


「一つ目。行動と結果を逆転出来るという効果はボクの方で調整可能と言う事」


 そう、まずここが引っ掛かりやすい点だ。発動タイミングは厨二の方で調整可能だ。

 逃げようとすれば止められ、止まっているのなら確実に仕留めに行く。

 そういう駆け引きが可能なのが、このスキルの強みだ。


「二つ目。【真実の切り札ファントム・ジョーカー】を使用した時点で参照されるのは『嘘吐き』スタックのみであり、分身が消える訳では無いと言う事」


 セバス氏の手によって分身が霧散していたが、消す事が出来たのはであり、【夢幻の怪盗ファントム・ミラージュ】の効果、『ヘイトが向いている敵の数だけ分身を生成する』によって生み出された分身はデスワさんの分を含めて存在した。

 もう一体の分身を透明でひた隠し、分身が現れたタイミングで本体が透明化。こうする事によって、カラクリが成立する。


「三つ目。君があまりにという事」


 厨二が使った透明化や搦め手の数々は、現実世界ではそう簡単に再現出来やしない。

 現実世界の傭兵と言えど、急に人間が現れたり消えたりなど、そんな異常事態に即座に対応が出来ないものだ。

 対応される前に押し切った厨二の技量が凄まじいというのもあるけどな。


「ボクと対等に駆け引きを楽しみたいのなら、まずはゲームという世界についてよーく理解する事だねぇ。現実の概念に囚われてるようじゃあ、一生ボクには勝てないからねぇ」


「そうですか……なるほど、慢心していたのは私だったようですね。いつか、リベンジ致します」


「いつでもウェルカム……あ、消えちゃったか」


 楽しそうに笑う厨二の言葉を最後に聞き届け、同じく楽しそうに笑ったセバス氏の身体が消滅する。

 こうして、10階層で発生した突発PVPは俺達の勝利で幕を閉じるのであった。




───────

リハビリがてら新作も投稿開始しました。

【『迷宮殺し』レインの英雄証明 ~勇者に憧れた少年、元勇者と大罪人の道を往く~】

良ければそちらも読んで下さると嬉しいです。

作者にとって超々久しぶりのハイファン作品になります。

成り上がり物、熱い展開が好きな方はぜひ。

 

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skill build online ~変態スナイパーによるMMORPG挑戦記~ 立華凪 @castellq

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