真夜中のキャッチボール
のらねこ。
真夜中のキャッチボール
「ばーか」
誰もいない部屋の中でボールを投げた。
キャッチボールをする気もないそのボールはそっと夜の邪魔をしないように暗闇に落ちた。
わかってる、わかってるの。
何もない普通の夜。真っ暗な外なのにカーテンをする気になれなくて、電気をけしてぼーっと空を眺める。
冷房だけは聞いた部屋で快適なはずなのに、何か足りない気持ち。1つだけ埋まらない解答用紙みたいな。あとちょっとでクリアできそうだったゲームみたいな。時間が間に合いそうで間に合わないみたいな。
焦ってももうどうしようもないことをずっと考える。
なんとなく聞いているバラード曲を流している携帯は一向に光る気配を見せない。いつもならたくさん通知が来ているはずなのに。
「なーんでこうなちゃったかなあ」
また一つボールを投げる。そのボールはまた静かに落ちる。
今日はたくさんボールを投げてしまった。
静かなボールのまえには傷つけてしまうような強いボールを投げた。ボール投げが得意でもないくせに強いボールはいつもよりスムーズに飛んで行った。強さの調節をしようと思ったころには、相手はもうけがをしていた。
わかっていた。
そんなボールの扱いをしてはいけないこと。
そんなとげとげのボールを使ってはいけないこと。
そのあと相手は怖がって逃げてしまった。当然だ、私だってその強さでとげとげのボールを投げられたら逃げてしまう。
その前に強くボールを投げられたわけでもほかのことで傷つけられたわけでもないのに。
自分が悪いのに、気づいたらボールなんていらないって考えて、部屋の中にたくさん投げていた。どんなに投げてもボールは無くなんなかった。部屋の中がボールで散らかっただけだった。
どうしたらなくなるの?問いかけてもボールは答えてくれない。
部屋の中には青かったり赤かったりするボールが散らばっていた。どれも元気がなさそうだ。不安そうだ。
悪いのは私のボールの投げ方で相手が悲しいはずなのに、私のボールが一番悲しそうだ。
どうしてだよ、悲しいのは相手なのに。
「死にたいな」
なんて、また新しいボールを投げた。
またそっと落ちて...。
「どうしてそんなこと言うの」
落ちる直前にふわっと拾われた。そのボールが拾われる先を見つめる。
「どうして...。」
「受け止めたいなって思って。」
彼はニコッと笑う。
「ごめ、ごめんなさい。私、君に最低なことしちゃった、下手でごめんなさい。傷つけたかったわけじゃないの」
ボールとともにたくさんの涙が落ちる、また君を困らせてしまうなと思いながらもその涙もボールも止まらない。
「ううん、誤らないで。僕もさっきは逃げてごめん。ちゃんと話し合おう?」
彼はたくさんのボールを受け止めてくれた。それと同じくらい彼も優しくボールを投げ返してくれた。
気づいたら部屋の中のボールはそっと夜の闇に消えていた。
真夜中のキャッチボール のらねこ。 @no0524
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