第18話 迷宮ルナロストに到着+重要なお知らせ

「ねぇ、この馬車の揺れどうにかならないかしら。不快だわ」


「どうにもならん。文句はこれを作った奴に言え」


「ねぇ、狭いのだけど。もっとそっち寄りなさいよ」


「お前、俺と隣の人間を圧死させるつもりか? これが限界だ」


 学園から始まりの迷宮まで馬車で四日ほど。今日はその四日目。アルセリアの機嫌はだだ下がりしており、さっきから文句が絶えず、馬車の空気は最悪だった。


 この馬車には俺とアルセリアの他に、四人の三年生が乗っている。普通だったら彼らが注意するものだが、


「……」

「……」

「……」

「……」


 完全にアルセリアの雰囲気に飲まれていた。


 情けないと思うなかれ。機嫌が最高に悪いアルセリアは普通に怖いのだ。更に、彼女は機嫌が悪いと刺々しい魔力が放出される。兄が言っていた。まあ俺は魔力を有していないので全く分からないが。


 だから余計に、同乗している彼らは恐怖を抱いているのだろう。誰一人としてアルセリアに目を向けず、逸らしている。


 とはいえこれでも改善された方なのだ。一年前はもっと感情の起伏が激しく、制御も出来ず、辺りにまき散らしていた。

 仮に一年前、この機嫌の悪さだったら、間違いなく荷馬車を抜け出して、勝手に始まりの迷宮に向かっていただろう。魔術で飛行して。


 だから、まあ、同乗している彼らには我慢してもらうしかない。あと数時間だけの辛抱なのだから。


「ねぇ、外に向かって思いっきり魔術を放っていいかしら」


「駄目に決まってんだろ」


 転生した時は剣だけを考えて生きると決めていたのに、なんでいつの間にか俺はこいつの手綱を握っているのだろうか。


 ――胃が痛い。





 始まりの迷宮――ルナロストは洞窟のような外観となっている。内部も洞窟のようになっており、魔物や罠がそこら中に蔓延っている。外の魔物とは違い、迷宮の中の魔物は殺しても死体が残らない。


 唯一、魔石だけは残るが、それだけ。魔物の死体が残らないので冒険者は収入を殆ど得られない。つまり迷宮に潜るだけ損とも言える。


 それでも冒険者が迷宮に潜るのは何故か。理由は隠し部屋に眠る財宝を狙っているからだった。


 迷宮の内部の構造はさほど変わらない。しかし隠し部屋は違う。いつもの道の脇、行き止まりなはずの壁、主が鎮座する部屋……どこかにひっそりと、人が通れるぐらいの穴が空いている。


 隠し部屋の中にあるのは財宝――という名の、死んだ冒険者の残骸だ。


 鎧、武器、薬品、硬貨。ほとんどがあまり価値のないものだが、中には本当に財宝と言えるものが稀に転がっている。例えば特殊な鉱石で作られた剣。例えば高価な魔道具。例えば希少な鉱石。


 隠し部屋を見つけ、なおかつ中身が財宝である可能性は限りなく低い。だがそれでも冒険者たちは迷宮に潜る。


 以上の理由によって、迷宮の周囲には街が作られるようになった。


「ふーん。これがルナロスト……まあまあね」


 馬車から降りて開口一番アルセリアは言う。周りの学生が興味津々になっている傍らでこの態度、この言い草。可愛げないにもほどがある。


 だが、今回ばかりは、俺も人のことを言えなかった。前世で何度も訪れているので、どうも思えないのだ。確かに初めて見た時は「ルナロストという街はこんなにも栄えているのか」と驚いたが、今となっては見慣れた街の一つでしかない。


 俺たちは馬車を降りて宿に向かった。もちろん一般的な宿ではなくて高級な宿だ。


 聞いた話によると、どうやら学園の生徒が試験に来る為に建てられたものらしい。普段は富裕層向けだが、この時期になると学園専用になるとのこと。相変わらず貴族の扱いは丁重である。


 滞在するのは四日間。随分と長い期間だが、試験を受ける生徒が四十八人ほどなので、二日間に分けなければいけないのが理由だ。


 因みにその期間、冒険者は迷宮に入れなくなる。冒険者組合も貴族に喧嘩を売りたくないので、冒険者に注意喚起を徹底する。偶に貴族嫌いの冒険者が試験中の生徒にちょっかいをかけることがあるのだが……まあ悲惨な末路を辿ると言っておこう。


 俺とアルセリアは一日目、兄とその友人のイシリオンは二日目。なんだか振り分けが作為的だが気にしない。とにかく前世ぶりの迷宮潜りが楽しみで仕方がなかった。





 ……夜中、誰かが訪ねて来た気がしたが気にしないことにした。





―――――――――――――


お久しぶりです。文月です。

いや、ほんとにこんな遅くなってすみません。土下座でもしたい気分です。


遅くなった理由はちゃんとございまして……


実はこの作品、書籍化します!!!

出版社や他諸々の情報はまだこれからですが、期待してもらって良いです。


つまりですね、その書籍化作業で更新できませんでした。更に別作品の「白銀の魔術師」の第二巻の書籍化作業もありました。ついでに今は電撃大賞に出すものを書いています。


 今後のスケジュールといたしましては、まず電撃大賞の原稿を完成させます。これが4月10日までです。


 おそらく次に更新できるのがこれ以降となります。余裕が出来ればもっと早く更新しますが、4月10日以降となってしまう可能性が高いです。


 改めまして、いつも読んで下さっている方々。

 書籍化できたのは、皆様のお陰です。

 本当にありがとうございます。


 更新が遅かったりと至らぬ作者でございますが、今後ともお付き合いしていただければ嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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剣鬼転生 極めし剣は魔術を斬り裂く 文月紲 @citrie

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