第7話 姫ができたらしい
雅side
学校に来た途端なんなんだこの状況は。
「み、雅くん?あの。この前は、ごめんなさい。私たち反省してるの。だから、そのお詫びに今夜どう?」
誰だっけ?この女。
思い出そうと顔を見ていると、気まずそうに視線を逸らされた。
あぁ、思い出した。
俺に水ぶっかけてきた女達のリーダーだ。
「もうどうでもいいよ。
寝るからどっか行って来んない?」
「そんなこと言わないで、ね?寝るなら膝枕してあげてもいいのよ。」
何?そんなに俺に媚び売りたいわけ?
「うざい。どっか行って。」
「な、何よ!
もう知らないっ!」
女の声が教室中に響き渡った。
はぁ、こちとら体だるいし眠いしで何もしたくないんだって。
でもあの時とっさに後ろに跳んで正解だったな。もろに受けてたら今日学校来れてないだろうから。
クラス中の視線を浴びながら俺は机の上に突っ伏した。
そういえば、今日は本庄が迎えに来なかったな。
まぁ大方、理由は想像つくけど。
――――――――
「姫ができたって本当か?」
「ほんとに信じられない!誰よ瑠樹様たちを唆したのは!」
「昨日、秋宮 蒼大が送ってるの見たって!」
今日はそんな噂話て持ちきりだ。
他に話す事ないのかよって思うけど、こうなるように仕向けた張本人がいう事じゃないか。
とはいえ、優菜を百嵐に任せて気にいるかはあっち次第だったし。
姫が出来たら俺には興味がなくなって一件落着。
ということで、この話はもうおしまいにしよう。
そんなことより、さっきから教室の外走ってるやつ誰だよ...。ドタバタうるさくね眠れないんだけど?
「雅ー!」
...。
「雅!ちょっと、朝はごたついててよぉ。迎えに来れなくてごめんな!」
世の中、そう上手くことは進まないらしい。
突っ伏していた顔を上げると、そこにはいつも通り本庄の満面の笑みがあった。
「別に来なくていいんだけど。」
「そんなこと言うなって〜!今日は紹介したい奴もいるんだよ!」
本庄の一言に周りがざわめき出す。
奏side
朝になってみると、突然の電話があった。
その内容はこうだ。
昨日、女を送って行ったところを誰かに見られたらしい。彼女が姫だという情報が出回っている。
けど、そんな情報は消そうと思えば消せるわけで...、それをしなかったのにはちゃーんとした奥深い訳がある!
一つ目は、彼女が今回危険な目にあったのは昨日の族の女たちの嫌がらせのせいらしく、俺らがいれば基本安全だし、危ない連中に襲われた手前、このまま放っておけないと。
ふむふむ?まぁ、言いたいことは分かるけどよぉ、姫にする程のことか?ってみんな思ったはずだ。
もちろん、真意は別にあって、
二つ目の理由は...
あの蒼大が、その女に惚れた。
あの帰り道で何があったんだよってツッコミたかったけど、別に告白したわけでもなく蒼大の片思いらしいんだよな。
これってよー、ほぼ一目惚れってやつじゃね?あの蒼大が一目惚れするなんて、驚き桃の木...ってなんの話だっけ?
あーそうそう!
それで蒼大は今朝方、百嵐全体に招集をかけて皆の前で頭を下げたんだよな。
「彼女を姫にしたいんだ。皆に迷惑かけるかもしれないが頼む!」
こんな必死な蒼大は見たことなかったし、皆から慕われてるあの蒼大が言うことだからな、みーんな快く了承したっつーわけだ!
俺はその招集の後、急いで雅のところに向かった。
きっと寂しがってるに違いない!そんな夢と希望に胸を膨らませながら向かった道中。
まぁ、
結果は言うまでもなく?冷たくあしらわれた。
「聞いて驚くなよ!百嵐に姫が出来たんだ!」
「あっそ。クラス中その噂で持ちきりだけど?」
「あー、そうだよな。」
雅の驚く顔見たかったのに!とショックを受けたのを隠しながら噂が出回っていた事を思い出す。
「まさかとは思うが、あの教室に連れて「そのまさかだ!お前にも会わせたくてよー。可愛いぞ!」」
「はぁ。俺女嫌いなんだよ。だから行きたくない。」
こいつ女嫌いだったのか!だから、あんな格好して寄せ付けないようにしてたとか?
「大丈夫だ!優菜、変に媚びてこないし良い子だぞ!それと、これは秘密なんだが蒼大が惚れた女だ。」
「はぁ?あいつが?
(あの後そんなことになっていたとは...。)」
「なんか言ったか?雅。」
「何でもない。」
「よーし、雅行くぞ!事は試してみないとな!あれ、俺なんか頭良さげ〜。」
「引っ張るな馬鹿、はぁ。」
大きなため息をついた雅を引っ張り上げると、俺達は溜まり場に入った。
雅side
もちろん女嫌いというのは逃れるための嘘だ。気まずいから行きたくないっていうのが本音。
「ゆ、楪 くん?」
「お!優菜も雅のこと知ってるのか?」
「そりゃあ、今も毎日のように噂が流れてくるし。」
毎日?どんな噂だよ...。
「さすが、雅だな!」
俺は、そんな2人を横目に部屋を見渡した。
1人いない...。
「あ!私、神田 優菜です。よろしくおねがします。」
そう言って彼女は綺麗にお辞儀する
「雅〜座れよ!」
俺は彼女を無視して、本庄の隣に座った。
「あ、れ?
私、避けられてる?」
動物に例えるなら耳が垂れ下がったウサギだろうか。
「雅はいつもあんな感じだから気にしなくていいよ。」
俺に聞こえないように秋宮に相談したつもりだろうけど聞こえてるから。
それよりも、ここにいない人物のことが気になる。
元はと言えば彼女がここにいるのは俺のせいなんだよな。
「雅?どこ行くんだよ。」
「...トイレ。」
俺は立ち上がって部屋を出た。
何処にいるんだ?
そう言えばその人物のことを全く知らないのに探しに来るとか無謀だったか。
「あ、いた。」
歩きながらずっと外を眺めていた俺は、木の上に探していた人物を見つけた。
以外と見つかるもんだ。
「大塚 レオ。そこで何してる。」
「雅?」
俺のこと名前呼びだったか?いや、今はそんなことどうでもいい。
「お前、女嫌いなのか?」
回りくどいのは面倒だから、ストレートにその言葉を口にする。
「...。」
トンッ。
大塚は身軽そうに木を降りると、俺の方に近づいてくる。
いつも寝ている姿からはあんな風に動けることが想像できず、俺は少し感心してしまった。
「確かに、女嫌い。
だけど平気な子もいる。」
わざわざそんな言い方をする大塚に少し首を傾げて俺は返事をする。
「へぇ。それは良かったな。」
「...。」
「...なんだよ。」
俺はなんでそんなに凝視してくるんだ?と不可解な目で大塚を見る。
「別に。」
そう言いながら、大塚は未だに見つめてくる。
そういえば、俺も女だけど女嫌いでも気付かないもんなのかな。
「大塚、女が来たから木の上に逃げたのか?」
そう考えると拗ねた猫にみたいだなと少しおかしくなって、ふっと笑みをこぼす。
「レオ。」
「ん?」
「名前、下の名前で呼んで。」
「...あぁ。分かった。で、どうなんだ?」
「心配してきてくれた?」
首を傾げてこちらを見るレオ。
木漏れ日が木々の隙間を縫って、白い肌と薄い茶色の髪をゆらゆらと照らしていた。
そういえばレオはハーフだったな。
異国を感じさせるその容姿を見ていると、自分が日本とは違う場所に来たかのような不思議な感覚がに陥った。
「心配っつーか。偶然見かけたから声掛けただけだ。」
ハッと何をしにきたのか思い出すと、そう言葉返した。
そうそう、もう見つかんないと思って帰ろうとしたところだったし。
「そっか。」
レオはそう言うと、少し頬を緩めた気がした。
「部屋戻んないの?」
「行かない。」
レオはそう言うと建物の壁に寄りかかり座った。
「...。」
ストンっとその隣に俺も座る。
「雅?」
「日当たって気持ちよさそうだから、ここで寝るわ。」
「...ありがとう。」
「...。」
レオとの会話には変な間がある。レオの返事が俺よりワンテンポ遅いからだ。
そんなゆったりしたレオとの会話に心地よさを感じつつ、俺は目を閉じた。
奏side
「っだあ!雅、遅ぇ!」
「確かに遅いね。」
「なんかあったに違いない!俺、探してくる!」
「待て、俺も行く。」
俺が部屋を飛び出そうとしたら、瑠樹もついてくると言う。
「はぁ?じゃあ俺も行かざるを得ないじゃねぇか。」
そう、このままだと蒼大、優菜、そして、智尋になってしまう。
こんな気まずい空間はごめんだと言わんばかりに智尋は我先にと部屋を出て行った。
「そう?じゃあいってらっしゃい。」
蒼大は心底嬉しそうな表情で俺らを見送った。
雅がどうなってるか分かんないっつーのに、幸せそうな笑顔だったなぁ。仕方ねぇから今だけは許してやるぜ。
「まーた、水ぶっかけられてたりしてねぇよな。」
「はたまた、男に絡まれてるか。あいつ細ぇし軽く殴られただけで骨折ってそうじゃね?」
俺に続いて物騒なことをいう智尋。
「馬鹿なこと言うなよ!!雅、どこだー!」
「手分けして探すか。」
瑠樹がそう提案してきた。
しかし、瑠樹本人を動かす雅って凄ぇな。
それだけ気に入られてるってことか。
――――――――
「女だって会った時から気づいてたよ。
男装してるから平気なのかと思ったけど。
それは違うってすぐ気付いたんだ。
...雅だから、平気みたい。」
雅が寝た後にそう呟くと、彼女の顔を覗き込み綺麗な顔を隠す髪を耳にかけた。
カクヨムに移行した影響で別作品として投稿していますが、続きは
朱の獣1〜続き〜
で読むことができます。↓↓↓
https://kakuyomu.jp/works/16818093087462952345/episodes/16818093087462952652
朱の獣1 〜トラウマを抱えた男装少女は至極平凡な学生生活を望みます〜 @MeiLing__
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