第6話 朱雀を追って

瑠樹side


「ついに来ちまった...。」



奏のやつ、なんでビビってんだ。



「さぁて、何が起こることやら。」



今日は幹部総出で通称、危険区域にやってきた。


この時をずっと待っていたんだ。


周りから止められていたから、反対を押し切ってまで来ようとは思わなかったが、朱雀がいい機会を与えてくれた。



「人気がねぇな。」



「今日に限ってなんでこんな人がいないの?」



苦笑いの蒼大。



本当に示し合わせたかのように人のいる気配がない。



「何かが起きるな...。」



さっきから異様なまでに胸騒ぎがする。




朱雀side


「お前が朱雀か?」



片側の口角を上げて不気味な笑みを浮かべながらこちらに問う。



「あぁ。」



「ふっ。よく来たなぁ?ほんとに馬鹿正直に一人で来るとはなぁ。


待ってたぜ?朱雀。」


薬でもやってるのかというくらい目がいっているこの男がここの頭か。



「女はどこだ。」



「女?


あー!蘭子が連れてきたあの可愛い仔ちゃんかぁ?」



「どこにいる。」



「そういや、あの可愛い仔ちゃんお陰でお目にかかれたってわけか。

あの朱雀も女には弱いってか?ははっ!」



この男絶対頭のネジ一本外れてる。いや、一本どころじゃないな。とにかく普段だったら絶対視界にも入れたくないクズ中のクズだ。


「無視はひどいぜ、朱雀。可愛い仔ちゃんがどうなってもいいのかよ?


おい、連れてこい。」



男がそう言うと、あの時の女が現れた。



ゆうな、だったか?電話ごしに蘭子という女がそう言っていた気がする。



「朱雀さん!!ごめんなさい...。」



良かった。まだ何もされていないようだ。



「お前一人でこの人数相手にできると思ってんのか?」



「俺がここに来たんだから、女はもう関係ないだろ。解放しろ。」



俺がそう言うと男は笑う。



「ばーか、お前倒して楽しむに決まってんだろうが。」



ほんっと、虫唾が走る。



「じゃあ、さっさとかかってきな。」



「お前らぁ、やれぇっ!!!」



うぉーーっと男たちが声を上げると数十人が一気に襲いかかってきた。



全体でざっと100人はいるか...。

だが、所詮雑魚の集まりだ。



俺は次々と相手の攻撃を避ける。

すると、上手い具合に仲間同士で殴り合うことになる。



勝手に自滅しててご愁傷様。



残り約50人。



敵の半分以上を倒した時だった。



「チッ、お前らー使えねぇなぁ。

一旦大人しくしてろ。」



何の真似だ?



「朱雀ー、お前この女がどうなってもいいのか?あ?」



そういうことかよ。



そこには、手首を縛られて男に馬乗りにされているゆうなの姿があった。



「や、止めて!朱雀さんっ、逃げて!」



涙目になって必死に抵抗している彼女が囮というわけだ。




瑠樹side


「なんかあっちの方、血の匂いがする。」



普段は滅多に自分からは喋らないレオが声を発した。



「つーかよー。あっちの方なんか騒がしくねぇか?」



智尋の言うとおり、なんだか騒がしい男たちの声が聞こえる。



「朱雀がいるかもしんねぇ。行くぞ!」



俺たちが行き着いた先はどこかの族?の倉庫だった。



「明らかに中で喧嘩してるよな?」


奏がまたビビった声を出していて情け無い姿を晒しているのを横目に、俺も中を観察する。



「どうする?瑠樹。」



蒼大が俺に判断を仰いだ。



「もう少し様子を見る。」



「分かった。」



俺達は中を覗き様子を探った。



「あれ、朱雀じゃね?」



「ほんとだ。ってかほぼ受け流してるね。仲間同士で殴り合っちゃってるし。」



「相手、武器使ってる上にあの数だぞ?雑魚ばっかとはいえ朱雀バケモンかよ!」



俺たちはその姿に見惚れた。



時々炸裂する回し蹴りや、拳の振るい方。そして、受け流し方。



その動きの全てが綺麗だった。



「ん?なんかやばくね?あそこに女いんじゃん。」



奏の指差した先には一人の女がいた。俺も気づいてはいたが、今のところまだ何も手は出されていないように見えた。


あの女が捕まっていると知って助けに来たのか?




すると、中が一度静まり返った。



「朱雀、この女汚して欲しくなけりゃお前がやられろ。」



何言ってんだあのクズ。



「チッ。分かった。だから、その女から手を退けろ。」



「ふっ。おい、退いてやれ。」



そう言うと、女の上に跨っていた男が退いた。


この状況じゃ朱雀も手出し出来ねぇ。



「おい、あの女助けるぞ。」



「俺に任せて。」



蒼大はそう言うと気配を消して中に入っていった。



「俺らは朱雀んとこ行くぞ。」



「よっしゃ、久々の喧嘩だ!」



智尋がそう言うのも無理はない。

最近平和ボケしてたからな、心なしか身体が疼く。


久々に暴れるか。




優菜side


バコンッ




「いやぁあっ!朱雀さん!朱雀さん!」



目の前でなんの抵抗もしない朱雀さんが蹴り飛ばされた。



「女、黙れや。...朱雀もこれでおしまいだな。」



隣でそう呟く男。



私さえ捕まらなければこんなことには!



「うっ。」



「良いザマだなぁ?あぁ?良い機会だからその顔面拝ませて貰おうじゃねぇの。」



そう言って蹴り飛ばした男が朱雀さんに近づいた時。



「お前ら。こういう事していいと思ってんのか?」



「お前!なんで百嵐がここにいるんだ...!」



ドスッ!


男を殴ったのは百嵐の...あれは鳴海 智尋さん?


何で、百嵐がここに...。



「何で、お前らがここにいる!百嵐はこの区域には入ってこないはずだろ!」



「んー?なんでかって?そんなの君らに教える義理はないね。」



「いつからそこに...。」



そう言って現れたのは、同じく百嵐の副総長 秋宮 蒼大さんだ。



百嵐の幹部の人たちのことはそういう事に詳しくない私でもフルネームで覚えてしまうくらいに周りが噂をしている。



物凄く、有名な人たちだ。



「君、大丈夫?」



笑顔で私に手を差し出す秋宮さん。



いつの間に周りの男の人たちを倒したんだろうか。



「は、はいっ。ありがとうございます。」



「酷い目にあったね?もう大丈夫だから。」



「朱雀さんは?」



「あっちなら、4人もいるから大丈夫でしょ。」



秋宮さんが眺める先は敵がほぼ倒されていてすでに勝負ありの状態だった。



「良かったぁ。」



私は安心してその場に座り込んだ。




朱雀side


こいつら、タイミング良すぎ。



目の前の男に蹴り飛ばされて、壁伝いに座り込みもうダメかと諦めた。

その瞬間、百嵐のそれも幹部の連中が時を見計らったかのようにやって来た。



大勢相手にして疲れた俺は、あとは百嵐に任せて良いかと一息ついた。


自分自身自覚していなかったが安心したのか視界がぼやけていくのを感じる。



ここに秋宮がいないってことは彼女も心配いらないだろう。



「朱雀、大丈夫かー?」



喧嘩を終えた本庄がこちらに話しかけてきた。


話しかけられなかったらこのまま寝てたかもしれない。受け流したとはいえ蹴られたダメージで身体が重い。



「...。」



今すぐ眠りにつきたいが、そういうわけにもいかないのでとりあえず頭を動かすことにした。

さて、こっからどうしたものか。



「何か言えよー。」



「女は?「朱雀さん!」」



俺が彼女の安否を聞いた瞬間、彼女が駆け寄ってきた。



「大丈夫ですか?私のせいで...本当にごめんなさい!!!」



壁に寄りかかっている俺の前に膝をついたと思ったら彼女は土下座してきた。


「良いから。頭上げて、それよりちょっと...。」



俺は彼女に手招きをする。



「何、でしょうか?」



近寄ってきた彼女ともっと距離を詰めるため、脱力した右腕を彼女の左肩に置き引き寄せた。



「えっ?す、すす朱雀さんっ!?」



周りから茶化したような口笛が聞こえたが気にしない。



俺は彼女の肩口に身を寄せて耳打ちをする。



「今から言うことちゃんと守ってほしい。」


 

「え?」



「俺たちは今日初めて会ったことにして、これからはこいつらに守ってもらえ。」



「何言って「お前ら、百嵐だろ?正直助かったよ。」



普段出さないような大声を発した。我ながら自分の声じゃないみたいだった、



「あの。」



「...じゃあ、俺は行くから。」



俺は彼女を離すと重い足に思いきり力を入れて立ち上がった。


しばらく休んでたし、歩いて帰れるだろう。



「待て、俺らはお前に用がある。」



須藤 瑠樹が言った。



面倒な予感しかしなかったが、とりあえず足を止めて振り向いた。



「俺らの仲間にならないか?」




瑠樹side



「瑠樹!?正気か?」



もちろん正気だ。この辺りで常に目撃情報があるということは住処もそう遠くないはずで、歳もそう変わらないように思う。

仲間にできるなら欲しい人材だ。


しかし奏がそう言うと、間髪入れずに


「断る。」


と朱雀は興味なさげに言った。



その声を聞いた瞬間、断わられたことよりと聞き覚えのあるようなその声のことが気になった。


気のせい、か?



そんな事を考えている間に朱雀は再び無言で歩き出す。



「お前の女じゃねぇのか?」



「はぁ...今日、会ったばっかだし。


こんな面倒ごとはもうごめんだね。」



倉庫に響き渡るようにそう言葉を残すと、朱雀は倉庫を後にした。



「行っちまったな。俺たちも行くか?」



奏の声で我に戻り、やはり気のせいかと次の問題である女に意識を切り替えた。



「君、名前は?」



女の側にいた蒼大が気を違うように話しかける。



「...え?えっと、わ、私は...、っ。



っ、あの、ごめん、なさいっ。」



名前を言おうとした途端、女はいきなり泣き出した。

今更恐くなったか?



「大丈夫?恐かったよね。」



蒼大が女の背中をさすりながら宥める。



こういう事は蒼大に任せておくのがいい。



「俺は彼女を送っていくから。瑠樹達は帰ってていいよ。」



「あぁ。任せたぞ。」



「うん。

じゃあ、行こうか?」



「ごめ、んなさいっ...。」



そんな2人を見送った後、俺たちもここを後にした。

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