第5話 噂の的
雅side
「雅〜、また寝るのか?だったら俺らの溜まり場で寝ようぜ。」
教室に着くなり机に突っ伏した俺に声をかけてきた本庄。
一度あの快適な空間を体験してしまったせいか、確かにこんな机で寝るよりはましかと思ってしまう自分がいたが...
こいつらと関わるとろくなことないんだった。
「雅知ってるか〜?今学校中で話題になってるやつがいるんだけどな?
きっと、そいつのいる教室はいろんな奴らが覗きに来るんだろうなー。
俺たちの溜まり場だったら静かに過ごせるのになー。」
わざと回りくどい言い方をしやがって。
ムカつくけど、こいつなりに珍しく頭を回転させたのか説得力はあった。
ムカつくけど。
「...行けばいいんだろ。」
「そうそう!瑠樹達も待ってるしな!」
「なぁ、昨日も出たらしいぞ!朱雀!」
俺が教室を出ようとするとそんな会話が耳に入ってきた。
「なんか、昨日は女連れてたみたいだぞ?」
「へぇ、朱雀女いるのか?でも、そんなのいたら弱みになるんじゃね?」
「いや、違うだろ!きっと女助けてそれを送っていったってパターンじゃね?」
「正義のヒーローみたいだな!」
正義のヒーロー?
馬鹿っぽ...。
「雅ー?どうした?」
「何でもない。」
「そういや、朱雀ってのも最近かなり噂になって来てるよな。」
こいつもその話題か。
「俺らも探してんだよな〜そいつ。」
「へー。」
「興味なさそうだな、おい!っていや待てよ?相槌打ってくれることの方が少ないよな?そうだよな!?今日の雅優しい!着実に仲良くなって...(以下略)」
ほんとよく喋る。
それにしても、そんなに有名になってるなんて知らなかったな...。
適当に俺が本庄の話を受け流していると、溜まり場に着いた。
「あ、雅。おはよう。」
秋宮 蒼大が話しかけてきた。
笑顔が素敵とか言われているだけあって、こんな無愛想な俺にも同じように笑顔を向けてくる。
「はよ。」
タメ口でいいよと言われ今では全員にタメ口だ。
鳴海は陰で文句を言っていたが。
「なあ!クラスでも朱雀が話題に出てきてたぞ。」
「朱雀、ねぇ。俺たちが行けない区域の徘徊者。だから、会える確率はかなり低いよね。」
徘徊者ねぇ。
お前らは行けないんじゃなくて行かないんだろう...。
なんか、眠気飛んだ。
プルルルル
「誰の?」
「俺。」
そんな時、俺のスマホがなった。
見てみると、非通知だった。
まさか...。
蒼大side
「雅?出ねーの?」
スマホを見て固まっている雅に奏が声をかけた。
「あぁ。」
そう言って雅は部屋を出て行ってしまった。
「俺たちに聞かれたくない話かな?」
雅が急いで部屋を出ていくものだから、少し電話の相手が気になった。
「そうかもなー。」
「おい、あんな奴のことより朱雀だ。俺は一回やり合ってみてぇ。」
智尋は喧嘩っ早いところがある。もう少し落ち着いてくれたら俺の気苦労も減るんだけどな。
「朱雀があの危険区域に入ってく前に会えたらいいんだけど。」
「そんな待つようなことしねぇで、その区域に入れば良い話だろ。」
瑠樹が突拍子もないことを言い出した。
「あそこ、他との境目だからってこれまで踏み入れるの躊躇してたじゃん。」
「だからなんだ。お前がごちゃごちゃ言い訳つけてただけだろ。」
人も苦労も知らないでよくもそんなことが言えたもんだ。
...とはいえ総長の決定には逆らえない。
「はぁ...、分かったよ。放置してた俺が悪かったって。とりあえず今日にでも行ってみる?」
瑠樹の強い視線に負けて、俺はもうヤケクソだと言う想いを込めて言葉を投げかけた。
「あぁ。」
満足そうに笑う瑠樹。
えーほんとに行くの。と冗談半分で言った発言を取り消したい気持ちで一杯になった。
「楽しそうじゃねぇか!」
「総長が行きたいって言うなら俺は着いてくぜ。」
智尋と奏も賛同して今日の夜、結局あの危険区域に行くことになってしまった。
とある女side
「はい。」
男性にしては高い声が電話の向こうから聞こえる。
「...朱雀さん?」
「どうした?昼は助けに行けないんだけど...。」
それでも、女の私からしたら低いし私はこの声が結構好みであることが今、発覚した。
今はそんなこと考えてる場合じゃなかった!
心配してくれているらしい彼に申し訳なくなりながら話を続ける。
「すみません。朱雀さ「優菜ぁ、まだ?」え、ちょっとまって蘭子ちゃん。」
「なんか、他の女の声が聞こえたんだけど?」
電話から怪しむような声が聞こえた。
「え、っと。それは...。」
「まぁ、いいや。用件は何?」
「用件は...「もういい!ちょっと貸しなさい!」あっ。」
「もしもし?」
「あんた誰?」
どうしよう...。
昨日痛い目にあったはずの私が平然と学校に来ているのを見た彼女たちは、私を校舎裏に呼び出した。
「優菜ー昨日、朱雀に助けられたって本当?」
「え?な、なんのこと?」
なんで助けられたって知ってるの?
「私の仲間がさぁ。朱雀にやられたらしいんだよね〜。」
やっぱり、昨日のは彼女たちの仕業。
「あんた、朱雀と知り合いなわけー?だって、都合よく助けてもらうなんて出来るはずないもんね?」
昨日のは本当に偶然だったのに...。
「知り合いなんかじゃないよ!」
「ちょっとスマホ貸して。」
そう言って彼女、蘭子ちゃんの仲間が私からスマホを取り上げた。
「返して!」
「蘭子、あったわよ。朱雀の連絡先。」
「やっぱり、繋がってんじゃない。電話しなさい。それで、○○へ来てってお願いするのよ。」
「はい、今電話かけたからあんたが出てねー。」
「そんなこと出来な「早くして。」」
蘭子ちゃんはそう言って私にスマホを取るように促した。
そうして現在。
「この子を無事に返してもらいたかったら、今夜9時に○○倉庫まできなさい。」
朱雀さんを面倒ごとに巻き込んでしまった。
「分かった。」
電話をスピーカーにしているため私にも了承の言葉が聞こえてきた。
「ふんっ。じゃあ待ってるから。」
そう言って蘭子ちゃんは電話を切った。
「ってことで、今日はあんたにも付き合ってもらうわ。」
「...何で、朱雀さんを巻き込むの!私が嫌いなら私以外の人に手を出す必要はないでしょう?」
「はぁ?昨日のあんたを襲ったやつの中には私の彼氏もいたのよ。朱雀をどうにかしないと気が済まないわ。
今日呼んだ倉庫は私の彼氏が所属している族の溜まり場でね。彼の仲間も何人か朱雀にやられてるらしいし、良い機会なの。」
不敵な笑みを浮かべる彼女は完全に化けの皮が剥がれていた。
朱雀さん...。
族の溜まり場ってことは、待ち構えている人数は計り知れない。
彼だって、無傷で帰れるわけがない。もしかしたらやられてしまうかも。
「じゃあ、帰りは一緒に帰りましょうね?」
そう言って私のスマホを持ったまま彼女たちは行ってしまった。
雅side
「はぁ。今日バイト休まないとな。」
プルルルル
「おー、雅どうした?」
ワンコールで電話に出た相手はもちろん悠吏さんだ。
「今日バイト行けない。」
私は素の声を出すために人気のないところに来て電話をした。
「ん?また体調悪くなったか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど。」
一気に声を沈ませた彼に申し訳なくなりながら、その言葉を訂正する。
「...そうか。今日は客が来る予定だったんだが、今回はお前に任せたくてなぁ。
また違う日にしてもらうわ。」
「そうなの?ごめんなさい。」
「気にすんな。こっちは心配ないから、なんか急用出来たんだろ?そっちに気回しとけ。」
「ありがと、じゃあ。」
「あぁ。」
悠吏さんの優しさに心を温めながら私は電話を切った。
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