第4話 さぁ、夜の掃除といこうか

〇〇side


ドコン! バコン!



「や、やめてくれぇっ!」



「お前らが先に喧嘩ふっかけてきたんだろうが。」



回し蹴りで急所を突くと、ドスッと最後の一人が倒れこんだ。複数の男の屍を背にして俺は再び歩き出す。

もちろん殺してなんかいないし、しばらくしたら目を覚ますだろう。


これに懲りたら少しは大人しくなってくれるといいんだが。ここはこんなやつばかりでもう懲りごりだ。



監視カメラもなく、無法地帯という名が相応しいここはどうやら百嵐と他の族の狭間らしい。

実際に来てみると日の当たる場所では暮らしていけないような奴らがわんさかいる。一般人が間違って足を踏み入れようものなら抜け出すことはほぼ不可能だろう。



「いやぁぁぁあ!離して!」



「大人しくしろや!」



女の声?なんでこんなとこに...。



呆れる気持ちを抑えながら、声のする方へ急ぎ足で向かうと複数の男に取り囲まれている女が見えた。



「お前らそこで何してんの。」



「あ"ぁ?誰だテメェ。」



「そんなのどうでも良いからさ、お前らちょっと相手になってくれよ?」



手応えないやつばっかでまだまだ暴れたりないんだよな。



「っなめやがって!!!」



ニヤリと挑発するように口角を上げると、面白いくらいに男たちは息ぴったり、一斉に襲いかかってきた。



とある女side



喧嘩と言って良いのかというくらいそれは一方的なもので、私は本当だったら目を瞑りたいはずその光景をなぜかまっすぐと見つめていた。


さっきまであんなに震えていたのになぜか今はこわくない。



「よっわ。」



フードを被った彼は、見惚れるような動きで次々と恐い男の人たちを倒していってしまった。



「...それで?なんでこんなところにいるわけ?」



「えっ?」



ぼーっと倒れている男の人たちを見つめていたら、突然声を掛けられ彼がすぐ目の前にいることに気づく。



「とりあえず服ちゃんと着たら?」



「...あっ、すみません。」



さっきまでのことが衝撃的すぎてすっかり忘れてた...。恥ずかしい。



乱れた服を急いで整えていると、



「これあんたのだろ?」



彼が差し出したのは私の着ていたカーディガン。



「そうです。...あ、ありがとうございます。」



彼は持っていたカーディガンを私にかけてくれて、その動作に思わずドキッと胸を鳴らした。



今、顔赤いかも。

恥ずかしさも相まって俯いてしまう。



「どうした?今更喧嘩してた俺が恐くなった?」



「そ、そんなことないです!助けてくれてありがとうございました!」



私はそんな風に勘違いされたくなくて、すぐさま言えていなかったお礼を口にした。



「あぁ。...立てる?」



「あ、はい。」



私はそう言って立ち上がろうとしたが...



「立てない?」



「...すみません。そうみたいです。」



さっきまてされていた事に対する恐怖とそれから解放された安心感のせいか、体の力が抜けてしまったらしい。



「ん。」



彼は白い手袋を外したと思ったら私に向かって手を差し出した。



「あ、ありがとうございます。」



その手をとって立ち上がろうとしたのだけれど、



「うわっ。」



力が抜けていた私がしっかりと立てるはずもなく。



「悪い、ちょっと血付いたか?」



「こちらこそごめんなさい!そんなの気にしませんから!」



彼の腕に倒れこんだ私は慌てて距離をとる。


手袋をとったのも私に血が付かないようにしてくれたからだった。彼は白いパーカーを着ていたが、至る所を返り血で染め上げていた。



私はその姿を見て、この人が"朱雀"と呼ばれる人物なのだろうかと漠然と思った。



「送る。」



え、今なんて...?


彼はさっきから挙動不審な私にそんな言葉をかけた。



「えっと、でも...。そんなことまでしていただくわけには...。」



「いいから、家どこ?」



「あ、はい。...えっと家は...、」



そんなこんなで私は半強制的に名前も顔も知らない彼に送ってもらうことになった。



「なんであんな所にいたんだ?」



私の隣を歩く彼が問う。

隣を歩いてみると、おそらく175cm以上はあるということが分かった。



「え、えっと。友達に遊ぶからある場所に来てって言われて...それで...。」



「じゃあ、騙されたわけだ。」



騙されたってそんな。



「...やっぱり、そういう事なんでしょうか。」



いや、私も薄々気づいていたはずだ。彼女たちが私のことを嫌っているっていうことを。



「あんた、どこの高校?」



「えっと、すぐそこの北高ですけど。」



「...あぁ、そう。」



その間は何?私変なこと言った?



「っていうか見ず知らずの人に簡単に教えちゃダメだろ。」



自分で聞いておいてそんなことを言った彼をチラリと盗み見ると、月夜に照らされて口元だけが微かに見える。



不思議と信用しきってしまっていて、今ならなんでも話してしまいそうだった。



〇〇side



俺は彼女を一人で帰すのは危ないと思い、家まで送ることにした。


そして彼女の向かうところが北高の近くだったため問うと、案の定彼女は北高の生徒だった。



「えっと、私の家ここです。今日は本当にありがとうございました!」



彼女はそう言って頭を勢いよく下げた。



「あぁ。」



でも、少し彼女が心配だな。呼び出した女達がこれで終わるとは思えない。



どうしたものか...。



「あ、あの!貴方は最近突然現れたっていうあの朱雀(すざく)さんですか?」



そんなことを考えていたら、彼女から思いもよらない質問を投げかけられた。



「...朱雀?俺そう呼ばれてんのか?」



「多分、そうです。」



おれ赤いものなんて身につけてないよな?なんで朱の神獣なんだ?



全身白を纏っていたはずだがと、自分の服を見渡すとかなり朱く染まっていた。



そういう事...。初めは返り血がつかないように注意していたが、最近は気にするのが面倒になってしまっていたことを思い出す。


これ、落ちないからいつも捨てることになるんだよな。



「あの...。」



「何?」



「また会えますか?」



頬を少し赤く染めた彼女が上目遣いでこちらの様子を伺っている。

彼女の表情を見ると狙ってやってないということがわかる。


なるほど?


今初めて彼女の顔をしっかりと見たけど、顔がかなり整っていることに気づく。女達が嫌がらせしたくなるんだろうな。こういうキャラとそれに拍車をかける顔立ち。



「これ、何かあったらここに連絡して。」



「えっ!?い、いいんですか?」



「あんた危なっかしいから。危なくなったら助けてやる。」



「あ、ありがとうございます。」



俺の渡した紙切れをじーっと見つめる彼女。



「それじゃあ、俺は帰るから。」



「は、はい!





貰っちゃった電話番号...。」




俺は彼女がそんな風に呟いて俺の背中を眺めていることには気づかず、欠伸をしながら家へと向かった。



「今日の掃除は終わりだな。」



俺が家に帰って来れたのは午前3時だった。

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