ハッピーエンド
みずたこ
第1話
夜になれど眠らないこの町で2人は最期の時を過ごしていた。ああもう最後なんだね、と彼女は笑った。それを聞いて、馬鹿馬鹿しい人生だったな、こんな人生なら生まれてこなければ良かった、と彼は箱の中にあった残り一本の煙草に火を付けながら言った。このビルの下では人々があんなに生き急いでいるというのに、この空間には永遠かと思えるかのように余りにも静かにゆっくりと時が流れていた。
世の中の人間は自殺を遂げることは人生の終わり方としてバットエンドだと言う。
しかし、それは本当に正しいのか?大多数がそう思っているという事によって、そう皆が勝手に思い込んでいるだけなのではないか?もし仮に、共に死にたいと願っている2人が出会い共に身を投げたとして、それは果たしてバッドエンドなのか?
現実問題生きる事など何も良い事無いじゃないか。ただひたすら苦しいだけで自傷と薬と酒と煙草に逃げる日々だ。周りの普通である人間にはこんな気持ちなど分からないのだろう。そのような人間がのうのうと日常生活を送っている事にいらつきを感じると同時に自らの現状に絶望してしまう。
私達はあなた達とは違う。その自暴自棄な少しのプライドによって自尊心を保たないと壊れてしまう。もう壊れている訳だが。
しかしどこで人生間違えたのだろうか。そもそも論として生まれて来たこと自体が人生最大の過ちなのは当然の前提条件として、死ぬ前に少し記憶を辿ることにする。が、記憶は無かった。ああそうか、あの頃の記憶は無かったんだな、解離していたんだっけと少し寂しさを抱えながら彼女はこの事を考えるのをやめた。
とりあえず酒でも飲むか、とさっきコンビニで買ったストロング系チューハイを半分くらい一気に飲み干す。味に慣れたせいか最初は美味しくないと思っていたが今はもう特に何も感じなくなった。
そんな彼女を横目に見ながらああようやく死ねるんだな、なぜここまでだらだらと生きてしまったのだろうかと思いつつ煙草はもうすぐ吸い終わる所だった。いやでももし、もし彼女がここで死ななかったとしたら、いやそんなこと絶対に無理だ彼女が死なないなんてそんな事自殺に失敗でもしない限りありえない。そんなことは絶対にさせない。確実に2人で死んでやる。彼は改めて決意した。
そして最後にsnsに投稿するか、と彼女はかばんの中から画面が割れてバキバキになったスマホを取り出しビルの下を見下ろす写真に今までありがとうと添えてsnsに投稿した。それをみて、彼も投稿するかとポケットに入っていたスマホを取り出した。彼女と同じくビルの下を見下ろす写真を撮り、さよならとだけ書き残し投稿する。
すると、彼女のスマホが何度も震え始める。きっとさっきの投稿に関する反応の通知だろう。しかし、そんなのはもう関係ない。今から死ぬのだ。後戻りはしない。
じゃあ、死ぬか。と彼女は言った。だな、と彼は答えた。二人はフェンスの淵に座り、手をつないだ。
ハッピーエンド みずたこ @namakonnnyaku
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