番外編「朝ランはイッセキニチョウです!」

「ドーブラエ・ウートラ! おはようございます! ランニング日和のいいお天気ですね!」


 休日の朝。

 公園で俺の姿を見つけた途端、アリョーナさんはこちらに向かってぶんぶんと大きく手を振った。


「わっ! どうしたんですか?」


 俺は慌てて駆け寄り、自分が着ていたランニングのパーカーを脱ぎ、アリョーナさんの身体を隠すようにかける。


「ん? どうしてアナタのパーカーをワタシに? 別に寒くありませんよ? それにワタシ、ロシア生まれだから寒さにはとっても強いですし!」


「えっ? そういうことじゃない? ジロジロ見られてる……?」


 アリョーナさんはきょろきょろと周りを見渡す。通行人はサッと目線を外したが俺は気づいていた。みんなの目線がアリョーナさんに集中していることを。老若男女問わずざわざわ……どよどよ……。


 無理もない。ジムだとあまり違和感はなかったが、アリョーナさんの服装は外だとかなり目立つ。特に今日の格好は。


「今日のために新しいランニングウェアを用意したのですが……似合ってないですかね?」

 

 アリョーナさんが履いているレギンスはぴちぴちで身体にぴったり密着していて、足やお尻の形状がくっきりとわかる。

 タンクトップも紐が細く、二の腕があらわになり丈も短いからお腹がむき出しだ。胸の形も強調されるデザインで、タンクトップというよりもスポーツブラのようだ。


「すごく似合ってるけど、身体を冷やしちゃいけないからだって?」


「自分のボディだけでなく、ワタシのことも気を遣ってくださるなんて……!」


「スパシーバ! アナタは本当に優しい人です! それじゃあ、お言葉に甘えて今日はこのパーカーお借りします。ちゃんと洗って返しますネ」


「お仕事お休みの日なのにトレーニングのご予約ありがとうございます! 本日のメニューは有酸素運動です!」


「体脂肪を燃やすには有酸素運動が一番! ランニングで身体を動かしていきましょう!」


「もちろん、疲れたり足が痛くなったら無理なくウォーキングに切り替えて下さいネ。無理に長い距離を走る必要はありません。外の景色も楽しみながら一緒にがんばりましょう!」


「ん? 筋トレだけじゃ脂肪は燃やせないのかって?」


「いいご質問です! トレーニングを重ねて立派な筋肉脳になってきましたね!」


 ――筋肉脳。日本だとそれ別の意味になっちゃうけど大丈夫かな? 


「筋トレでも身体の脂肪を燃やすことは出来ますが、どちらかというと筋肉は脂肪を燃やすガソリンみたいなものと捉えてください!」


「筋トレで筋肉量が増えると基礎代謝が上がります。基礎代謝が上がると普段の生活をしていてもエネルギー消費が増えて痩せやすい身体になります!」


「そこに脂肪を燃やす有酸素運動を加えれば、ブースト効果でさらに痩せやすくなる、というワケです!」


「有酸素運動は室内でも出来るメニューもありますから、今後お教えしますね!」



「さぁ、ランニングスタートです!」



*********************



 アリョーナさんと一緒に公園をランニングをする。


「はぁ、はぁ、はぁ、朝日が気持ちいいですねぇ!」


「朝ランニングには脂肪を燃やすこと以外にもいいことがあるんですよ。"セロトニン"はご存じですか?」


「名前は聞いたことはある? ふふっ、さすがです!」


「セロトニンというのは脳内でブンピツされるホルモンのことで、別名"シアワセホルモン"とも呼ばれています」


「セロトニンは朝日を浴びるとたくさんブンピツされます。セロトニンがブンピツされると、ストレスが軽減されたりシアワセを感じる効果があるんですヨ」


「身体を動かして心もヘルシーになるだなんてお得ですネ! あ、ぴったりな日本語をワタシ知ってます! イッセキニチョウってやつです!」


「ワタシは毎朝ランニングをしているので、毎日とってもシアワセです!」


「でも、今日はもっとシアワセ。一日の始まりをアナタとこうして共に過ごしているから」


「今日、とても楽しみにしていました。昨日までずっと雨だったからテルテルボウズまで作っちゃいました。日本にはかわいいおまじないがあるんですネ」


「ジムがなくなっちゃって不安だったけど……ワタシは本当にシアワセ者です!」


「……え? オレも、ですか? オレもシアワセ?」


「……えへへ。うれしいなぁ! 筋肉脳にシアワセ脳! これもイッセキニチョウ、ですネ!」



*********************



「はぁ、はぁ、はぁ……」


「ふぅー、お疲れ様でした。いい汗いっぱいかきましたネ! タオルとお水をどーぞ!」


「あの、今日のトレーニングはこれでおしまいなのですがこの後お時間ありますか……?」


「ワタシ、サンドイッチ作ってきたんです。鶏ハムサンドと卵サンド。せっかくだから朝ごはんこの公園で食べようと思って」


「良かったら、ワタシと一緒に朝ごはん食べませんか?」


「いいですか? ありがとうございます! あっちのベンチに座りましょう! 実はデザートも持ってきたんです! おはぎです!」


「ふふっ、今日もいい一日になりそうです!」

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厳しめでお願いしますよアリョーナさん! ~メタボなオレを甘やかすロシアントレーナーさんとの激甘減量ライフ~ ワタリ @gomenneteta

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