エピローグ

あの悪夢のような日々から約3年が経った。


あの日、私の大切な友人である月城都斗と桐生響は帰らぬ人となった。


二人ともある病院の病室で死んでいたらしい。


現場には犯人もいて、すぐに逮捕された。


被害者二人と犯人の三人が同じ学校、同じクラスに所属していた記録があることから世間で話題になり、明善高校は志願者が減り経営困難に陥った。


犯人逮捕の決め手になったのは桐生君の妹が提供した動画だ。


その動画には夜桜君が笑いながら月城君を刺し殺している映像が映っていた。


そして桐生君の首に突き刺さっていた包丁にも夜桜君の指紋がついていたことからすぐに逮捕された。


桐生君の妹はそれから閉じこもるようになりほぼ廃人に近いような状態になったらしい。


夜桜君の裁判は精神鑑定の結果無罪判決が下った。


犯人である夜桜衣珠季は、私が二年生の時に転校してきて、二人と一緒に生徒会の雑務などをこなしてくれた。


だが、小さな火種から我々の関係は悪化して、私は夜桜君を拷問したりもした。


「久しぶりだね、彩華」


今私が話しかけているお墓に刻まれている千宮司彩華も夜桜君に殺された。


「君を殺した疑いは晴らされたよ」


一時期は私が容疑者として挙げられたが、夜桜君が逮捕後に自供したらしい。


夜桜君は結果として彩華と、佐賀暮多鶴と、月城君と、桐生響君を殺した殺人鬼とされている。


「私もかつての後輩が殺人鬼として世間から蔑まれている姿は見たくない」


だから


「私が終わらせないといけないね」


最後にもう一度墓に話しかける。


「私も今日の内に“そっち“に行くから待っておいてくれ」


墓を後にしてバスに乗る。


私は今、家族とは絶縁状態だ。


ただ、勘当を宣言されたときに多額のお金を渡された。


だから今は何とか生活できていた。


まぁそれも今日で終わりなのだが。


住んでいるアパートに戻ると清掃用の服と、ほぼ全財産を費やしてある筋から極秘に受けとった拳銃を持つ。


そこからは電車で夜桜君がいる精神病院に行く。


病院の前まで来たら、清掃用の服を着て、清掃員に変装する。


平然と受付を通りすぎ、中に侵入する。


「......」


ここからはただ淡々と夜桜君を探すだけだ。


やはり精神病院の患者たちを見るのはのは心が痛い。


夜桜君もこうなっているかと思うと姿を見つけるのが怖い。


食堂の前に来た。


入り口から食堂を見渡すと


「夜桜さん。ご飯ですよ~」


「!?」


聞いたことがある名前を呼ぶ看護師の声がした。


チラッと食堂を見渡すと


「はい、どうぞ」


白飯をスプーンに乗せて食べさせようとしている看護師と、


「あなたじゃない!」


そう言って、それを払いのける入院着を来た女の子がいた。


「都斗を連れてきて!都斗に食べさせてほしいの!」


「...っ!」


その言葉を聞いて、怒りが湧いてくる。


自分で恋人を殺しておいて何を言っている!


「君が殺したんだろうが!君が、私たちの三人の関係を...!」


思わず声に出していた。


もう夜桜君の姿を見て、感情が抑えきれず所持していた拳銃を上に向け発砲する。


「キャッ!!」


すぐにその看護師は食堂から出て行った。


だが、あまり時間がない。


すぐに警備員が押し寄せてくるに違いない。


だから速やかに”自分のすべきこと”を遂行させなければ。


私はまだ「都斗...都斗」と呟いているかつての後輩に歩み寄る。


「どんな気分だい?」


私が声を掛けると上を向いた。


その目のはもう何も映ってなかった。


「自分の殺した恋人の名前をささやき続けるのは」


そう言うと夜桜君は怒号を上げた。


「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ!お前やあのクソ女が私に都斗を殺させたんだ!!!」


「......」


もう何も映していなかった瞳に憎しみが映る。


「とりあえず君は桐生君と月城君に謝るべきだ」


「は?何を言っている。あの二人はもう...」


「いや、会う方法ならあるよ」


「どういうこ」


言い終わる前に頭めがけて発砲する。


後頭部から脳みそが飛び出す。


どうやら即死のようだ。


「何をやってるんだ!」


警備員の声がする。


声がした方を見ると


「...あ」


私は、見た。


何人かの警備員と大勢の野次馬の中に、私の親友である二人がいるのを。


「...先輩。自分から宣言したのにいくら何でもかかり過ぎなんじゃないんですか?」


いつものように冷たく言い放つ桐生君。


「先輩。いきなり呼び出されて駆け付けた身にもなってくださいよ」


呆れたような笑みを浮かべる月城君。


「...そう、だな」


頬を涙が覆う。


「後輩をこんなに待たせて、私はダメな先輩だよな」


「ほら、早く行きますよ先輩」


「ああ、そうだな」


親友の声に返答して私は


自分の頭に拳銃を押し付け、引き金を引いた。

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ざまぁを果たした美少女が転校してきたが、どうやら過去のことを悔いているようなので励ましたらその子と周りが病んだ 北宮冬馬 @kitamiyatoma

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