そして二人は永遠に

衣珠季ちゃんの意識が完全に途切れ倒れる。


「はぁー。やっと終わったよ」


これで一通り大仕事が終わった。


後は後始末をしなければならない。


私が都斗君と永遠に一緒にいられるための後始末を。


かつて都斗君だった”もの”の正面に行き、静かに”それ”を見下ろす。


「...ぐすっ」


”それ”を見ていると自然に涙が溢れてくる。


その涙はうれし涙でもあり、悲しい涙でもある。


「これで...これで都斗君は救われたんだね」


もう私を捨てるなんて言わないよね?


もう私を置いて他の女と生活するなんてこともないよね?


もう私のそばから離れることなんてないよね?


心の中で浮かんできた疑問に答える声はない。


「答えを聞くには私も早く”あっち”に行かなくちゃいけないよね」


そう、都斗君が待っている”あっち”へ。


私は持っていた手袋をはめ、あらかじめ用意していた包丁を持つ。


そのまま、その包丁を眠っている衣珠季ちゃんに思いっきり握らせる。


後が残るように思いっきり。


「これは衣珠季ちゃんが千宮司先輩に罪を着せるためにやったことだよね」


千宮司先輩に悪いことをしたと思う。


ただ、今までさんざん雑用を手伝わされたんだからそのつけということでいいよね?


包丁を衣珠季ちゃんから放して再び都斗君だった”もの”に向き直る。


「あ...」


思い出す。


中学校の時に一緒に遊んだこと。


あの尊い日々を。


でも、今日から。


今日からもう一度。


「もう一度あの日々が送れるんだよね」


今行くよ都斗君。


「今度こそずっと一緒だよ」


そう言って、持っていた包丁を自分の首に深々と突き刺した。


------------------


「大丈夫ですか!?」


誰かの声が聞こえる。


「まだ息がある!」


誰だ?私の体を揺さぶっているのは。


「特に外傷もないぞ」


やめろ。触るな。私の体に軽々しく触れていいのは都斗だけだ。


「聞こえますか!?」


あーイライラする。


触るなっつってんだろ。


「聞こえていたら返事をしてください!」


「私に触れるな!!!!」


そう叫び、目を勢いよく開ける。


すると、目に映ったのは病室にいる何人かの救急隊と警察官だった。


「なんだこれは...!?」


「これはひどいな...」


ベットの方で警察官がつらそうにつぶやく。


私もベットの近くにあるものを見ようとする。


「見ちゃだめだ!」


救急隊員が私を制止しようとしたが、その手を払いのけ、警察官の目線の先を除く。


そこには


「!?」


かつて都斗君だった”何か”と、首から大量の血を流して倒れている桐生響だった。


それを見て私が取り乱すと予測して救急隊員が体を押さえてくる。


だが、私に口から洩れたのは。


「クククッ...クハハハハハハハハハハハ!」


今までで一番狂気じみた笑い声だった。


「ハハハハハッ!ざまぁみろ!お前みたいなイカれ女なんて死んで当然なんだよ!ヒーヤハハハハハハハハハハ!!!!!!」


死体に向かって思わず中指を立てる。


「き、君落ち着いて!」


「落ち着いてる落ち着いてる。ただただ愉快で仕方ないんだよ!このクソ女が死んだことがさ!」


救急隊員に押さえつけられても笑い声をあげる。


「は、早く!早く彼女をここから連れ出すんだ!」


強制退出されるまで、私の笑い声が収まることはなかった。

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