第21話

ヒルツ大尉西へ・22・外伝 緑川ゆきこ


緑川ゆきこは誰にでも優しい。


ゆきこはとりたてて美人というわけではない、化粧も公の場に行く以外はあまりしない。さほど興味がないのだ。


幼いころから頭が良かった。おかげで奨学金がもらえ1等看護資格を取ることが出来た。軍事特別法令で医者不在時、高度な医療行為が許される「とらじろうハウス」の医療費が節約出来れば・・・


全ての学生は軍事教練が義務づけられていた。

運動が苦手だったゆきこはいつも教官に怒鳴られている

そんな有紀子も、射撃だけは好きだった。雑念を消し、より深く、より深く自分と対峙し一点に集中する、そしてそっと引き金を絞る。HIT!

ゆきこの性分に合っていたのかもしれない

卒業間近には学部の代表となり大会で優勝するまでとなった

スナイパーの適正あり

奨学金の契約に従い病院で働き出した頃

赤い令状が彼女の元に届きました、その日、彼女はためらい無く、利き腕の人差し指を医療用グラインダーで切落し、焼却しました。

徴兵拒否は極刑に値します。

裁判にかけられる寸前、ヒルツの暴力沙汰の時よしみを得た長谷川巌中将がもみ消した。では衛生兵に、との声も上がったが

「戦場が恐ろしくて指を切り落とす様な軟弱者が役に立つかー!」

の一喝でその声は沈黙した、下手に逆らうと自分の身の安全が脅かされる


ゆきこに思いを寄せる者も何名かいるにはいましたが


「一緒にと「とらじろうハウス」で生活してくれますか?」


彼女の望みに応える者はいませんでした。

ゆきこには帰る場所があります。彼女の望む場所

相変わらず彼女の周りには男っ気はないのですが、たまに現れては子供たちに悪いことばかり教える変な兵隊さんがいます

どこか懐かしいあのキカン坊を思い出させる人・・・


元気な子供たちの中には笑うことが出来ない子、知らない子もいます

そんな子には無理にやさしくしません、そっと見守ります

食事だけは別です

みんなが食べ終わった後、その子と食べます

その子が食べ始めるまでゆきこもはしをつけません

いつまでも食べてくれない時は食べます

一言か二言声をかけてその場を離れます

その子が一人になり食べ終えて眠った頃、彼女はそっと抱いて

布団に寝かせます

その子も今ではゆきこに頬を撫でられるのが好きです

泣きじゃくる子もゆきこに涙をぬぐわれると泣き止みます

ゆきこは今日も目には見えない人差し指で子供たちのほほを優しく

撫でます。そしてこれからも・・・ずっと。


この曲は聞いてください

The Birthday / ピアノ

https://www.youtube.com/watch?v=a-vdB3xpH70

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ヒルツ大尉西へ @hikobou1

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