路面電車駅前のコンビニ

つばきとよたろう

第1話 路面電車駅前のコンビニ

 路面電車の停車場の近くにある深夜のコンビニは、外のひそひそ話が聞こえてきそうなほど、静かだった。それを歓迎しているように、ありったけ詰め込んだ陳列棚の商品がひしめき合っていた。夜中の十二時。この時間帯になると、客足はほとんど途絶えてしまう。商品の補充や注文、賞味期限切れの廃棄も終わって、後は来ない客をレジ前でひたすら待つしかすることはなかった。じっと立っていると頭がぼんやりして、欠伸が出た。

 深夜のコンビニのバイトは、正直苦手だった。前の子が急に辞めて、誰もいないから入ってくれと店長にしつこく頼まれ、仕方なく引き受けたのだ。引き受けるんじゃなかった。と何かの物音に気付いたのは、そんな事を考えていた時だった。誰もいない店内を見渡し、視線がたどり着いたのは入口のガラス扉だった。眠気が一気に吹き飛んだ。誰かいる。雨蛙の吸盤のようにガラス扉に両手と顔を押し付ける人影が見えた。あまりの異様さに背筋がぞくっとした。歪んだ顔は長い髪の毛を見なければ、女と分からなかった。女は必死に店内を覗くようにガラス扉に張り付いている。

 何なんだと思いながら、怖くて目が離せなかった。ガラス扉をドンと叩き、滑るようにガラスをこすって耳障りな音を鳴らしている。何やってるんだろう。早く帰ってくれないかな。それが一時間続いて、急に女の姿が消えた。ガラス扉が自動で開いて、大学生風の男がジャージ姿で入ってきた。入ってくると同時に店内の明かりが一瞬消えて、すぐに点った。大学生風の男はお菓子と弁当を買って店を出て行った。その時にも明かりが一瞬消えた。ガラス扉が閉まった時に、ふと気付いた。入口のガラス扉は、前に立つと自動に開くから女がやったように、手や顔を押し付けることは出来ないのだ。体中に鳥肌が立って、入口のガラス扉に目が行った。

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