小説を読んで爽快さや愉快さを感じたい人は絶対に読まないでください(誉め言葉)。
導入から容赦ない地獄が始まります。
裕福な家庭で育った少女は、異国にて家族を殺され、その犯人たちに自分の尊厳も奪われます。ここでストレス耐性のない現代人読者は異世界に転生するかVRMMOの世界へと切り替わってくれと甘えた期待を抱きますが、作者(もしくは現実問題として少年兵の実態)は容赦ないです。
少女は犯人グループである反政府ゲリラの仲間になることを強制され、自分がされたような略奪を民間人に行い公権力と敵対、そして男たちにとって都合の良い存在と成り果てる……。少女に残された生きる意味とは『復讐』のみ。これは読む催吐薬ですよ(誉め言葉)。辛すぎる。
それでも読み進めてしまうのは何故か。
少女が得ていた特殊能力とひたむきな戦闘訓練が、無謀とも言える男兵士数十人皆殺しを実行可能にできるんじゃないかという希望が生まれてきたから。
よく復讐は何も生まないとか言われますが、このような状況ではむしろ強烈な憎悪がなければ生存を諦めるでしょう(もしくは他の被害少女のように自分を正当化するよう思い込むか)。
特殊能力についはオカルトっぽいものの、実証データを蓄積することで法則性が見出されていくし、現代近未来戦場におけるテクノロジー兵器の存在もSF作品としての魅力があります。
なにより作者の筆力ですよ! 少女の内面感情や戦闘状況が派手さや大げさにしそうなところを、あえて淡泊さや緻密さで描写することで読者にリアリティを想起させています。カウントダウンしていく緊迫したアクションシーンはスピード感溢れて、誰しもが少女の復讐の最後を見届けたくなるでしょう。後半からは一気読み確実! 続編も期待大です。
僕の認識の中で、これはコーヒーとかに近いかもしれない。いや、ちょっと違うか。物凄く苦いけど栄養豊富、みたいな。パッと出せるのだと、青汁とか? サンマのハラワタとか。はたしてハラワタの栄養価が高いとかそういった事実は知らないのだけれど、感覚的にはそういう感じ。
こういう思想のもとに小説を書いてくれる人がまだ存在するという事実を確認することができてとても嬉しい。こういう思想、というのは世の中には残酷と言われて然るものが存在し、それを忘れるべきではない、及びそれを表現するのにフィクションが貢献できる、といった考え方だ。
残酷な表現というのはなろうにもカクヨムにも溢れているように思うけれど、そう言う思想とセットであるものは少ないように思う。ひょっとしたらそんなことないのかもしれないけど。結局は僕の主観だ。
見当はずれだったり、馬鹿らしいかもしれないけど、この小説を読みながらそんなことを考えていた。そのことを誰かに知ってもらいたくてこの文章を書いた。
予防線として、思想だけが理由で読んでいるのではないということを追記しておく。文体だとか、描写内容だとか、そんなこんなにも惹かれてこの作者の作品を読んでいる。どの要素もこのカクヨムで上澄みの部類だと思う。それだけでも推薦する価値がある。
同作家の他の作品も読んでみて欲しい。面白かったから。