もしかして、異世界?
大隅 スミヲ
もしかして、異世界?
なぜこんなことが起きたのか、私には理解できなかった。
ある日の深夜、私は酔って帰宅した。
同期が転職することとなり、別れの盃と題した同期飲みをしてきたのだ。
入社10年。節目といえば節目だった。
会社に残っている同期は、私を含めて3人。入社式の時は8人いたはずだった。
最初の半年で1人が辞め、3年目でまた1人が辞めと、だんだんと同期の数は少なくなっていった。私の仕事は技術職であるため、転職には有利だといわれていた。
しかし、私は転職をする気はなかった。
結婚して、子どもが出来たら、転職しづらくなるぞ。
辞めていく同期はそんなことを言っていた。
一緒に飲んだ残り二人の同期は、どちらも結婚しており、子どももいた。
ビールを2杯とサワーを何杯か。アルコールに弱い私には、それだけでも十分に酔っぱらうことが出来た。
周りに人がいる時は大丈夫だったが、ひとりになった途端に酔いが回ってきた。脚に力が入らなくなり、その場にしゃがみこんでしまう。
最寄り駅から自宅までは歩いて5分の距離だったが、家に着くまでに30分近くの時間を要してしまった。
フラフラと歩きながら、何とか自宅マンションの階段を昇りきった私は玄関のドアを開けたところで力尽きた。
目が覚めた時、私はソファーの上で眠っていた。
頭を持ち上げようとすると、鈍い痛みが走る。
息が酒臭い。
そうだ、酔っぱらって帰ってきて、そのまま眠ってしまったのだ。
そこまで気づいた時、私は飛び起きた。
どこ、ここ。
慌てて部屋の中を見回す。部屋の配置に違和感は無い。
しかし、置かれている家具は見覚えのないものばかりだった。
どうなってんの、これ。
つけた覚えのないレースのカーテンを開けて、外の景色に目を向ける。
見慣れた景色。
そこに広がっているのは、私の知っている景色だった。
なにこれ、異世界?
平行世界ってやつなの?
私は混乱する頭を何とか整理しようと頑張った。
しかし、頭の中に浮かんでくるのは、通勤途中にスマホで読んでいるWEB小説の異世界に転生した話ばかりだった。
なんなの、これ。
私は焦りながらも、自分に落ち着けと言い聞かせ続けた。
ふと、ソファーのすぐ近くにあるローテーブルの上にミネラルウォーターのペットボトルと一枚の紙が置かれているのが目に入った。
そこには、女性のものと思われる綺麗な字で置手紙が残されていた。
『酔っぱらって帰ってきたようなので、そのまま寝かしておきました。鍵はポストの中に入れておいてください』
手紙の横にはピンク色の花びらを模したキーホルダーの着いた鍵が置かれていた。鍵の形状は自分の持っているものと、とても似ている。
なんなの、これ。
誰よ、あんた。
もしかして、手紙を残していったのは、平行世界の私?
混乱したままの私は玄関に向かい、外へと出た。
見慣れた廊下。
やはり、ここは私の住むマンションだ。
ここは平行世界なんだ。
どうしよう。どうしたら、元の世界に戻れるの。
そして、振り返る。
見慣れた玄関のドア。
そして、表札のところには、お隣さんの名前が書かれていた。
もしかして、異世界? 大隅 スミヲ @smee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます