エピローグ「とりまチェンジで」
そうして、あの騒動から数日の時が経ち。
「い~ち……! に、に~い……さ、さ……!」
「おいレンジャードリゼラ! もっとケツ落とせケツを! 姿勢を取れ!」
「も、もう、無理……!」
「答えは『レンジャー』だろ! レンジャーは絶対なんだよ! 三角筋が泣いてるよ! はい、またイチからカウントな。レンジャーアナスタシアも最初から!」
「わ、私も……!?」
私は“二人の姉”に向け、庭先で竹刀片手にビシバシ指導を行っていた。先日の一件で、二人なりに思うことがあったらしい。
「じゃあ、イチ数えられたら休憩! はい、姿勢!」
「「は、はいぃ~~~……!」」
そうしてヘトヘトになってへたり込む二人を……私はちょっとはにかんだ笑顔で、見ている。
こんな汗だくになる体力運動なんて、二人は絶対にイヤだろうに。
だけどそれを押して、二人は末妹に歩み寄ろうとしてくれている。私がこっそり、鍛練を積んでいると二人があの一件で知ったから。皆でやれることを、見つけたから。
……まぁ、だからといって甘くはしないんだけどな! 命に関わるんだから手は抜かん! その溜まった乳酸がいつか生死を分けるんだよ!!
「……ほどほどにね、シンデレラ」
「ん、お、おぉ……うっす」
「あ……汗で絆創膏が。こっちにいらっしゃい」
「お、おっす……」
……そして。
わざわざ庭先にロッキングチェアなんて引っ張り出してきて、こちらを眺めるお、お、おおおおおおおお母さおかおかおかおかおかお母さんも、一緒にいてくれるもんだからついシゴキにも力が入る。
「……」
「……」
優しい手つきで、切った頬に絆創膏を貼ってくれる女性。この時間が、なんとも……むず痒い。
背後で二人の姉がニヤニヤしている視線を感じ「次はどの運動させてひいひい言わせてやろうか」と考えていれば。
薬箱をパタンと閉める母が、ポツリと呟く。
「……今度」
「な、なに?」
「今度、あなたのお母さんのお墓参りに行きましょうね。色々と、報告したいことがあるから」
「っ……う、うん。その……私も……久しぶりに愚痴じゃなくて、良い報告ができそうだし……」
「あら、それはどんな?」
「……内緒」
背後から二つの笑い声。それを聞いて私も目を三角にするが……、
「ふふ、ふふふ……♪」
……お母さんの、こんな柔らかい笑顔を見れば、ね。こんな笑顔さえ、私のせいで封じさせてたんだって思うと。さすがの私でも、多少は大人しくなる。
「……ちぇ」
母譲りの金髪をガリガリとかく。ちょっとやりにくくなっちゃったな、と。
……でも、悪くない。そう、誰も悪くない。そんな日々が……少し嬉しい。
「ふ──」
微笑ましく温かい笑い声に心を満たされながら、私はニヒルに唇を歪めて、太陽を見る。まるで私達の前途を照らしているかのような、明るい太陽を!
そう、私達の平和な日常は、まだ始まったばかり──、
ガンッガンッ!
遠慮の無いノックの音に、私は青筋をピキらせた。今シンデレラちゃんが締めに入ってたでしょうが!
「誰だよ、こんな空気の読めねぇ……」
私は靴を脱ぎ、ヒョイッと身を翻らせて窓から部屋に侵入。庭から玄関まで、家を回り込むの面倒だし。
「はいはい、どちらさん~」
そうして私は雑に、ノックされ続ける扉を開けて──、
「──見つけたよ、シンデレラ殿」
「そぉい!」
秒でドアを閉めた。しかし、王子の爪先によるインターセプトが光る!
「冷たいじゃないか、シンデレラ殿?」
「王子ぃ……どうやってこの場所が……!」
あの後、身内にも口止めしといたのになんでバレたし!
差し込まれた足にドアを閉められないでいれば、ギギギとせめぎ合うドアの間から、王子は爽やかに笑いながら何かを隙間に差し入れた。
「お忘れ物ですよ」
「あぁん? ……あ」
それ……王城の会員証!?
あ、やば! 個人情報最初からダダ漏れだったじゃん! きっちり領収書まで! 支払いは親父って言ったじゃん!
隙間からそれを差し出した王子様は、その瞳に妖しい光を湛えて肩を揺らしている。
「ふ、ふふふ……ボクから逃げられるとは思わないことだね、シンデレラ殿」
「キャラ変した?」
しかもヤンデレ? 冷笑系生意気ショタのくせに、安易に属性を増やすな! 将来有望だね♡
「ぐぬぬぬぬ……!」
「さぁ、シンデレラ殿! ボクと是非、お友達から始めてください!」
「このピュアボーイめ!」
今は新しい家族で胸がいっぱいで、家族を増やすことは考えてないんだわ! 王族なんて親戚めっちゃ多そうだし!
王子に連れ添う警備の兵達や、何事かと集まってきた私の家族が苦笑して眺める中。
私はドアをひたすらに押しながら、もういっぱいいっぱいになりながら叫ぶのだった。
「と、とりまっ、チェンジで~~~~~~~~~~~~~~!!」
シンデレラは思春期っ!~ホストクラブは突然に~ 黎明煌 @reimeikou
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