迷宮狂走曲〜あの深淵《ダンジョン》へと誘う声〜

宮迫宗一郎

オープニング

――この世界に突如として「ダンジョン」が現れてから、幾星霜。


ダンジョンの最奥で蠢くは、世界を滅ぼさんとする邪悪な神、すなわち邪神。ダンジョンから這い出たるは、無限に生み出される邪神の尖兵、すなわちモンスターなり。


それら悪しきものどもから世界を救わんと立ち上がったのは、神より加護を賜りし「勇者」。彼は神より遣わされし天使と共にモンスターの軍勢へと立ち向かい、尽くをダンジョンへと追い返し、果てはダンジョン最奥に鎮座する邪神のもとまでたどり着いたが、しかし。


勇者と天使の振るう剣は、あと一歩のところで邪神に届かず。勇者は自らの命と引き換えに邪神をダンジョンごと封印し、世界には束の間の平穏が訪れた。


その平穏もいずれ終わる。勇者が施した封印は年を追うごとに弱まり、封印の綻びからモンスターが溢れ滅びた国は数知れず。やがて封印は解かれ、世界は再びモンスターによって蹂躙されるであろう。今こそダンジョンの最奥へとたどり着き、「元凶」を破壊せねばならない。


世界の終わりから目を逸らし、今日を生きんがために一攫千金を狙う者よ。


世界の終わりを受け入れ、自らの欲望を満たさんと力を求める者よ。


そして……勇者の遺志を、かつて勇者が果たせなかった使命を継ぎし者よ。


汝らが目指すべきは、【冒険都市ミニアスケイジ】。かつて勇者が拠点としていた集落を起源とした都市国家にして、ダンジョンの脅威から世界を守るための最前線基地である。


世界がダンジョンを攻略する「冒険者」を求めている。【ミニアスケイジ】からダンジョンへと赴くがいい。汝らが求めるものは、全てそこにあるだろう。

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とある街の酒場で、そんな吟遊詩人のうたを聞いた【あなた】は、どうしてだかその詩に抗い難い魅力のようなものを感じた。


【あなた】は、この世界をさすらう旅人だ。もとより当てのない旅であり、これといった目的を持たない【あなた】は、自らの好奇心に従って次の行き先を【ミニアスケイジ】へと定めることにした。


そうして紆余曲折を経て【ミニアスケイジ】へとたどり着いた【あなた】を迎えたのは、巨大な石造りの街並みであった。立ち並ぶ家屋はしかし灰色一色ではなく、ダンジョンから採掘されたという色とりどりの鉱石が使われており、【あなた】の目を楽しませるだろう。


規則正しく敷き詰められた石畳の大通りには多くの人々が行き交い、あちこちから露店の主による客引きの声が聞こえてくる。色々な場所を旅してきた【あなた】であるが、ここまで活気に満ちた都市は初めてかもしれない。


「ようこそ【ミニアスケイジ】へ。我々は貴方を歓迎いたします」


好奇心に従ってすぐにでも街を探検したくなった【あなた】だったが、【あなた】はまずこの都市の決まりに従って役所で届け出をしなければならない。世界中から人々がやってくるこの都市では、治安維持のためにも個人情報の登録を義務付けられているのだ。


「それでは、この書類に必要事項の記入をお願いいたします。ご希望の方には代筆も承っております」


幸いなことに【あなた】は字が書けるため、受付の人に言われた通りに書類の作成に取り掛かったのだが……ふと、名前を記入する欄で【あなた】の手が止まる。


【あなた】の名前は――



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 自分で入力する

▶デフォルトネームを使用する

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――【あなた】の名前は、何らかの理由で失われて久しい。故郷を失ったのと同時に名前も失ったのかもしれないし、孤児ゆえに最初から名前がなかったのかもしれない。


とはいえ、緩やかに滅びつつあるこの世界において、そういった事情で名前を持たない人間は珍しくない。自分で名前をつけたり、通称をそのまま名前として使っている人はたくさんいる。


少しだけ視線を彷徨わせた【あなた】だったが、ふと本棚に【勇者アルバートの冒険譚】と書かれた本を見つけ、そこから適当に【バート】という名前をでっち上げて書類に記載した。以後、【あなた】の名前はこの都市を出るまで【バート】となる。


そうしてしばらく書き進めていくと、再びあなたの手が止まる。この書類には、【あなた】の生い立ちがどのようなものであったかを書く必要がある。


【あなた】は――



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▶生い立ちに特筆すべき点はない

 とある傭兵団に育てられた

 由緒正しい家柄である

 森で狩りをして暮らしていた

 親が敬虔な信徒だった

 物心ついた頃にはスラムにいた

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――【あなた】の生い立ちに特筆すべき点はない。【あなた】は一般的な家庭に生まれたため、【あなた】の基礎的な能力は何かに偏ったりせず均等である。


もしかすると【あなた】には自身も知らない出生の秘密があったり、過去を隠すために嘘をついているかもしれないが、少なくとも【あなた】はこの街にいる間はそのような出生であるように振る舞うし、【あなた】の基礎的な能力と出生に矛盾はない。【あなた】の生い立ちを疑うものは誰もいないだろう。


ただ、【あなた】は――



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【ステータスボーナス:6】


 決定

▶やりなおし

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【ステータスボーナス:12】


 決定

▶やりなおし

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【ステータスボーナス:7】


 決定

▶やりなおし

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【ステータスボーナス:36】


▶決定

 やりなおし

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――【あなた】は旅をしてきた中でたくさんの努力を重ねてきた。【あなた】は同時期にこの都市にやってきた者の中でも特に優秀だろう。とはいえ、ダンジョンから得られる力はそういった能力差を簡単に覆してしまう。この都市でも優秀な人間となれるかどうかは【あなた】次第だ。


その後は特に問題なく書類を完成させた【あなた】は、最後に水晶玉のようなものに手を触れるように言われた。説明によれば、これはいわゆる魔術的な品であるらしい。もしも【あなた】に異世界地球の知識があれば、「指紋登録とか網膜認証のようなものか」という感想を抱いたことだろう。


おそらく書類に記載した内容よりも、この水晶玉モドキに登録される何かしらの情報こそが重要なのだろう、と【あなた】は当たりをつけた。とはいえ、言う通りにしないとこの都市から追い出されてしまうため、【あなた】は水晶玉モドキに触れて登録を済ませた。


「以上で手続きは終わりになります。こちらのカードをお持ちください。この都市での身分書となります」


【あなた】は半透明の不思議なカードを受け取ると、受付の人に言われるままカードに手をかざした。すると「バート Lv.1」という文字が空中に映し出された。どうやらこのカードには自分に関する任意の情報を映し出す機能があるらしい。お約束に則って言うのであれば「ステータスオープン」というやつだろう。


「再発行は可能ですが、紛失によって生じたトラブルは全て自己責任となりますので、なくさないようにご注意ください」


手続きが終わった【あなた】は、続いて宿を探し始めた。この都市は人通りが多い場所と少ない場所とで極端に治安の良さが違うらしく、治安の良い場所で野宿すれば通報されてしょっ引かれるし、かといって人気ひとけのない場所で野宿などしようものなら、翌日【あなた】が目を覚ます頃には何もかも――それこそ、人間としての尊厳すらも――奪い尽くされていることだろう。


この都市にはダンジョンで強大な力を手に入れた人間がゴロゴロいるため、今の【あなた】はそういった人間に襲われてしまえば全く抵抗できない。きちんとした宿泊施設であれば安全が保証されるため、【あなた】がそういった宿泊施設を見つけるのは急務であった。


「いらっしゃいませ! この街は初めてですか? でしたらぜひこの【止まり木亭】をご利用ください! お安くしておきますよ!」


今日の【あなた】は運が良かったようで、首尾よく良心的な値段で宿泊できる宿酒場を見つけることができた。この石造りの都市では珍しく木造の建物であり、ログハウスのような内装は木の暖かみがあり、とても雰囲気が良い。


ただし、「良心的な値段」とは言っても「この都市基準での良心的な値段」である。上手くいけば一攫千金を狙えるダンジョンなどというものが存在しているからか、この都市は全体的に物価が高い。【あなた】は路銀の大半を失ってしまった。


とはいえ、天は【あなた】を見捨てなかった。仮に無一文になったとしても、馬小屋の片隅で良ければ貸してもらえるようだ。まぁ、そうは言ってもきちんとした寝床で眠りたいのが人情というものである。


ならばどうするか。そう、ダンジョンのせいで物価が高いのならば、ダンジョンで稼げばよいのである。次に【あなた】が向かった先は【冒険者ギルド】だ。


【あなた】が巨大な石造りの建物の扉を開いた瞬間、【あなた】は突風が吹き荒れたかのように錯覚した。ダンジョンで手に入れた宝の売買から始まる交渉劇、併設された酒場での乱痴気騒ぎ、有用な武器や防具について熱く交わされる議論――ダンジョン攻略に携わる人々が奏でる狂想曲に、【あなた】はただただ圧倒されたのだ。


しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。今から【あなた】もあの熱狂の渦へと身を投じるのだ。この程度で圧倒されていてはダンジョン攻略など夢のまた夢であろう。


「【冒険者ギルド】へようこそ。【冒険者】登録ですか? 承知いたしました。少々お待ちくださいませ」


【冒険者】とは、ダンジョンに潜って探索したりモンスターを退治したりする者のことだ。そして、その【冒険者】およびダンジョンの管理をしている組織が【冒険者ギルド】である。


ダンジョンへの入口は【ギルド】が厳重に管理している。何の力も持たない一般人がダンジョンに迷い込もうものならたちまちモンスターに襲われて命を落とすだろうし、なにかの拍子でダンジョン入口が完全に開放されてしまえば【ミニアスケイジ】どころか世界滅亡待ったなしであるため、当然の処置と言える。


そのため、ダンジョンに潜るためには必ず【ギルド】で【冒険者】として登録をしなければならない。そのための手数料で【あなた】は残る路銀を全て失ってしまうが、この都市に来たばかりの今の【あなた】には「カネ」もなければ「コネ」もない。【冒険者】以外の職にありつける可能性は低いので、やむを得ないだろう。


「ところで、貴方がダンジョンに潜る理由は何ですか?」


途中、受付の人はそのようなことを聞いてきた。それを聞いてどうするんだと【あなた】は疑問に思うかもしれないが、受付の人によれば、【冒険者】は複数人で行動すること、つまりパーティを組むことが推奨されているようだ。その際に同じ目的の人間同士でパーティを組んだ方がトラブルも少ないだろう、ということで、【冒険者】をそのスタンスごとに大きく3つのカテゴリに分けているらしい。


すなわち、


富を求めてダンジョンへと潜る者。ダンジョンで得られる宝箱を目当てに、日々の糧を得るためだけにダンジョンへと赴く【中道】の【冒険者】。


享楽に溺れる者。どうせ世界が滅びるならば、と自らの欲望を満たすための力をダンジョンに求める【外道】の【冒険者】。


かつて勇者が果たせなかった使命を果たさんとする者。今度こそ世界に平和をもたらすため、ダンジョンの最奥を目指す【正道】の【冒険者】。


この3種類である。


【あなた】は――



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▶【中道】をゆく

 【外道】をゆく

 【正道】をゆく

        

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――【あなた】は【中道】をゆくことにした。もとより【あなた】は当てのない旅をしていた人間であり、今のところ特別な主義主張は持ち合わせていない。そうでなくとも【あなた】は宿代を稼ぐためにここへ来たのだし、【中道】といってもいいだろう。


もっとも、その過程で【あなた】が何を為すかはまだ分からない。善行を積むこともあるだろうし、悪行に手を染めるかもしれない。それは今後の【あなた】次第だ。あくまでこれは【冒険者】としてのスタンスを問われているに過ぎない。


【外道】と悪はイコールではないし、【正道】と善もイコールではない。世の中には他人に迷惑をかけない範囲で好き勝手する人間もいるし、金・地位・名誉のために世界を救おうとする人間だっているのである。


「これで、今日から貴方は【冒険者】です。【ギルド】職員一同、貴方のこれからのご活躍をお祈り申し上げます」


【冒険者】となった【あなた】は、さっそく同じ新人【冒険者】でパーティを組むことにした。パーティメンバーは【あなた】よりも若い少年と少女、同年代の男性と女性、パーティリーダーの中年男性、そして【あなた】の計6人である。


全員が同じ【中道】のスタンスということもあり、【あなた】たちはすっかり意気投合。【ギルド】から初心者用装備一式を受け取った【あなた】たちは、さっそくダンジョンに潜ってみよう、ということになった。


こうして、【あなた】の冒険は――






「う、うわあぁぁぁぁぁ!?」


「嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない!!!」


「待ってくれ! 置いていかないで――ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」



――絶望からのスタートとなった。


切っ掛けは、パーティメンバーの少年がダンジョン内で見つけた宝箱を不用意に開けたことだった。


ダンジョン内の宝箱には罠が仕掛けられていることがある、ということは【あなた】たちも聞いたことがあった。しかし、【あなた】たちがいたのはダンジョン入口の近くだった。そのため、こんな場所に置いてあるような宝箱に危険な罠など仕掛けられていないだろう、とタカをくくっていたのだ。


そうして【あなた】たちが宝箱を開けた次の瞬間、周囲の景色が一変した。【あなた】たちが開けた宝箱には、触れた者をどこか別の場所にワープさせてしまうという悪辣な罠が仕掛けられていたのである。


さらに悪いことに、ワープした先には見るからに【あなた】たちよりも強そうなモンスターの群れが待ち受けていた。凶悪なモンスターに囲まれた【あなた】たちがパニックに陥るまで、そう長くは掛からなかった。


最初にモンスターの餌食になったのは、同年代の男性だった。巨大な蚯蚓のようなモンスターが口を開けたかと思うと、次の瞬間には下半身だけとなっていた。ワンテンポ遅れて思い出したかのように断面図から噴水のように血が吹き出し、やがて彼の下半身は光の粒子となってダンジョンの床に溶けていくように消えた。


続いて少年がゲル状のモンスターの体内に取り込まれて、全身の皮膚を溶かされてモンスターの体内を真っ赤に染め上げる。少女は二足歩行する豚のようなモンスターに髪を乱暴に掴まれて、どこかへと引きずられていった。


そして同年代の女性とパーティリーダーの中年男性が、粘液まみれの触手を全身から生やした奇妙なモンスターに捕らえられてしまい――そこで【あなた】は体長3mはあるだろう鬼のようなモンスターから棍棒による一撃を受け、全身がバラバラになりそうな衝撃を受けて気を失ってしまったのだった。


【あなた】の意識が戻った頃には、辺りは静寂に包まれており、モンスターの姿も、そして【あなた】の仲間の姿すらも見当たらなかった。どうやら【あなた】は攻撃された拍子に遠くへと吹き飛ばされたことで、運良く生き延びたようだった。


しかし、すでに【あなた】は棍棒の一撃によって死にかけであり、なにより帰り道が全く分からない。そう、【あなた】が死ぬまでの時間がほんの少し延びただけなのだ。それでも【あなた】は死にたくない一心で必死に足を動かし、ダンジョンを進んで行く。



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●移動のチュートリアル

前進:十字キー上

後退:十字キー下

右を向く:十字キー右

左を向く:十字キー左

右に移動:Rキー

左に移動:Lキー

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そうして【あなた】がたどり着いた先にあったのは、豪奢な彫刻と装飾がなされた扉であった。彫刻が示しているのは、背中から翼が生えた人間と、輝く剣を持った男性が背中合わせで戦っている場面だろうか?


とにかく、その扉に何か神聖なものを感じた【あなた】は、少なくともここにいるよりかはまだ安全な可能性は高いだろうと思い、意を決して扉を開いて中へと入った。


果たして、そこで【あなた】が見たものとは――


「………………」


水晶のような物の中に閉じ込められた、「真っ白な女性」であった。透き通るような白い肌に、純白の長い髪、その身には「光の衣」とでも言えばよいのか、神々しい純白の衣服を纏っている。息が止まりそうになるほど美しい女性だった。


――天使。


【あなた】はこの女性の正体を悟った。そう、女性の頭上では魔法陣のような光輪が不思議な輝きを放ち、背中には純白の翼が生えている。勇者の物語で語られる、勇者を導いたとされる天使の姿そのものであったのだ。


そんな彼女を見て、【あなた】は吸い寄せられるようにフラフラと天使のもとへと歩み寄り――手を触れた瞬間、水晶が粉々に砕け散ってしまう。


「……ここは……いったい……」


水晶の中から投げ出された女性をとっさに【あなた】が抱きとめると、彼女の瞳がゆっくりと開く。【あなた】が大丈夫かと声を掛けると、彼女はコクリと頷いてみせた。【あなた】に天使の身体のことは分からないが、見たところ特に外傷などはなさそうだ。


「あなた様が、わたくしを助けてくださったのですか……?」


どうやら彼女は何者かによって水晶の中に封印されていたようだ。自分は何もしていない、水晶に手を触れたら勝手に砕けただけだ、と【あなた】否定したが、彼女はたとえ偶然であっても助かったのは事実だとして【あなた】に感謝を告げた。


「申し遅れました。わたくしはかつて【エル】と呼ばれていた者。勇者と共に邪神と戦った天使です。あなた様は……【バート】様とおっしゃるのですね」


噛みしめるように何度も【あなた】の名前を呟き、嬉しそうに笑う【エル】。【エル】と会話していると、妙に【あなた】は毒気を抜かれるだろう。もし【あなた】が悪人であったとしても、どういうわけか【エル】に対して悪事を働こうという気が起きない。これも【エル】から感じる天使然とした雰囲気のなせるわざだろうか?


「ところで、あなた様はどうしてここに……? ここは隔離された空間。普通の人間は入ってこられないはずですが……」


【あなた】は【エル】にこれまでの経緯を話した。すると、【エル】は突然【あなた】を抱擁した。一瞬見えた表情は複雑で、驚愕、悲嘆、そして後悔の入り混じったような表情だった。


「…………」


【エル】は何も語らなかった。彼女は哀れみによる慰めの言葉を口にすることはなく、ただ【あなた】の心に少しでも寄り添いたいという、純粋な慈しみの心だけを【あなた】に向けていた。


それに対して【あなた】がどのような反応をしたかは、【あなた】と【エル】のみぞ知る。少なくとも、【エル】の抱擁が終わる頃には、【あなた】が胸のうちに抱いていたであろうわだかまりが、少しだけ取れていることだろう。


「さぁ、ここを出ましょう。この部屋にモンスターはいませんが、それ以外の脅威がないとも限りません。ダンジョンに絶対安全な場所というものはありませんから」


【エル】に促されて【あなた】が部屋を出ると、そこは見覚えがある場所だった。どういうわけか【あなた】はもといた場所ではなく、ダンジョン入口付近に出たのだ。


【あなた】が振り返ると、そこにはあの神聖な雰囲気の扉も、慈愛に満ちた天使の姿もなかった。これはどういうことだと考える間もなく、【あなた】は偶々近くにやってきていた先輩冒険者に保護され、ダンジョンから生還した。


その後、ギルドで諸々の報告や手続きを済ませ、先輩冒険者の好意で宿代を奢ってもらった【あなた】は、ベッドの中で色々なことを考えただろう。


そして、最終的に【あなた】は【冒険者】を続けるという結論をくだした。それは生きるために仕方なくそうしただけなのかもしれないし、【あなた】が何か決意や欲望を抱いたからかもしれない。それとも……【あなた】の脳裏にあの天使の姿が過ぎったから、だろうか?


ともかく、明日から本格的に【あなた】の冒険が始まる。今は心と身体を休める時だろう。


こうして、【あなた】の怒涛の1日が終わったのだった……。

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