記憶の檻の人魚

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僕の庭のお池では人魚を飼っています

人魚は帰してと泣きました

人魚がいなくなったら一人ぽっちの僕をどうすればいいんだ と僕も泣きました

人魚はへそを曲げて池の底から出てきません

僕もへそを曲げて池の掃除なんかしてやりません

お池は藻でいっぱい 水は真っ黒け 何も見えやしない

そのうち池に近づくことも人魚のこともすっかり忘れ

僕は人工灯のいっぱいついたにぎやかな世界へ引っ越してしまいました

時々

月夜に歌う人魚の歌を聴いた気がしました

──僕は 本当に人魚を飼っていたのでしょうか？

庭のお池はすっかり時の土砂に埋けられて

均された地面に過去は跡形もなく

もう本当のところがわからないのです

ただ時たま呟いてみる

僕は人魚を飼ってた男の子 人魚を見捨てた男の子

僕の素敵な尾びれのついた人魚

彼女を忘れてにぎやかな世界へ出かけたけれど

そこは僕の人魚の尾びれより素敵な場所ではなかった

月夜の夜に記憶の底に蘇る人魚の歌を聴きながら

捨てられたのは僕かもしれないと考えるのです

僕の素敵な尾びれの人魚

神秘の夜の波間から波間へと泳ぎまわって

月の光を反射した一瞬

鱗一枚の思い出だけを僕は捕らえ

彼女はするりと身をかわし僕の網は破れて

もう二度と神秘を捕らえることは出来なくなってしまったのだと

そんな風に

現実の底の澱でぷくぷく溺れそうに泡を吐きながら

思い返したりするのです