Episode16
三が日も終わり、新年初出勤の日が来た。
凛は、2日振りに帰って来た自宅を出・・・ようとした。
帰って来たのは、半刻ほど前だった。
「えへへ、透哉くんが優しくてとっても癒された。はぁ、仕事・・・やだなぁ。透哉くんの傍にずっと居たいな」
凛は、呟いていた。
自分の口から本音が漏れていることに気づき、頬を染めていた。
「あー、ダメダメ。意識を戻さなきゃ。よし、行こう」
そう呟いて、今度こそ自宅を出た。
エレベーターを使って1階へと降りる。
1階は、コンビニスペースが正面の通りにあるのだがエレベーターホールは路地にある。
路地と言っても、隣はすぐにシリオン企画の社屋なので治安はいい。
警備員の巡回コースにも含まれているし、エレベーターホールには管理人が駐在している。
管理人と言っても1人ではない。
警備員が、駐在している。
それを管理人と呼んでいる。
ちなみに、社宅の裏側にはシリオン企画の子会社である警備会社が入っている。
1階には、シリオン企画の服飾部が手掛けるブティックが今春オープンする予定だ。
凛は、出社して2階へと向かった。
2階は、人事部と総務部のフロアである。
「おはようございます」
そう言って、凛は入室する。
「九重課長、おはようございます。今年もよろしくお願いします」
耕太が、彼女に挨拶をする。
異動組も挨拶をする・・・広大以外の9人が。
「今年もよろしくね」
凛は、自身のデスクに座る。
そして、仕事の準備をしていく。
やがて、業務が始まる。
「はぁ?こんなのエリートな僕のする仕事じゃないんだよ」
自称『エリート』広大が、始業早々そう言った。
「へぇ、ならやらなくていいわよ」
凛が急にそう告げた。
彼女は、そのセリフを待っていたかのように不敵に笑った。
「課長?何言ってるんですか!」
「え?耕太くんこそなにいってるの?
ここは、人事部よ。人事部の仕事はなんだったかしら」
耕太は、ふと考える。
人事部の仕事。それは、人の評価をする場所。
現在は、暫定部長である。
部長は、先日の件で空席になっているからである。
「塩崎 広大。ここは、人事部よ。
やりたくないならやらなくていいわ。
その分、貴方の評価は下げておくわ」
「はぁ、どうせできないだろうからいいですよ。高卒課長」
凛は、パソコン画面に表示されている広大の評価シートに最低ランクであるEランクを記入する。
『学歴ハラスメント。勤務態度×。職務怠慢。』と記載された。
その直後に、弓弦の印が押される。
「では、処罰が決まったわ。
塩澤 広大。貴方は、本日をもって懲戒解雇とします。
もう、貴方を守る人事部職員はいないわよ」
「バカな、エリートの僕がありえない」
「ありえないのは君をコネ入社させていた人達よ。
人事評価シートの改竄までしていたなんてね」
広大は、立ち上がり凛を殴りかかろうとする。が、警備員がやってきて連れていかれる。
実は、一部始終弓弦が社長室から見ていたのだった。
もちろん、映像だけではなく音声も届いている。
さながら、ただの喜劇である。
晴夏に忘年会の時に連絡を入れたことによって弓弦に話が届いており、一連の流れとなった。
そして、出勤後。
凛のメッセージチャットに、彼らからメッセージが届いていた。
「さて、仕事しようか」
「はい・・・えっと、何からしましょう?」
「とりあえずは、ミーティングからかな。
総務部からの異動組は人事部が何をしていたか、詳しくは知らないと思うから・・・初日だしミーティングしましょう」
実は、まったく仕事を割り振っていなかった。
振る前に、広大が暴走したのだから。
「じゃあ、進藤君はアシスタントよろしく」
「わかりました」
ホワイトボードを準備する耕太。
ボードには、教育資材を貼る。
そして、教育資料を配る。
ちなみに、教育資材はボードに貼り付ける用の大きな物で、資料は冊子状の物になっている。
「さて、まずは人事部の業務の一つに新人研修があるの。
これは、その時に使う資料になります。
皆さんも、新人研修の時に見たとは思いますが」
新人研修をするのも、人事部の仕事の一つである。
大体、4月から5月はこの新人研修を行う。
中途採用の場合は、入社日からひと月新人研修を行う。
この期間は、試用期間になる。
「新人研修は、新人研修用の資料があるからそれを使います。
総務部の仕事とは共通することが多いと思います。
『人事』に関することが基本人事部のすることです。
人災の配置や教育、勤怠や給料などの管理を行います。
総務部だと、備品の管理、社内外の行事の企画・運営、来客対応、防犯・防災対策などをしていたと思います」
人事部と総務部の違いを説明していく。
総務部は、秘書も兼任している。
こうして、ミーティングをしてこの日の業務は終わっていく。
今日は、新年初日と言うことで他の仕事がなかっただけである。
無事、定時退社となった。
凛は、今日も『Nightcap』へ来ていた。
「透哉くん、聞いてよ」
「はい、お聞きしますよ」
「この間の学歴ハラスメントしてた子やっと外せてたよ」
「凛さん、お疲れ様です。よかったです」
「ありがとう」
今日も、透哉は彼女の前でバーテンダーをしていた。
凛の前には、『ブルーラグーン』と呼ばれるカクテルが置かれている。
色鮮やかな水色のカクテル。
ウォッカベースでブルーキュラソー、レモンジュースを使用しているためレモンの酸味があるスッキリと飲みやすい。
「あ、凛さん。
そのカクテル、度数が高いから気を付けてくださいね」
「ふふ、そしたら透哉くんに送ってもらわなきゃ」
「仕方ないですね。帰りは送って行きますよ」
2人の関係も順調に進んでいた。
凛は、まったりとカクテルを楽しむのだった。
透哉の顔を眺めながら。
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『ブルーラグーン』:『誠実な愛』
OFFICE -あるオフィスの恋模様- 天風 繋 @amkze
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