猫好きの猫好きによる猫好きのための考察

鹽夜亮

猫好きの猫好きによる猫好きのための考察

 諸君、私は猫が好きだ。そして、この考察は諸君が猫好きであることを前提に進められることをご承知願いたい。無論、猫を好かぬものもいるだろう。彼らと相容れないというわけではない。それは単に好みの問題である。…

 さて、本題に入ろう。

 まずは猫に対して人間の感じ得る種々の概念の列挙から始めようかと思う。愛おしい、可愛い、美しい、尊い、癒される、羨ましい…ああ、待ってほしい。語り尽くせるものでないことは百も承知の上だ。これらはあくまで例として挙げたまでである。そのうち、いくつかの概念について考察を行っていこう。

 まず、『可愛い』である。諸君の賛同がありありと目に浮かぶようだ。そうだ、猫は可愛い。それはもう可愛い。本当に可愛い。食べちゃいたいくらい可愛…うむ、取り乱したようだ。すまない。さて、猫の可愛さについて考察していこう。

 人間は自らより小さく、温かく、柔らかいものに可愛さを感じる。それは無論、赤子や幼少の子どもに端を発する本能であろう。猫はまさにそれを刺激してやまない。赤子とほぼ変わらぬ大きさ、成人より高い体温、ふわふわとした毛皮と柔らかいお肉。ぷにぷにの肉球。こうして列挙してみれば、猫に『可愛さ』を覚える人間がいることも容易に納得できよう。また、赤子の掌に指を突っ込んだ経験のある諸君も多いだろう。それも思えば、猫の肉球をぷにぷにするあの抗い難い欲求もさもありなん、というわけである。

 次に行こう。全てを語り尽くそうとすれば、我々の人生はあまりにも短い。

 『癒される』に関してだ。この概念は大変興味深い。先述した可愛さへの考察も癒しに関与していると考えられるが、ここで私は別視点から考察してみようと思う。

 私のここで使う別視点とは、つまり猫のうちにある母なるものだ。…あぁ、待て。引かないでほしい。重要な話である。

 猫好きの諸君であれば、無論、『猫吸い』の嗜みがあろうことと思う。かくいう私も一日に数回は猫吸いをせねば生きていられない体だ。さて、ここでこの猫吸いは大変興味深い行動だと私は考える。

 猫吸い…すなわち、猫のお腹やら頭やらそこここに顔を埋めて深呼吸する行為…だが、これはつまり、乳房と赤子の関係性に類似する。


 つまり、おっぱいである。


 すまない。今回はこの調子で書くと決めたのだ。どうか止めないでほしい。ドン引きした諸君の顔が浮かぶが、私はめげずに言葉を紡ごうと思う。この猫吸いに関しては、先述した癒される感覚と密接に関連がある。猫吸いによって癒しを感じる諸君は多いだろう。そこには温かさ、嗅ぎ慣れた匂い、そして猫吸いを許してくれる猫への安心感(受容する態度と言い換えても良かろう)それらが大きく関与していると考える。

 

 つまり、やはりおっぱいである。

 

 ああ、待ってくれ。私は大真面目に考察している。ふざけていると思う諸君はフロイトの諸作を読んでほしい。…

 赤子は、無論母の乳房に包まれる時、そこに匂いや体温、柔らかさなどを感じる。そしてそれは、赤子にとって最も安心できる瞬間であり、場所だ。猫吸いとは、それを成人に提供する。癒されて然り、である。病的なものとして、時に人に幼児退行という現象が起こることを思っても、その心理的効用の大きさは存分に納得できよう。

 さて、少しはドン引きから頭おかしいやつだなこいつくらいの感想に変化していただけただろうか。それなら幸いである。

 ここまで猫の『可愛さ』と『癒し』について考察した。ここで実に興味深い観点が生まれる。


 猫に『可愛さ』を感じる時、我々は母性や父性に近接する。

 猫に『癒し』を感じる時、我々は赤子に近接する。


 つまり、猫は、猫好きにとって『赤子であり、母である』と言えるだろう。

 これは猫の考察においてその魅力を解き明かすほんの一部に過ぎない。美しさや孤高さに関しては、また別の考察が必要であろう。だが、ここでそれを論じるのは些か纏まりに欠けると言えるだろう。ゆえに、それはまた別の機会を設けることとする。


 ああ、さて、長くなってしまった。そろそろ猫吸いの時間でね…申し訳ないが、諸君も吸いたくてうずうずしているころであろう。存分に吸おうではないか…猫に敬意を忘れずにな。………




スゥゥゥゥゥゥ

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