12作目_怖い夢

◆怖い夢


文字数:16,872文字

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リンク:https://kakuyomu.jp/works/16818093084628955890/episodes/16818093084637911220


 これまで書いたほとんどの作品が1万字未満の私にとって最長の作品となりました。連作短編として話数を分けて書いたのも初。自分にとっていろいろな面でチャレンジ精神溢れる作品となりました。

 この話を思いついたきっかけとしては、実際に私が怖い夢を見た際に、夢の中での嫌な予感がそのまま展開に反映されて飛び起きたという経験が基になっています。キャッチコピーはそこから持ってきたものですね。


■全体構成について

 一〜三話で一つずつ夢の話を語り、第四話で種明かしという構成です。第四話は、

①三つの夢は聞き手一人ひとりの夢だった。

②そして夢の存在が現実に侵蝕してきた。

③さらに実はこれ自体が主人公の見ている夢だったのだ。

 という三段オチ(?)


 ③で「じゃあ夢オチじゃん」となるわけですが、少なくとも主人公にとってはそう思えないような、夢が現実を食い破るラストにしました。虚構と現実が交錯し、かつ現実が揺らぐ恐怖を描きたかったのです。

 全体のオチとしては第四話であって、第一〜第三の夢は言わば前振りとなるわけですが、単話でも退屈されないように、楽しんで読んでいただけるようにと心掛けました。

 以下、各話ごとに振り返り。



■第一の夢_背を向けた女


 これは単体ではうまく形にならなかったボツネタのリサイクルです。元々は、夜間のランニング中に前を歩いていた女性に(おそらく)ビビられて気まずい思いをしたという体験から生えてきた話でして。夜道で後ろから走ってくる音が聞こえたら女性は特に怖いですよね。私もなるべく避けるようにはしてるのですが……

 そんなわけでビビる方と怖がらせる方の関係を逆転させたら一つのホラーにならないかな、と思っていたのですが、良いオチが思いつかずお蔵入りにしていました。今回この夢の話を書くにあたり、ラストを夢オチにできるならなんとでも書けそうだなと思い、こうして作品として組み込むことができました。姉だと思ったら姉なんていなかった、というオチは書きながら生えてきたものですが、結構気に入ってます。認識を操作される系の恐怖が好きなんですよね。

 規模感としても全4話のスタートとしては丁度いい短さになったと思います。


 なお、四話で分かりますが潤一の夢です。なので潤一は一言も喋りません。



■第二の夢_殺さなくてもよかったじゃないか


 この話、書きながらどんどん内容が変わっていって思いついた要素もバンバン入れた割に、かなり出来上がりは気に入ってまして、特にお気に入りのポイントが二点あります。


 一点目は、日常と安心の象徴であるお母さんの口からスッと怪異の台詞が紡がれるところ。

 私の大好きなホラー小説『淵の王』(舞城王太郎)の大好きなシーンをリスペクトして書いたので、そういう意味でもお気に入りです。

 他にリスペクトしたホラー小説に狂気太郎先生の『ずれ』もあります。(これはリスペクトというにはやりすぎかも……)


 二点目はオチのシーン、神社でお祓いをしてもらってると思ったら実は怪異の掌の上で、お祓いの呪文じゃなくて怪異の台詞だった上に写真も一斉にしゃべりだすところ。 

 完全に途中で思いついた付け足しなんですけど、付け足して良かったなと思います。怪異に執着されてる感がより出せたので。


 とにもかくにも、中継ぎにしてはやりすぎなくらい好きなものを詰め込んだ一話にできました。全話四話構成のうち二話が一番重厚となる必要があったのも確かだったので、結果論として良かったなと思います。


 ちなみに、実はこれもボツネタリサイクルなんですね。原型は留めてませんが。

 元々は『無貌の怪』というタイトルで、のっぺらぼうが主人公の話を書こうとしていたのです。


(以下、ボツネタのあらすじ)


 人間臭いのっぺらぼうが主人公

「それは、こぉんな顔じゃありませんでしたか?」一度驚かして逃げた獲物が安心したところを、この台詞と共にもう一度驚かすのがのっぺらぼうのセオリーだった。

 今日は気の弱そうな男をターゲットに選び驚かそうとする。男は一旦絶叫して逃げはするものの、逃げた先ではスーパーで買い物をしていたりコンビニでジャンプを立ち読みしてゲラゲラ笑っていたり全く効いている様子がない。これでは『安心したところでのもう一撃』ができないじゃないか。悔しくて何度も驚かせるが、その場は心底震え上がって逃げる様子を見せるも、その後はけろりとしており、これの繰り返し。のっぺらぼうは敗北感とともに帰路につく。家に帰り、疲労困憊ながらも妻に今日のことを愚痴る。妻に「どんな男でしたの?」と聞かれふと気付く。男の顔が思い出せない。あれほど今日一日何度も追いかけ回して驚かせた相手のはずなのに……これではまるであいつがのっぺらぼうじゃないか……思い出せないといえば他にも何か忘れているような……そうだ、そもそもここはどこなんだ。なぜここを自宅だと思ったのだろう。思考が急速にクリアになっていく。

「ねぇ、あなたその男ですけど」

 妻の声に振り向く。俯いていて顔がよく見えない。妻。俺に妻などいただろうか。こいつは、一体なんなんだ。

「こぉんな顔じゃありませんでしたか」


(終わり)


 いかに改変され、何が残ったのかがなんとなく分かると思います。ボツにしていた理由は前半パートが全然面白くできなかったため。

 前半コミカル→後半ホラーというギャップが出せたら良かったのですが。あとこれをこのまま使おうとすると認識改変オチで第一の夢とモロに被るんですよね。

 それでリサイクルしようにも難しいなとウンウン唸ってたんてすが、『気の弱い男を驚かす』という部分だけ残し、いっそ一旦死なせてみるかと考えたところで今の流れが出来上がりました。

 タイトルの「殺さなくてもよかったじゃないか」もこの流れから思いついたもので、全部出来上がってからタイトルを付けました。途中で思いついたものが話の核になるってのは初めてかもしれないですね。


 なお、こちらは響介の夢です。よく見るとこの話から響介も喋ってません、という一応の伏線です。




 ■第三の夢_剪定


 これは役割としては第四話への本格的な前振りなんですよね。なので話の途中で中断するというのは最初から決めていました。だから第一、第二の夢より気楽に書けるだろうと思っていたのですがこれがなかなか進まず……。

 そんな中、ランニングをしている時にピエロが朗々と喋っているシーンを思いつきまして、とりあえずその方向で行こうと。

 ランニング中に頭の中で書いていた時はかなり良い語り口だった気がしたんですが、文字に起こすと思ってたのと違う感じがしてしまい何度も書き直しました。最終的には結構好きな雰囲気にできたかなと思っています。雰囲気だけなら第二の夢より好きですね。

 途中に登場する耳と鼻を失った象は過去にツイッターで書いたことがあるネタです。これを書いた時は、まさか自分が単発のネタツイじゃなくて曲がりなりにも小説という媒体を書けるようになるとは思っていなかったので、感慨深いものがあります。


 棺の中身ですが、あらゆる内臓やら外側の器官やらを切除され、広げ、繋げられた拓哉の両親が入っています。冒頭付近でテントに対して「内蔵を取り除かれて骨と皮だけが残った死体のようだった」という印象を語っているのも、その先に待ち受ける恐怖を予感させているものだったのです。伝わりにくい。


 なお、こちらは拓哉の夢です。拓哉はこの先の展開を知っていてその恐怖に耐えきれないため覚史の話を遮りました。



■第四の夢_夢より出づる


 オチとなる話です。この話に盛り込まなければいけない要素は既に決まっていて、あとはどういう順番で並べれば良いかというだけだったんですが、これが想像以上に難儀しました。なぜかというと、主人公がここで知ることになる新事実が多すぎるんですね。

 具体的な項目としては、


 ・覚史の語っていた夢が実はその場にいた三人の友人の夢だったと知る

 ・拓哉の両親が死んだことを知る

 ・響介が母親の顔を刺したことを知る

 ・夢に登場した恐怖の対象が現実に出てきていることを知る

 ・これが夢だと気付く(オチ)


 これだけあると正直ずっと驚きっぱなしになるわけで、いかに自然な会話の流れでこれらを出していくのかというのは非常に難しい課題でした。ちょうど仕事が忙しくなったこともありなかなか進まず……。結果的に今の形になりました。まぁいい感じになったかなと。


 ラスト、夢だと気付き覚史の声が聞こえてきて終了という締め方は決めていたのですが、大量のルビは書きながら思いついた演出で個人的にかなり気に入っています。なかなか効果的かつインパクトも出せたのではないかなと(自画自賛)


 『夢より出づる』で、恐怖の対象が夢から現実に出てくることを示唆しているので、きっと主人公(悠介)の現実には覚史が現れるのだろうとラストで匂わせています。


 ただ、全体通して見ると完全なる夢オチなわけで、それまでの第一話〜第三話も夢なのですから、起きてしまえばそこで終わりで、現実では何も起きない、という可能性もあります。そのあたりの曖昧さも含めてオチは気に入ってますね。


 私は虚構と現実の境界が曖昧になり交錯していく創作が大好きでして、今回、自分の創作として趣味全開で納得のいくものが書けて大変満足しています。今のところ、自分の中ではこれが最高傑作かなと思っています。あとは、より多くの方に読んでいただけたらもう言う事ないですね(貪欲)


 とはいえ本作、自主企画などに参加した作品含めてPV数はこれまでで最多を更新しました。凄い。これが連作短編の効果なのか。(ちなみに二位は『かみかくし』、三位はトドノベル(存在しないはずの人)です)


 皆様本当にありがとうございます。

 さらに面白いホラーが書けるように頑張りたいと思います。


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自作小説についての雑感 こくまろ @honyakukoui

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