またどこかで、一曲目
四十 笛の音と歌声
その笛の音と歌声に聞き惚れ、
その笛の音と歌声に、雪に閉ざされた
その笛の音と歌声は、厳しい北の大地に生きる
すっかり広くなっている
謎の怪力男、もとい笛吹きの青年は、家族や大切にしてくれたひとの墓に行き、己は元気でしあわせだと伝えた。そしてかつての家人をたずねて無事を喜び合い、いまは
その故郷にも、笛の音と歌声は響き渡った。たたかったひとびとを悼むその音は、
出穂と飛迎の二国を飲み込み、大国となった桜雲の都、
飛迎の都、
そして明砂の町、
そして、古扇、
茅葺屋根の小さな家の前では、ひとりの青年が薪割りに精を出していた。家の中の囲炉裏の前には、女性がふたり。ひとりは若いひとで、赤子を抱いている。赤子の手には風車が握られていた。
もうすぐこの村に、あの笛の音と歌声がやってくる。
でもこんな田舎の村に来なくたって。町のほうでやってもこっちから見に行くのに、らしいなあと、青年はひとりごちる。
いまは笛吹きと歌姫だけではなく小さな楽士が三人ほどいて、弟子も増えてにぎやかになっているようだが。
青年はかつて、ふたりと旅をしていた。途中の町で、引き取って仕事をさせてくれるひとに出会いそこで働き始めた。なりたいように、なるためだった。そして昨年、この村に帰ってきた。見目うるわしい若き村長が、大喜びで迎えてくれた。ずいぶん背も伸びてたくましくなった青年を待っていたのは、九つのころからどんな縁談も断り続けてきた、一途でかっこいい美女だった。
笛の音が、聞こえてくる。おだやかなやわらかな、強くてやさしい音色。さまざまな楽器の音と楽しそうな歌声も、いくつも聞こえる。ひときわやさしく、それでいて力強い澄んだ声が、語り掛けるように歌う。その笛の音と歌声がだいすきな青年は、斧を置いて駆け出した。
旅の一行はのびのびと、それぞれの音を奏でて、ひとつの音楽を作り上げている。それは、ゆるやかに曲がりながら、ひとびとを潤す流れのような。青年はその一座の名前を、大声で呼ぶ。
<了>
曲流座 相宮祐紀 @haes-sal
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