第12話 自室

 騎士団の仕事が終わりすっかり夜になった。


 ニイナは執務が残っているため王城で残業中である。一方リリアは悩んでいた。

 自室でベットに転がり枕を抱えながら唸っていた。


「うぅぅぅぅ…ニイナの部屋に行こうかなぁ。でも、今は仕事してるし邪魔したくないなぁ…」


 ニイナに会いたいが仕事の邪魔はしたくないという二つの思いがリリアを困らせていた。


 ニイナは伯爵の当主。ただニイナは城のような屋敷とメイドなどの従者は持っていない。それは彼女自身が望んだからだ。

 その反面、従者が居ないことから伯爵の仕事を独りでこなすため休みを取っていても休暇を満喫できない。


 王城で働いてるものの中ではニイナが一番働いてるだろうと言われるほどに多忙だ。

 そのせいか、ニイナは周りから休めと口をそろえて言われる。


「今行かずにいつ行くんですか!勇気を出さなきゃあの女狐に取られちゃいます!」


 リリアは決心したように立ち上がり、ニイナの部屋の扉をノックする。



 コンコン…



「誰だ?こんな時間に」


 ニイナは作業をやめ注意しながらも扉を開ける。

 するとそこには寝間着姿のリリアが居た。


「リリアお嬢様。何故ここに」

「真隣なのに何故ここにもありますか。少し会いたくなったんです」


 リリアは自分の思いを隠さずにそのまま伝える。

 ニイナはその言葉に少しドキッとするが平常心を保つ。


(メ、眼鏡かけてます!丸眼鏡!追いかけてくれた時もそうですけど眼鏡かけてるニイナは何だか優しい夫感があります。まぁいつも優しいですけど)


 リリアは内心ニイナの眼鏡姿に興奮しながらも見た目では何も無いような姿をする。


 ニイナがリリアをソファまで案内し近くの本棚を見る。

 そこには推理小説、歴史、ホラー、そして恋愛もあった。


「ニイナって恋愛もの読むんですね」

「数えれるほどしか読んでませんが面白い作品は読んでますよ」


 リリアは立ち本棚をまじまじと見ると隅っこに女性同士の恋愛を描いた言わば百合小説と呼ばれるものを見つける。


(ニイナってこういうのも読むんですね。ならニイナも女性同士の恋愛を何とも思ってないんでしょうか)


 一般的に女性同士、男性同士の恋愛は認められてはいるが世間からは冷めた目で見られてしまうため、隠れて恋愛をする。

 特に貴族などは子を産めないため後継ぎ問題で批判されることが多い。


「ふぅ。なにか気になる本でもありましたか?」

「いえ…普段ニイナがどんな本を読んでるのか気になっただけです」


 ニイナは一段落したのか一息ついて立ち上がる。


 ニイナの姿は長い銀髪を三つ編みして黒い丸眼鏡、そして白い寝間着。昼のピシッとした礼儀正しい姿とは一転してくつろぎのゆったりする姿をしている。


「ニイナは夜になると眼鏡をかけるんですか?」

「目が悪いので普段からもつけたいんですが邪魔なので魔法で補強してるんです」

「目が悪いんですか⁉全然そうは見えなかったです」

「老眼ですかね…もう二十五ですよ。いつかおばさんと言われる時期です」


 ニイナは年をまじかに感じて落ち込む。その姿は仕事で疲れ果てた姿ととても似ていた。


「ニイナは何歳になってもお姉さんと呼ばれそうです。いまだって二十五とは思えないほど綺麗ですし」

「リリアお嬢様にそう言っていただけるのはありがたいですがもう年ですよ」

「私は年上好きですよ?」

「十三も年の差がありますよ」


 リリアの発言と微笑みにドキッとするニイナははぐらかす様に答える。

 ニイナはこれが恋した弱みかと思いながらもリリアを見る。


 するとリリアは深刻そうな顔で質問をニイナに投げかける。


「ニイナは結婚する予定とかあるんですか?」

「無いですね。何せ相手も居ませんので」

「縁談とか来てるって聞きましたよ?」

「縁談はあまりしたくないんですよ。相手からの一方的な愛は返せないので…出来れば政略より恋愛がいいですね」

「そうなんですね…」

「これでも乙女なんですよ?」


 ニイナの少し困ったような微笑みを見てリリアはニイナに対して可愛いという感情が芽生えた。普段はクールな彼女が恋愛結婚を望む姿はまるで何かを待っている姫のような姿だった。

 そしてそんな姿は今、自分しか知らないんだろうと思い優越感にも浸っていた。


 ニイナは少し自分の愚かさにがっかりしていた。

 好きな人が目の前に居るのに伝えれない、普段なら世辞でも言える言葉を言えない自分がもどかしかった。


「ニイナ。今日はここで寝てもいいですか?」

「どうしたんですか?」

「もう少し一緒に居たいんです」


 リリアは無理な願いをしてると分かっていながらもそういうとニイナは問題ないと許容した。その答えにリリアは驚きを隠せず嬉しさが込み上げてきた。

 ニイナはベッドの毛布を綺麗に直す。


「リリアお嬢様はベッドを使ってください」

「え?一緒に寝ないんですか?」

「一緒に寝るんですか?」


 お互いを見つめあい二人ともクスっと笑うと二人してベッドに潜る。


 リリアは今更ニイナを見るのが恥ずかしくなったのかニイナに背を向けて寝る。


「明日は休暇を取ったのでゆっくりできますが…起こしましょうか?」

「…遅かったら起こしてください……」


 眠そうなリリアの声にニイナは和みながらお互い眠りについた。

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翡翠の主と銀の騎士 柏陽シャル @black_person

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