第11話 笑顔

 剣がぶつかり合う音が聞こえる訓練場では、重要人物が一人欠けていた。

 それは騎士団長のニイナだ。ニイナは遅刻をした事がない、だが今回はまだ来ていない。

 その代わり王女のリリアが居た。

 清涼の月になってから学園は一時、休暇になり葉が黄色く変わった木々に囲まれながら座ってニイナを待つリリア。

 遠くから聞こえる馬の足音に気付いたリリアは立ち上がり足音のする方へ走る。


「ニイナ!」

「リリアお嬢様。おはようございます」

「おはようございます。にしても珍しいですね?遅刻なんて」

「少し酒を飲みすぎたようです」


 本当の理由など答えられずニイナは酒を理由にする。

 自分の気持ちに気付いてからニイナはリリアがより一層愛らしく見えた。


 ニイナは馬を馬小屋に入れ、訓練場に戻る。すると、ウィルが絡んでくるがいつものように溢れ出る殺気によりウィルは弱気になりニイナの遅刻を弄らなくなった。

 他の団員はウィルを慰める。


 リリアはいつものようにくすっと笑いニイナの隣に座る。

 ニイナの持ってる剣を見てふと思い立ったことを言葉にした。


「ニイナのその剣。ニイナが王宮騎士になった時から持ってると聞きました。いつから使ってるんですか?」

「私が騎士科に入った頃ぐらいですかね。最初はなんの知識もなかったので適当に鍛冶屋で買ってそこから自分にあった剣を作りました」

「大事にしてますよね。そしてその鞘に巻いてあるリボンって…」

「私が初の遠征に行くときにリリアお嬢様がくれたものです」


 ニイナの剣の鞘には紫色のリボンが巻かれていた。その巻き方は幼稚でニイナが巻いたものではなく幼いリリアが巻いたものだった。


 そのリボンもリリアが当時身に着けていた髪を結んでいたリボンだった。


 リリアは当日までニイナが遠征に行くことを知らなかったため刺繍の入ったハンカチなどを用意が出来なかった。

 そのため少しでも気持ちが伝わればと思いニイナにリボンを渡した。


「何で教えてくれなかったんですか。そしたら刺繍の入ったハンカチを用意できたのに」

「わざわざ用意してもらうものでもありませんし。あまりリリアお嬢様には戦時などの戦いごとの話を耳に入れたくなかったのです」

「どうしてですか?」

「さぁ。私も分かりません。ただ、あなたには純粋無垢で居てほしいのです。私にとってあなたは守るべき存在で大切な存在。汚い話であなたを汚したくなかった。そんな気持ちがあったんじゃないんでしょうか」


 リリアはニイナの言葉に胸がチクッとした。


 何せ彼女は近衛に恋をしているのだ。本来ならあってはならないこと、そのためリリアは自分はもうニイナのいった純粋無垢なリリアはもう居ないのだと思った。


「ニイナは主従恋愛ってどう思いますか?」

「唐突ですね。私は何とも思いません。逆に主従恋愛を批判する理由がないので」

「驚きな回答です。ニイナなら良くないとか言うのかと思ってたんですけど」

「何度も主従恋愛は見てきました。今否定したら同僚や親友を否定することになります。それに元平民の私からすればその人が幸せならいいんじゃないかと思いますし」


 ニイナは自分の考えを素直に話す。彼女に主従恋愛を否定する権利は持っていないしすることは出来ない。

 なにせニイナも主であるリリアに恋をしているのだから。


 ニイナはリリアが突然、主従恋愛について話すため不思議に思ったがリリアは王女、知り合いのご令嬢が主従恋愛で悩んでいるのかと思い不思議という気持ちはなくなった。


 リリアはニイナが主従恋愛について何も思ってないと聞いて安堵した。自分の気持ちがニイナに届く可能性が高まり勇気もついた。


「団長!何話してるんですか。団長が厳しくしないとこいつら動いてくんないんすよ!」

「お前の仕方が悪いんだろ。全く副なんだから働け」

「働いてますよ!」


 ウィルが苦情をニイナに訴えると辛辣な言葉が返ってくるが、これが騎士団の日常だ。


 騎士団の環境がリリアの提案によって変わり騎士団員の者の顔色が良くなり騎士団に入りたいという人も増え大助かりした。

 そのおかげもあってか騎士団に居た少数のリリアをぞんざいに扱っていた者は居なくなり雰囲気も良くなった。


「ニイナ。行って来たらどうですか?ウィルさんも普段ニイナの無茶ぶりに応えてるんですから」

「王女様~!」

「リリアお嬢様が言うなら…分かった。ただしやるからには徹底だ。休めると思うなよ?」

「や、やっぱりいいかm…」


 ウィルがそう言いかけるとニイナはウィルを掴み連れていく。ウィルは後日、団員にニイナ団長になんて言ったのかと詰め寄られたそうだ。


「お嬢様。いつも笑ってますねここだと」

「そうかもしれません。いつものニイナとは違うニイナも見れて居心地がいいんです」

「なんとなく分かりますよ」


 笑うリリアに後ろから声をかけ隣に座るエル。リリアの表情を見て不安が少し減ったのかと思った。


 リリアは騎士団に来ると必ず一回は笑う。それは貴族の堅い雰囲気より賑やかなここの方が居やすく笑いやすいのだろう。

 形式に捉われないのがリリアの平民ウケするいいところで逆に貴族に嫌われる原因でもあるのだろう。

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