第10話 自覚

 昼とは違い、陽気な曲が流れる。

 色とりどりなドレスをした女性に全体的に黒めなタキシードを着た男性は曲に合わせてステップよく踊る。

 ニイナは夜風に当たりながらワインの入ったグラスを揺らして黄昏ていた。


「どう謝りに行くか…」

「誰に何を謝りに行くんですか?」


 聞き覚えのある声が聞こえその姿を見るとリリアだった。謝りたい相手が聞きに来るとはと思いとどまるニイナは少し困った表情を浮かべる。


 リリアは昼の出来事を覚えているため恥ずかしそうにニイナを見る。

 ニイナはせっかくだと思い口を開く。


「リリアお嬢様。先ほどはすみませんでした」

「え?」

「昼のワインの事ですよ。まさかリリアお嬢様にあんな事をするなんて…」

「だ、大丈夫ですよ!うれし…じゃなかった。別に何とも思ってませんから!」

「ですが…何か償いを。騎士としてあるまじき行為です」

「なら、時々でいいので頭を撫でてくれませんか?それかまた膝枕を…してほしくて」

「そんなのでいいんですか?それなら幾らでもやりますよ」

「本当ですか⁉」


 リリアは積極的になりニイナを落とす反面、自分も癒されたいという思いから褒美を貰うことにした。

 ライバルがすぐそこにいることから頑張らなくてはニイナを取られてしまうと思い立ち今後からニイナをドキドキさせるようなことをしようと思ったのだった。


「あらこんなところに居たんですね。ニイナ様」

「アルセン王女。お久しぶりです」

「…何用で?」

「ダンスのお誘いをと思いまして」

「ニイナは私の近衛です。今は違いますが、最初に踊るのは私です」

「あなたではなくてニイナが決めることではなくって?」


 アルセンはニイナに意見を求める様に見るとニイナは少し悩んだように見せて即答で意見が返ってきた。

 その答えにリリアとアルセンは驚きを隠せなかった。


「私は踊りません。お二方は王女です。私のようなものが踊っていい方ではありません」

「ですがあなたは騎士団長。そしてわたくしを助けて下さいました。そんな謙虚にならなくてもよいのでは?」

「騎士である以上当然の事をしたまでですので」


 そうニイナが答えると諦めたのかアルセンは下がっていった。

 リリアは少し不貞腐れたような表情を浮かべる。


「私とも踊ってくれないんですか…」

「そんなに私と踊りたいですか?」

「はい……」


 リリアの姿を見て幼さを覚えるニイナはリリアの頭をポンっと撫でる。


 リリアは昔は無邪気で人を疑わなかったでも、魔法がまったく使えない勉強もできない。


 そんな事が他に知られてからリリアと遊んでくれる人は少なくなり構ってくれる人はニイナぐらいしか居なかった。家族は執務で忙しく、エルは薬の調合、騎士団は訓練。そんな中、ニイナは今まで頑張ってきた分の休暇をリリアに使っていた。


 そしてニイナも騎士団長になり忙しくなって遊ぶ回数が減った時リリアはとても寂しそうな顔をして部屋で一人人形遊びをしていた。


 ニイナはリリアに寂しい思いをしてほしくなかった。そのせいか今のリリアを見て叶えたいと思った。


「下手ですが、それでもいいなら踊りましょうか?」

「いいんですか⁉」

「特別ですよ?」


 ニイナの言葉にリリアはキラキラした表情で答える。ニイナはそんなに喜ぶと思ってなかったというような表情でリリアの手を取る。


 二人は流れてる曲に合わせて足を動かす。ニイナは下手といったが貴族になったということもあり一般的なステップは当然、細かい動きも出来ていた。

 騎士団長だからかリリアの足は踏まず体感もあった。


 踊ってるリリアは淑女教育を受けているため組むステップも上手くリードも曲調に合わせていた。

 そこに無邪気で純粋な可憐な少女の姿はなく、大人びた女性の姿があった。

 ニイナはそんなリリアに見惚れある思いに気づく。


(なるほど、私はリリアお嬢様が好きだったんだな)


 今までの自分の行動を見返すといつだってリリア優先だったことを思い出し、婚約の話や他の人の話が出た時、胸がチクっとした事に合点が行きニイナは少し浸る。


「ありがとうございました」

「ありがとうございます」


 曲が終わり別の曲に変わるとダンスをやめリリアはドレスの裾をつまみ一礼、ニイナもそれに合わせて一礼。

 お互い目を合わせくすっと笑う。


「下手だなんて嘘じゃないですか」

「リリアお嬢様のリードが上手かったんですよ」


 お互い思い出に浸りながら時を過ごすとアルベルトが呼びに来てリリアは去っていった。

 それと交代でエルが来てニヤニヤする。


「お嬢様とはどうだった?」

「楽しく過ごさせてもらったよ」

「他には?」

「他?あー…一個あるな」

「何々⁉」

「リリアお嬢様が好きだってことを自覚した」

「今更ぁ~?気付くの遅いと思ってたけど」


 エルはやっとかーと言うようにため息をつき、ニイナは珍しく照れた。

 ニイナは手を握ったり開いたりし、顔を赤らめ手で隠す。


「初恋の男子かっ」

「初恋だよ」


 初心なニイナに頭を抱えるエル。二十五歳になってやっと初恋というニイナにエルは心底心配をした。なぜ今までそれで生きてこれたのかと。


 ニイナは初めての感情に困惑しながら舞踏会は終わり帰宅してもなお寝室でニイナは考え込んでいた。

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