台覧試合②
花音がきょとんとした顔でわたしを見上げる。わたしを映す瞳には純粋な疑問しかなく、それがよりわたしの恥ずかしさの度数を上げていく。
「ちゅうたんでんをひらくときに、おむねはなんどもみせたでしょ? それでもはずかしいの?」
「恥ずかしいよ、小さい花音」
「ごしゅじんさまに、しんめいまであかしたのに? それでもだめなの? おおきいかのん」
小さい花音の言葉が、ぐさりとわたしの胸に刺さる。言われていること全てが的確で、わたしは反論できない。今着ている服だってほぼ裸体に近い薄さなのに、その薄さすら恥ずかしさを越えられない。
黙りこんでしまったわたしを見て、小さい花音がしょんぼりと落ちこんでいく。
「小さい花音。頭を撫でるぞ」
それまで沈黙を貫いていたオウリムが、小さい花音に言葉を発する。小さな花音はびくんと大きく震え、その後にっこり笑った。てててんっと自分からオウリムのそばに寄り添い、頭を撫でられると嬉しそうにきゃっきゃと笑った。
真名の制約だ。花音の名を持つわたし達は、主人のオウリムの命令には絶対服従する。
「小さい花音。俺に抱きついてくれ」
二度目の命令。小さな花音は「うーんと」と少し考えてから、オウリムの胸元に抱きついた。
オウリムがわたしを見る。す、と人差し指一本を唇に触れさせ、沈黙の合図を促した。
「小さい花音。俺にお前を抱かせてくれ」
わたしは思わず口元を両手で覆う。三度目の命令はより直接的だ。
小さな花音は疑問符を沢山浮かべ、その場でぐるぐると回る。
「ごしゅじんさま。もっとわかりやすいことばでいってください」
「小さい花音。俺の前で裸になってくれ」
小さな花音が花畑に腰をおろし、ワンピースの紐に指をかける。けれども、紐は蝋で固められたがごとく、うんともすんとも解けない。
「できません、ごしゅじんさま。ちいさいかのんは、はだかになれません」
「小川で遊ぶ時も服を着たままなのか?」
「はい。このせかいにうまれてから、おようふくはぬいだことはないです」
「分かった。ありがとう、小さい花音。大きな花音と話をしたいから、少し離れた場所で遊んでいてくれ」
小さな花音が「はーい!」と大きな声を上げ、ぴょこんと立ち上がる。オウリムの言葉通り、少し離れた花畑でひとり遊びを始めた。
オウリムが声を潜め、わたしに問いかける。
「小さな花音が生まれたのはいつ頃だ?」
「武具姫として目覚めた時だと、七才です」
「清涼園に男性はいないのか?」
「いません」
「突っ込んだ質問をする。清涼園で一般的な性の知識を教えられるのは何才ぐらいだ?」
「わたしは十才でした。くちづけでは妊娠しないこと、男性と女性が体を重ねると妊娠する恐れがあること、主人を決めたならば主人と性行為は行いなさい、力が強まるからと言われました」
恥ずかしさからか、いつもよりわたしは早口になる。オウリムは最後まで黙って聞き、一人納得したようだった。
「性知識の差だろうな」
「え?」
「小さな花音ができなかったこと。それはつまり、小さな花音は、それがどういうことか知らないからだ。裸になることは入浴などでもでてくるから、できるかと思ったんだが。それができないとなると、小さな花音は七才よりももっと幼い気がする。
そのわりには、華に対して悟ったような発言をする。俺を此処に連れてきたことといい、あー……うん、そうだな……小さな花音は俺と華をくっつけたがっているんじゃないか? 性的な意味で」
わたしの熱は体中を巡り、ぼひゅんと音がする勢いで左右の耳から抜けた。今度こそ全身真っ赤になってしまったわたしは、何も声にならない。
言った本人のオウリムも耳を真っ赤にし、両手の指先をあわせ、鼻と口を覆っている。
「華。その、俺はだな、華を抱きたいと思っている」
「……っ」
「無理強いはしたくないから、花音の名は使わない。ただ、心も体も全部ひっくるめて、華を俺のものにしたい。今から五つ数える。その間に決めてくれ。五つ数え終わっても何もなければ、このまま夢から覚めよう」
五。オウリム様はいつだって優しい。
四。オウリム様はいつだって、わたしのことを優先してくれる。
三。オウリム様、わたしのご主人様。花音の名を使ってしまえば、すぐに思いを遂げられたでしょうに、絶対にそんなことはしないご主人様。
二。オウリム様、ずっと大好きです──
最後の一が聞こえる前に、わたしはオウリムの唇に自分の唇を重ねた。そのままオウリムに抱きつき、薄い衣服が同化した裸体を満遍なく晒す。鍛えられたオウリムの上半身と乳房が擦れてくすぐったい。「抱いてください」と上目づかいで囁いた時、オウリムがくしゃりとした笑顔で「愛しているよ」と口にした。
わたしの背中が花畑に触れる。オウリムの柔らかい手が、指が、唇が、わたしも知らないわたしを探り出していく。唇で優しく陰核の皮を剥かれ、ちゅうっと中身を吸いだされた瞬間、わたしは枯れそうな声で鳴いた。とろとろに溶けた蜜壷にオウリムのものが触れ、中を掻き出されるように動き始めたとき。
花畑の花がぶわりと舞い上がり、祝福の鐘のように降り注いだ。
***
武具姫は底辺騎士と愛を紡ぐ 桜衣いちか @ichika_sakura
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