長ぐつのゆくえ

 夕方。


「おや、母さんはどこかに出かけたのかな?」


 仕事から帰って来たお父さんがキョロキョロとおばあちゃんを探した。


 ヒカリの胸がザワついた。


—— おばあちゃん、雨の中長ぐつを探しに行ったんだ。

 

 どこまで行ったんだろう。

 無理してないよね。

 長ぐつだけじゃなくておばあちゃんが流されちゃったらどうしよう。


 ドキドキ心臓の音がする。


 ヒカリは玄関の前に立っておばあちゃんの帰りを待った。

 


 雨はあがり、空は赤くなっていた。


 ヒカリの目から再び涙が溢れそうになった時、シャカシャカ音をたてて自転車に乗ったおばあちゃんが帰ってきた。


「おばあちゃん!」


 ヒカリはたまらずおばあちゃんに抱きついた。


「ひーちゃん、ごめんね。長ぐつ見つからなかったよ」


 おばあちゃんは眉を落とした。


「そんなの。いいの。私が『あしたてんきになあれ』なんかしたから…… ごめんなさい」


 ヒカリは首をふってから、もう一度謝った。


「そうだったの、明日はハイキングだものね。そうだ、おばあちゃんもやってみようかしら。実は小さい頃から得意だったのよ」


 おばあちゃんはそう言うと、下駄に履き替えて出てきた。


「ひーちゃん、一緒に歌ってね」

「うん」


「あーしたてんきになぁれ‼︎」


 おばあちゃんの足から飛んでいった下駄は、カランコロンと音を立てると、鼻緒を上を向けて止まった。


 

***


 

 次の日


 隣のとなりの町に住むユウジは、おじいちゃんと一緒に川に釣りに出かけていた。

 手応えを感じたユウジは大声をあげた。


「じいちゃん! なんかかかった!」

「よし、あせるなよ、ゆっくり引き寄せろ」


 ユウジは、ワクワクして釣り糸を巻き上げた。

 が……あれあれあれ?


「マジか……ククク」

「ワッハッハ」


 釣り糸の先には、花柄の長ぐつが引っかかっていた。


 空は鮮やかな青。

 気持ち良く晴れた朝、川べりにおじいちゃんとユウジの笑い声が響きわたった。

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あしたてんきに なあれ 碧月 葉 @momobeko

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