異世界転生がしてみたい
皆さんは“異世界転生”というジャンルを知っているだろうか?
知らない方に簡単に説明をすると、現実世界ではパッとしない主人公が
このジャンルの
異世界ということで、出てくるヒロインも多種多様だ。人間はもちろん、エルフや天使に妖精、女神など様々な種族が登場し、どのキャラクターもスタイルがよく、
そんなこ男の理想のようなジャンルである“異世界転生”に俺、
中学二年の冬休み、進路を考えている同級生は勉強を始めていたし、そうでないやつもなんだかんだ忙しいと言っていたので、特にやることのない俺はとにかく
なんとなく開いたその本をその日のうちに読み終えると、次から次へと買っては読んでいった。
一つ難点だったのは、最初のうちはいいのだが、話が進んでいくうちに細かい粗が気になってきてしまうので、同じものを最後まで読み切るのができないことだろうか。
結局、冬休みが終わってからもブームは過ぎ去らず、一月後半に入った今でも休み時間は自席でラノベを広げていた。
「はぁ~、異世界転生してぇなあ……」
休み時間に持ってきていたラノベを読み終えたところで、思わずそんなことを口に出していた。
今日のやつは
「なあ、小泉、なんか言ったか?」
あまりに
「ごめんごめん、別にグレンに話しかけたわけじゃないんだ。読んでたラノベが面白かったから、思わず感想が出ちゃったんだよ」
「ふ~ん、よくわからんがわかった」
グレンはあんまりよくわかってないようだったが、一応納得してくれたみたいだ。
(そういえば、グレンってなんか主人公っぽい感じがするよなぁ)
クラスメイトはみんなグレンと呼ぶが、彼の名前は
その中二病っぽいあだ名はすぐに知れ渡り、俺のようなザ・普通な名前の人間からは
「————で、なにを読んでたんだよ?」
こういうところも鈍感なところが少し主人公っぽい。人の読んでいる本についてなんて、普通は聞かないだろ。
一瞬、考えた。こういうときにどうするべきか。
恥ずかしさとかもあったが、中学生ならラノベを読んでいるなんていうのは特に
異世界転生について簡単に説明してあげると、グレンは顔をしかめた。
「ふーん、そうか、そうかぁ。ちなみに転生すると雷とか氷が出せるようになったりするわけ?」
「うん?……ああ、作品によってはそういうのもあるかな。そういうのが好きなのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが。……そうなのかもな」
グレンの
「————お~い、グレン!ちょっと来てくれ!!」
教室の外からグレンを呼ぶ女生徒の声が聞こえた。その声にグレンは顔をしかめていた。
グレンを呼んだ人物の正体はわかっていた、グレンと同じくクラスメイトの
「グレン、呼ばれてるぞ。————彼女に」
「……別に彼女じゃないんだが」
茶化したわけじゃなかったのだが、グレンはあからさまに嫌な顔を浮かべた。
本人たちはいつもこんな感じで否定しているが、中学生同士の交際などおおっぴらに公言するの方が珍しいだろうし、この反応は当然だと思った。
というか、普通に考えて一緒にアイドルのライブへ行ったりしているうえに、グレンの志望校が急に美墨と同じところになったり、合格させようと美墨がグレンに勉強を教え始めたとなれば、確実にクロだろう。
「おい、グレン!早く来いって!!」
もう一回、グレンを呼ぶ声が聞こえてきた。今度は美墨が廊下から教室の方へと顔を出していた。その様子はかなりお怒りのようだった。
「早くいって来いよ」
「……仕方ねえか、行ってくるよ」
(あんなリア充に
グレンの背中をみて、そう思った。
***
学校が終わり、晩御飯を食べて、風呂に入って、と今日一日が終わろうとしている。
ベッドに入って天井を見つめながら
今日はどんな世界にしようか、どんなヒロインがいいだろうか、どんなストーリーがいいか、いろいろ考えて
まずはそうだな、始まりはやっぱりトラックに
ゲームの世界に転生した俺は、エルフの森に迷い込んで、そこで出会ったエルフの女戦士(美形で巨乳)に
転生して手に入れたのは、そうだなぁ、とんでもないほどの魔法の力で、いつもは制限してるんだけど、全力を出せば森を焼き払えるほどの炎の魔法としよう。
森の守り人という立場と
エルフを
「……んあっ?夢か、……いいところ、だったのになぁ」
いいところで目が覚めてしまった。ほんとにあと一歩だったのになぁ。
二度寝で夢の続きを取り戻そうかとも思ったが、ちょうどいいタイミングで目覚ましのアラームが鳴り始めてしまった。どうやら、二度寝するような時間は残ってないようだ。
制服に着替えて、学校まで歩いている間もまだまだ
あの後、転生した俺はどうなったのだろうか。あの雰囲気からなら、おそらくあのエルフの女戦士と結ばれているだろう。物語がどう進んだかはわからないけど、たぶん幸せな生活へと進んでいる気がする。
通学路の途中で遠くからブオンブオンとエンジン音が聞こえてきた。最近、この時間になると運転の荒い、危ない車がよく走っている。
この辺りは住宅街なおかげで、とにかく子供が多い。今日はタイミングがずれているから静かだが、小学生の通学団に囲まれながら学校まで行くことも日常茶飯事だ。
信号無視などもしているところを見たことがあるので、いつか警察に捕まるんじゃないかと思っているが、この感じだとまだそうじゃないらしい。
十メートルくらい先で横断歩道の信号が点滅しているのが視界の先に入ってきた。
距離的に走れば十分に間に合う距離だったが、まだ遅刻を心配するような時間でもなかったから走る気は起きなかった。俺は、そうだったんだけど————
「やばいっ!」
いつのまにか後ろを歩いていた、おそらく小学校低学年の男の子がそう漏らして走り始めた。
それだけだったらまだよかったかもしれないが、例のエンジン音がだいぶ近くまで響いてきていた。
「おい!ちょっと……!?」
嫌な予感がして追いかけるも、横断歩道までの距離が近すぎて追いついた時にはすでに横断歩道の真ん中だった。
そして背後から、例の車がキキーッと急ブレーキをかけながら交差点へと侵入してきた。どうやら左折するらしい。そしてその進路上には俺たちがいる。
俺は反射的に男の子の背中を押して、強引に反対側の歩道へと渡らせた。だけど、それが限界で俺が曲がってくる車を避ける余裕は全くなかった。
次の瞬間には体が宙を舞っていた。
空中で運転手と目が合った。
金髪で鼻にも口にもピアスをつけていて、なんだか頭の悪そうな男だった。
で、
交通事故に遭っても、ただ死ぬほど痛かっただけで、異世界転生なんてものには程遠かった。
そんな思いをしたところで、転生などできないのだと、現実を突き付けられたようだった。
————その後、俺は異世界転生モノを読まなくなった。
短編の本棚 ヌン @Nun1121
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