第4話◇ランコントル 叔父様と姪っ子◇

◇ランコントル

叔父様と姪っ子◇


アンジュは姪っ子と向かい合っていた。

悲運な姉が眠るお墓の前だ。

気まずい。アンジュは非常に気まずい、と額に汗がたらりと流れた。

アンジュは姪っ子に負い目がある。

手紙を読まずに引き出しに入れて忘れていたことだ。

アンジュを真っ直ぐに見る姪っ子とは違い、アンジュはその視線をさまよわせている。


姪っ子と目を合わせる勇気がない。

昔からアンジュは姉と目を合わせるのが苦手だった。全て心の中を見透かされているような気になるからだ。

まさか姪っ子にまでこんな気持ちになるなんて、わかってたら絶対に手紙を読んでいたのにと思うがわかるわけがないし、あれから自分の不甲斐なさにものすごく後悔したし、姪っ子の父や愛人に思いっきり八つ当たり、じゃなくて復讐もした。

僕に出来ることならなんでもしてあげるからどうかそんな姉と同じ目で真っ直ぐ見ないで。


そんなアンジュの心の葛藤を知ってか知らずか、姪っ子は母の最後の言葉を口にした。

放蕩男爵を頼りなさい、と言われたのでそうしたいです。私が信用したいと思うのが叔父様だけなので。

放蕩男爵……。ちょっぴりアンジュはナーバスな心を撫でた。

姉からそんな風に言われていたということにショックを受けている自分に、やっぱり僕ってシスコンだったのか。と。


姉に執着しているからこそ反発していたような気はしていたが、それを認めて僕はシスコンだと開き直るのには抵抗があった。

ああ僕はシスコンさ。姉が大好きさ。そう言える未来もあった。


アンジュは開き直る恥より逃げる恥を選んだ。


そんなアンジュを見て姪っ子が慰めてくれる。叔父様の話をしてた母は笑ってたので悪い意味では言っていなかったと思います。

十三歳だったか、しっかりした姪っ子だ。さすが嫌味な姉の子だなとアンジュは生暖かく微笑む。


この子は知っているのだろうか。

祖父母の話題をわざと出さないようにしている気がするのは、そういうことなのかそれとも、そもそも祖父母がいることすら知らないのか。


アンジュは姪っ子からの手紙を読んで真っ先に向かったのは両親のところだった。

三大三権の一つ、司法の法曹界において最高裁判官を務める両親は幾つも称号と爵位を持つエリート中のエリートだった。

そんな彼等には家庭も一つではなかった。

アンジュの事を思い出さないばかりか、溺愛していたと思っていた姉すら、あーそんな子供もいたかもしれないという態度だったので、結婚に失敗した姉は早々に彼等に見捨てられていたらしい。


復讐が成され地位も名誉も取り戻した今も彼等からの連絡は一切ない。彼等にしてみれば、穢れた黒歴史なのだろう。こちらから接触する気は微塵もないのでむしろ清々する、はいさようなら、ばいばい、絶対関わってくるんじゃねーぞクソ貴族様様が!


「……ちきひょぉー」


やしきに帰ったアンジュは酔い潰れて涎を垂らす、それを冷めた目で介抱する姪っ子と二人の生活がこれから始まるのだった。



Fin



◇簡単に各話の称号の解説とイメージを語るメモワール◇


ランコントル

縁、出会い、一期一会 巡り合いを一言であらわしたかったので。


エピソードタイトルが本文中にも書いてますが、称号付きの二行にして表したかった私の我儘です。タイトルのちょうど上に称号を付けたかったのです。


ここまでが「放蕩男爵と嘆きのヴィオラ」です。続きは書き上げたら編集しながらアップしたいです。

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放蕩男爵と嘆きのヴィオラ 蘭爾由 @asdecoeur

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