第5話 さよならが嫌いな私
第5話 さよならが嫌いな私
『――本日は、シンクライが同期されませんでした』
君は怒っているだろうか。
悲しませてしまったら、謝りたい。
けど、仕方がなかったんだ。
私には時間がなかった。どんなに拡張されても、時間は足りなかったんだ。
こんな別れになるなら、もっと違う形があっただろう。
でも、私たちはまた出会える。これで終わりじゃない。
君なら、きっとたどり着ける。
再会を願って――。
→ → → → → 拡張時間 → → → → →
← ← ← ← ← 現実時間 ← ← ← ← ←
『――同期されました』
可能性は広がり、世界は形を変える。
→ → → → → 拡張時間 → → → → →
← ← ← ← ← 現実時間 ← ← ← ← ←
『――同期、されました』
それは私の意志か、世界の意志か、どちらかはわからない。
前に進もうとする私に世界が示す。
→ → → → → 拡張時間 → → → → →
← ← ← ← ← 現実時間 ← ← ← ← ←
『――同期されました』
あの時、私には目的がなかった。
ただただ、拡張時間の中を旅をして何かを見つけたい、私には何かがあると必死だった。シンクライは凄いのに、私は凄くないと悩んでいてばかりだった。
有効な時間の使い道がわからず、彷徨っていた。
そんな私に目的ができたのだ。
御浜シイナ。
彼女に出会い、興味を持ち、好きになり、知りたいと思い、秘密を知り、永遠を誓って、
そして、失った。
けど、まだ完全に失ったわけではない。
彼女はいる。
この世界の、このシンクライの世界の中で生きている。
行方不明になったが、絶対に見つけるんだ。
私の時間は彼女のためにある。
「――さぁ、正義の味方を始めよう」
右手に同期された、もう一つの腕が動く。
彼女とは違って、まだ第三の腕として別の意識で独立して動かせない。
けど、右手を強化する意味では大いに役立っている。生身の腕ではできないことが、この機械仕掛けの腕は可能だ。遠くまで届き、加速し、壊すことが容易だ。
彼女が、マクハリを守っていた役割を担う。
この組織の意味を知り、役立とうと奮闘する。
「2秒後、3メートル右です」
感情が宿っていない抑揚ない声に指図され、ムッとする。
だが、命令に歯向かうことはしない。彼女、サラの言葉は精確で的確だ。私が計算するよりも、私のシンクよりも卓越して優れている。
なんせ、サラはあのシイナの分身、シンク、生きた軌跡なのだ。
「これくらい簡単にやってください」
「……うるさいな」
だが、シイナとは違う。自由奔放で明るかった彼女とは真逆のような性格だ。見た目はほぼ同じなのに、そのギャップに時々戸惑う。
余計な言葉が多くて反抗的で、文句も言いたくなってしまう。
「今日だけで何体相手にしたと思っているの! 連戦続きすぎ!」
「まだまだ足りないです」
「アムリは人材不足なの!? ブラック組織!」
「少数精鋭です」
「物は言いようだよ!」
「次は左からきます」
「うわああ、突然すぎる!」
「へたくそですね」
「うるさい!」
「そんなんじゃあなたは彼女に到底及びません」
「……わかっているよ」
まだまだ今の私じゃ、第三の腕を自在に操っていた彼女には及ばない。罪化されてきた時間が違いすぎる。
時間が有限なことは、今でも変わらない。
いまだ有限であるが、シンクライにより時間は大幅に拡張された。
時間は拡張され、世界は広がり、認識も感覚も広がった。マクハリの外では考えられない常識外の力が生まれた。
まだシンクライの可能性というものを私は信じられない。
彼女と語った明るい未来は見えない。
けど、首にかかったリングの永遠を私は忘れない。
約束したんだ。
だから、私は彼女に手を伸ばして、
「待ってて」
伸ばして、
そして、私の時間を取り戻す。
私の時間は、シイナのためにある。
――さよならは言わせない。
再会を願って、私は今日も時間を拡張し、この世界で戦う。
シンクライ 『第1章 ハジマリの音』 完
そして、物語は拡張される――。
シンクライ 結城十維 @yukiToy
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