最終話 俺たちの戦いは

「おめでとうございます。感動しました」


「ひろ○き……!」


 どことなく笑い声が混ざって聞こえるその声に、俺は警戒のまなざしを向ける。


「まさかもう1台あるとか言わないよな?」


「いえいえ、トロッコ問題はこれで終わりです。その解答が圧倒的な力でトロッコを捩じ伏せるとは、やはり暴力はすべてを解決するってヤツですか? 面白かったですよ」


 そう感想を話すひろ○きの言葉に違和感を覚えた俺は、その直感を問い質した。


「これで終わりとわかるってことは……お前は糞神ファッキンゴッドの側か?」


「はい、そうです。というか本人なんですよね、これが」


 両腕を開いてにこやかに笑うひろ○きの顔をした糞神ファッキンゴッド。俺はその相手の不快を煽る計算のされた顔を睨みながら、努めて冷静を装いつつ質問を重ねる。


「なにが目的だ」


「遊びです」


 耳を疑う返答に身体が固まってしまった俺を目で笑いながら糞神ファッキンゴッドが続ける。


「神様って暇なんですよね。なのであなたみたいな死んだ人間を使ってたまにこうした余興を催すんですけど、今回は『猫を助けるために死ねる人間に、トロッコ問題の轢かれる1人側の役をやらせたらどういう行動を取るか?』ってコンセプトで興じてみたんですね。ほら、こちらギャラリーの神様の皆さんです」


 そう糞神ファッキンゴッドが手を後ろに振り向けると、トロッコ問題のイラストの背景のように真っ白だった空間が歪み、そこから色がどんどん滲んできて、気づけば周囲360度が競技場の観客席に取り囲まれていた。群衆の歓声。このすべてが先程までの俺たちの奮闘を余興として楽しんでいた神々だという。


「この人間の姿を借りたのも、線路の切替レバーを握らせたら一番あなたが不安に思うタイプの人間だと思いまして。いやいや、おかげで予想以上に盛り上がる展開を演じて頂けて――」


 身体が勝手に動いていた。晶子の肩から飛び降り、糞神ファッキンゴッドのひろ○き顔に繰り出された俺のこぶしは、しかしその直前で奴の手に止められていた。


「ぶっ潰す」


「そんな闘志みなぎるあなたにご提案です」


 ギリギリとこぶしを押す俺の耳元に、糞神ファッキンゴッドが顔を近づけて囁く。


「我々が与える試練ゲームをすべて乗り越えたら、どんな願いでもひとつだけ叶えて差し上げましょう」


「それは……」


 その言葉に俺は当然といった口調で訊ねた。


「お前ら全員滅べっていう願いも入るんだろうな?」


「もちろん。お出来になるなら・・・・・・・・


 そううそぶ糞神ファッキンゴッドの額に、俺は自分の額を押し付けながら俺の決断を言い放った。


「じゃあ、殺ってやるよ・・・・・・


 俺の回答に笑う糞神ファッキンゴッドは、身体を離すと空の上を指し示した。するとそこから雲間に射し込む光のように輝く階段が俺の前まで伸び下りてきた。この先が次のステージってことか。


「晶子! 縄文人さん! ジャック・ニコルソン!」


 そこで俺は振り返り、後ろに並んだ3人を見る。首肯する晶子、力こぶで応えるパワー縄文人さん、ずっとシャイニングなジャック・ニコルソン。


 俺は3人に頷き返し、そして天へと続く階段を見上げた。


 糞神ファッキンゴッドどもが暇潰しに作った世界。多くの人間がその余興の犠牲になってきたことは想像に難くない。だが俺たちが力を合わせればトロッコ問題を覆したように、必ずこの糞神ファッキンゴッドどもの余興ファッキンパーティーも滅ぼすことができる。


「行くぞ!」


 俺は階段を駆け上がる。続く晶子、パワー縄文人さん、ジャック・ニコルソン。


 俺たちの戦いはこれからだ!




『トラックに轢かれて転生した俺の第2の人生はトロッコ問題で轢かれる役でした』《完》


 ※ラーさん先生の次回作にご期待ください!

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トラックに轢かれて転生した俺の第2の人生はトロッコ問題で轢かれる役でした ラーさん @rasan02783643

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