第5話 存在しない記憶
「?」
人間あまりにも意味不明なことが起きると脳が思考を停止してしまうものである。転生即トロッコ問題やシャイニングなジャック・ニコルソン、パワーな縄文人さんにも追随した俺の脳みそも、さすがに与謝野晶子の顔をしたガチマッチョの巨人には思考が停止してしまった。
だってこれ、あれじゃないか。力道山をなぜか殺さなかった世界線の与謝野晶子じゃないか。確かにスキル説明に「想像上を含む」の文字はあったし、そこでシャイニングしているジャック・ニコルソンもその範疇なのだろうが、英霊なのに非公式も含むとかFGOも驚愕の想像外含み過ぎだろ、この英霊概念。
そんな呆然の俺の肩に手を置いた与謝野晶子は、眉根ひとつ動かさない無表情ながらも力強く頷くと、線路の上を近づくデコトロに向かってゆっくりと歩き出した。
巨大な敵に揺るがず立ち向かうその背中は圧倒的勇者の背中。
「縄文人さん!」
「縺翫≧!」
俺とパワー縄文人さんは互いに頷き合い、その背中を追いかけた。与謝野晶子がなんだ。たとえ出身がクソコラネタ画像であっても、たとえ若い力道山のバナナを揉んでやろうという気概を持っていようと、その背中は勇者の背中だ。ともに戦う戦友として不足などあるものか。
しかしその背中に追い付く前に、晶子はもう戦いを始めていた。
「君――」
晶子が構えを取る。右手を顔の高さに掲げ、左手を腰の付近に据え、足を肩幅ほどに開いて半身に構えた。
「あ、あれは……!」
それは与謝野流柔術
「――死にたまへ」
その一言で勝負は着いた。
晶子がデコトロに渾身の左
――
晶子が女癖の悪さに定評のある夫、鉄幹の朝帰りを
晶子の一撃で火炎放射ギターマンを振り回しながら空中を舞うデコトロ。そこに晶子の右
――
晶子が朝帰りの言い訳を始めた夫、鉄幹の頭を強制的に土下座せしめたときに使われたと伝えられる奥義である。柔術なのに打撃技が中心なのは、師にして夫である鉄幹の油断を誘うためだったと、俺の中の存在しない記憶がそう叫んでいる。
晶子の追撃で「ウォー!」と叫ぶボーイズたちを撒き散らしながら地面に叩き伏せられたデコトロが濛々たる土煙の下に沈む。
そして大地には勝者だけが立っていた。
「晶子!」
「譎カ蟄�!」
俺とパワー縄文人さんが晶子の元に駆け寄る。振り向いた晶子は変わらぬ静かな、けれど確かな勝利を湛える表情で頷くと、俺たち2人を抱え上げて自分の肩に座らせた。勝利のパフォーマンスだ。
「勝ったぞぉぉぉぉっ!!!!」
「蜍昴▲縺溘◇!!!!」
勝利の勝鬨を上げる俺とパワー縄文人さん。それを優しいまなざしで見上げる晶子。ニタニタ笑うジャック・ニコルソン。
そんな俺たちのところに、パチパチと拍手をする音が近づいてきた。
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