小さい秋見つけた。

健野屋ふみ(たけのやふみ)

暦の上では秋のある日

高校受験を控えた中3の夏。


わたしはクーラーの効いた部屋で、ふと小学3年の時に出席番号が同じだった男の子の事を思いだした。


始めて手を繋いだ男の子だ。

初めて男の子として意識して手を繋いだって方が正確かも。

多分、出席番号が同じだったから、何かの行事で手を繋いだのだろう。


でもその子は、親が離婚したとかで、1学期だけで転校してしまった。

「親が離婚すると苗字が変わるんだ」と当時驚いた記憶がある。

たった3か月だけ同じクラスだった子だ。


恋心があった訳でも、それほど親しくした訳でもないのに、なぜかその子の事は記憶に残っていた。


オレンジジュースを飲んだマグカップを、机に置くと、ふと何かが視線に入った。


「あれ?!あきくん?」

「やあ、久ぶり、暦の上では秋になったから、来ちゃった」


10センチぐらいの身長の、あきくんが机の上にいた。


「その身長はどうしたの?」

「あの後、色々あって、今は冒険の途中だから、小っちゃくなってんだ」


冒険の途中だから小さくなったって?


「はるちゃんと一緒に冒険しようと思って、迎えに来たんだ」

「わたしと冒険?」

「約束、覚えてる?」


約束?

小3の頃の約束?


そもそもそんなに親しかった訳ではない。


「覚えてない」


あきくんはちょっと考えて

「ぼくと冒険する?」

とじっとわたしを見つめた。


「わたし受験あるし・・・」

「そう」


あきくんは残念そうに呟いた。そして

「じゃあぼくは冒険の続きがあるから、さよならだよ」

そう言うと、忍者のように煙幕を張って、姿を消してしまった。


静まり返った部屋で、わたしはじっと小3の頃を思い返した。


「違う!」       

わたしは、突然思い出した。

始めて手を繋いだときの、あのときめきを!

偶然、一緒に帰ったあの日のドキドキ感を!

あの時、親が離婚して転校するって告げられた事を!


そう約束した!

わたしたちは間違いなく約束をした!

あきくんの横顔をずっと見ていたいと思ったから!


「あきくん、待って!」

わたしは、あきくんが消えてしまった場所に向かって叫んだ。


部屋には静かな時間だけが流れ続けた。




おしまい




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小さい秋見つけた。 健野屋ふみ(たけのやふみ) @ituki-siso

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