第49話 最終回のおまけ

「わ、私・・・ミカエル様の良き妻となります。アナフィエラにも、良き姉として、セーレ大公にも良き義姉になります。ですから・・・ですから・・・・。」

 デカラビア公爵令嬢ラグエラ嬢は、目に涙を浮かべながら、可愛い顔で必死に俺に縋りついていた。怖いほどに、凛々しい、気高い、悪役令嬢としての彼女はそこにいなかった。

 結婚前に俺の別邸に連れ込み、もちろん父公爵の了解済だ、5日間徹底的に虐めた、いやいや、彼女の困ったちゃんぶりを散々に説教して、俺の苦しい立場も説明し、このままではお前は俺を支えられないし、励ますことも、助けることもできないとこんこんと説得し、最後は愛しているんだ、お前と共にずっと歩みたい、生きたい、と飴をたっぷり渡して、媚薬もたっぷり使って、たっぷり時間をかけて、そっちの方もベッドの上で汗びっしょりになって組んずほぐれつして教育した結果だ。

 もう可愛い、俺と二人三脚、妹夫妻と仲良く、国を支えてくれる、辺境大公とは結ばれない悪役令嬢、婚約破棄はされない悪令嬢ラグエラが誕生したのだ。


 え?俺?王太子ミカエルだ。前世は悪友のセーレ大公ラミエル、前々世はこの原作を知る日本人だ。さー、辺境大公殿はどうでるかな?


 結局、ペリアル大公様は、反乱を起こして死んだ。やっぱり多くの人命が失われた。そして、あのミカエル様もつまり前世の俺で俺ではないも、大変だった、よく頑張ったと実感したものだ。


「わ、私はそんなに嫌な女達だったのですか?」

 ラグエラ嬢は、涙で目をうるうるさせて、俺の方を見た。セーレ大公は、そんな、年下の義姉になるはずだった彼女の肩を優しく抱いていた。彼女も、彼に身を預けるようになっていた。うまくいったと思った。彼女に、こんこんとミカエル様の苦悩と彼女の困ったちゃんぶりを説明してやったのだが、成果は上々。彼女は、可愛いMになっている。

「二人は、結婚しないか?お二人は、互いによく知った仲、そして、愛する者を失った同士。それに、本心では心憎からず思っていたろう?他人からは丸見えだったよ。」

「は?」

 目が点の二人。嘘だよ。でも、落ち込んでいる今、暗示のように、そうだったのか、と思い込んでいるね。大成功。最後の締めだ。

「では、今日はわが家に泊まっていきたまえ。そして、むすばれたまえ。ベッドは一つだけ、特大サイズだがね。ああ、二人には、そのお茶にも、菓子にも媚薬をた~ぷり入れてあるから、もう逃げられないよ。」

と俺は悪戯っぽく笑ってやった。そして、塗り薬タイプの媚薬も渡し、彼らを寝室に押しこんでやった。

「良き王太子妃の、将来の王妃の義姉、義兄、そして、国の近衛であるセーレ大公夫妻となりたまえ。」

とその背中に言葉をかけてやった。

 その夜、激しい組んずほぐれつのベッドの軋む音、大きな喘ぎ、叫び声が、あがったという侍女達の報告を受けて、翌日、目の下に隈を作っていた二人を笑いを堪えて見ながら、食事を取る俺は安心した。前世は俺だった、セーレ大公ラミエル君だ、流石だよ。


 え?俺?ペリアル大公閣下、サムエル君だよ~ん。正確には、今度はペリアル大公に転生したんだ、いい加減にして欲しいね。死にたくないから、それに社会の進歩を遅らせたくないし、多くの人命を犠牲にしたくないし、ラグエラ嬢を毒殺なんかしたくないし、そして、かつて自分であった者達を殺すのは何となく後味が悪いから、

「先代の大公陛下がなんと言うか…。」

と元宰相を落胆させて、早死にさせてもしかたがないと思っている。領地外で「大公殿下」、領地の中で「大公陛下」と呼ばせる僭越的な敬称は廃止、王家に、王都に張り合う、対抗ための、将来取って代わるための、開発などは大幅に縮小、修正、あくまでも大公領の発展になることだけを考えたものにした、等等ですっかり落胆で今は、寝たきりだ。

「父に怒られます…。」

 この小柄で可愛い、軍師にして、宰相、副官、秘書、側近は沈み込んでいるが、

「おまえのせいではない。俺のせいだ。嘆く必要は、お前にはないよ。」

と抱きしめてやる。

「た、大公陛下。こんなところで…。」

 思いっきり抱きしめてやる。恥ずかしがる彼女は、本当に可愛いい。ちなみに、俺は今独身で愛人は彼女一人だ。そのうち、正式に結婚して、彼女一人を愛するつもりだ。


 ようやく、内戦なんかない、平和な人生を終わりそうだ。元凶のペリアル大公が諦めたんだから当然だな。ベッドの上で死ねる。ミカエル国王陛下以下、皆に看取られ、感謝されて。辞世の句…やっぱり秀吉かな…え~と、どうアレンジしようかな…。

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悪役令嬢は辺境大公にはあげません。ぼくが貰いました。 確門潜竜 @anjyutiti

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