第48話 追憶(最終回)

 それから数年間、2人は、彼とラグエラの思い出にひたるように、その思いでの地をまわった。

 そしてアナフィエラ、前王妃は前セーレ大公ラミエルを残して、天に召された。


 全く、50になっても美人で・・・。ラグエラもとても40前とは思えない若々しかったな、死んだときも。二人の爺さんたちは長生きで、ぎりぎりまで矍鑠、何時までも生きそうで、殺しても死なないと思えるほどだったし、父親も70を超えて元気いっぱいだ。あの家系は、女は短命で美魔女系、男は長命系なのだろうか?


 海岸で、薄着になっているアナフィエラは、そこから目に浮かぶ裸体には、まだビキニが、似合うかも、と思わせる容姿だった。この世界にはまだ、そんな水着は存在しないし、作っても受け入れられないだろう。ああ、こいつも…ラグエラもよく似合って、見ていて興奮したろうな…男として残念無念残念至極・・・。

 海岸の別邸。マイビーチで、海水の感触を味わっていた彼女が、急に立ち止まり、遠くを見るような眼差しになっていた。

「あの要塞の上に立って、ラグエラお姉さまは、砲撃を陸に海にお命じになられたのですね。凛々しいお姿が、目に浮かぶようですわ。」

 何故だか、ラグエラは戦いでも、神話化してしまっていた。

「小水をちびりながらも、凛々しく、敵に向かっていたんだよな。」

「え?」

「初めての実戦で、しかも苦戦。怖くて、そうならない方がおかしいよ。でも、彼女はそうであっても凛々しく振る舞っていたんだ。だからこそ、俺は励まされ、士気を鼓舞出来たんだ。」

 これでも、結構盛っているが…。でも、とにかく、彼女はよくやってくれたことは確かだ。

「あ、あのお姉さまが…。怖くて…でもそれを見せず…。」

 誇らしげだった。まあ、その通りだよ。

「で、でも…小水を…、どうしてお分かりに?」

「その夜、彼女の下着を脱がせて…分かったよ。恥ずかしがっていたけど、二人とも一層燃えたよ、ベッドの上で。それで、ラグエラの声の大きかったことといったら…。それで、一層、我が軍の士気は高まったよ。」

と笑いながら説明してやった。

「も、もう、あなたは本当に変態さんですわ。」

 ラグエラもだと思うよ。それは黙っていてやった。ラグエラと俺の戦場をまわり、俺の奉天、ワーテルローも含めて、そして北方まで、彼女と俺はラグエラと俺の思い出の地を見、思いを寄せた。

「ラグエラお姉さまが、こんなパン、硬い雑穀パンを?」

「白米より雑穀の方が多いライスを、美味しそうに食べたのですか?」

「熊肉、鹿肉…さらに…までも…?」

 彼女にとっては、どんなことも偉大な姉を感じさせるものだったらしい。

 それは、国境に近い別邸での、隣国貴族を招いての会食の時だった。相手も、国境付近に領地のある侯爵である。友好関係維持のために、このようなことを行っている。情報交換でもある。その侯爵は、俺とさほど変わらない年齢で、同伴の夫人、後妻でかなり若いはずなのだが、アナフィエラとあまり変わらないように見えた、とともにラグエラの思い出を熱く語ったくれた。

 アナフィエラは、彼らの話を目を輝かせて聞いていた。そして、彼らが我が領内の珍味を美味しそうに食べ始めると恐る恐る食べ始めて、

「美味しい。」

と舌鼓をうち始めた。この点については、俺の前世の知識で洗練された結果でもあるが。

 彼らの話は、講和成立後、この地で隣国貴族を招いての宴でのラグエラの言葉だった。今後の恒久的平和の利益と進歩的な立場からの提言などを彼女は語った。かなりの部分、俺をはじめとした面々の入知恵、下準備の上ではあったが、流石だなと

思ったものだった。彼女には。原作の描く彼女の素質が十分あったのかもしれない。誰のもとだったら、開花して、活かせたのだろうか?


 アナフィエラが先だって2年後、俺は、ふと一人になった時、急に立っていられなくなり、近くの椅子にやっとのことで腰を下ろしたが、そのまま急に意識が遠くなるのを感じた。俺も死ぬのか・・・。あれ、これって、プロイセンのフリードリッヒ2世みたいじゃないか?まあ、彼のように人間嫌いの偏屈な疲れ切った最後ではないけれど・・・。

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