第47話 最初にもどったということでしょうか
王母でもあるアナフィエラは、テーブルを挟んで甘い上質のワインをラミエルと酌み交わしていた、彼の妻として。
この人は、私の婚約者だった。私はラグエラお姉さまの婚約者であるミカエル様と結ばれ、ラグエラお姉さまはミカエル様から、ラミエル様は私から婚約破棄される形となった。ラミエル様は、その直後、ラグエラお姉さまを、実は愛していることがわかったと言って、ラグエラお姉さまに求婚、お姉さまはそれを受け入れて、お二人は結婚された。
思えば恋、愛と言えば聞こえはいいけれど、盲目的に勢いで突き進んでしまった結果、お二人にはひどいことをしたと思っているわ。私が、ミカエル様を、苦悩して疲れて、支えを欲しがっていた、を見棄てることが出来ず、同情したためではあるけれど…、それとて、弁解にはならないわよね。
でも、ラミエル様はお姉さまをこよなく愛し、私達を、王家を国を支えてくれた。
そして、ラグエラお姉さまも、愛されると女はこんなに変わるものかと思うくらいに変わったわ。いや、ラグエラお姉さまは、本当はそういう人だったのかもしれない。私にとって優しい、頼もしい、お姉さまになって、ラミエル様とともに、私達を支えてくれたわ。怖い、意地悪なお姉さまは、私やミカエル様の愛が、足りなかったせいなのよ、結局。
まあ、話半分だとは思うけど、それを書いた、ハムスター顔は、
「は?ずいぶん、抑えたのですけど、ハハハ…。」
言っていたけれど、恥ずかしいことこの上ない、二人してこんなこともあんなこともして、彼に、えー!と思われるようなおねだりをした結果らしいのだけど。
内戦を勝利で乗り越え、その後の復興。
ラグエラお姉さまが亡くなって、10年…。本当に素晴らしいお姉さまだと…、その妹で良かった、本当に思っているわ。あの時には憎んだことさえある日々は、遠い、僅かな合間の悪夢のように記憶の片隅に行ってしまった。
お姉さまが亡くなって、後を追うように、夫である国王陛下、ミカエル様が亡くなったわ。天上で、お姉さまに、何と言って挨拶をされたのだろうか?きっと、私を残して旅だったことを𠮟りつけているんじゃないかしら。
大公の位を、ラグエラお姉さまとの間に生まれた長男に譲った後、枢密院議長として、元老として、ミカエル様の跡を継いだ、私とミカエル様との間の長男を、彼はよく支えてくれたわ。
「そんなに議会に譲歩しては…。」
と、さすがの私もヒヤヒヤしたけれど、結局、彼の助言、方針で上手く行ったわ。国民議会は普通選挙で議員を選出、貴族、国王からの選任者、議会からの推薦者からなる元老院。枢密院は、議長として解散、自らはそのまま引退ということで幕を引き、安定をもたらせてくれた。
あの北方の熊女、ラグエラお姉さまを侮辱して、あまつさえペリエル大公夫人としたあと、彼が王位に就いたあと、暗殺しようとしていた女、を妻とした時には、お姉さまを失い悲しみで茫然自失になったとはいえ、なんということか、と思ったものだったわ。
でも、それが、北方での、まだ残っていたわだかまりを解消させ、彼女がその後国のために尽くした貢献を見ると、彼の家臣は国のために、皆、大いに働き、つくしてくれたことを考えると、ラミエル様が、王家、国のために考えての結果だということが分かったわ。
それなのに、何故かペリアル大公が、まるで革命思想を掲げたとか、彼なら一気に民主主義を推進した等という物語が出回るのに、ラミエル様やお姉さまの功績は、あまり語られないのはどうしてかしら?腹がたつけど、どうしようもないのが、さらに悔しいわ。ラグエラお姉さまは、なんとペリエル大公と相思相愛、純愛物語で語られたりして…。これもそれも、ラミエル様が…謙遜の美徳も過ぎると、非礼になるのが分からないのかしら?
しかも、「セーレ大公の結婚」という、悪役令嬢、だけど美人、聡明、誠実、聖女のようで、戦いと平和と文化の女神のような、ラグエラ嬢が、屑のセーレ大公ラミエルにいわれなき婚約破棄をされ、イケメンで高潔、賢明なベリアル大公と結婚して、2人して屑のラミエルにざまあして、国中から慕われて、ラミエルはこれでもかという悲惨な最後を遂げるオペラが大人気。私は現国王の長男に上演禁止を進言したほどだったし、彼もかなり心配したのに、ラミエル様は笑って、
「こういうものは禁止すればかえって人気のでるもの。昨年流行のオペラだがどんな内容だ、と国王陛下が公で言ってくださった方が効果があるのではないですか?」
ですって。試しに常に、国王陛下以下、そう言うようにしたけど、効果があったかどうか・・・結構人気をはくして、そのうち下火にはなったけど。
私はそれに引き換え、私なんか、ミカエル様を励まして、励ますためにいつも笑顔でいる、倹約をして、公開出産時までして国庫に貢献することくらいしかできなかったわ。あとは、お姉さまと彼をひたすら信じて、信頼して、それを揺るがさないだけだった。ミカエル様は、そんな私に、
「君のお陰で、僕はやってこれたんだ。」
なんて、有難いお言葉をくれて、生涯私だけを愛して下さった。身に余りすぎる光栄、名誉だったわ。あの方との、結婚も、生活もかけがいのない、幸福なもの、後悔はないわ。皆に苦労を、迷惑をかけてしまったけど。それを守ってくれたのも、ラミエル様とお姉さまだったのよね。
夫であった前国王陛下ミカエル様の喪も過ぎ、現国王陛下、私の長男も即位、子供、私には孫、も生まれた。そして、ラミエル様も独身にまた戻り、そして日々が過ぎた。
そして、私は王族から去り、前セーレ大公ラミエル様の妻となった。私の方からの申し入れだったわ。あの方は、
「始まりに戻ることになりますよ、長い回り道をして。」
なんて苦笑したけど、許してなんてあげなかった。
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