第46話  悪役令嬢は幸せだったのだろうか?

「多分、ご実家は3年以内に粛清したでしょう、もちろん、おもだった一族処刑していたと思います。その前に、・・・ラグエラ様も亡き者にしたでしょうね、毒殺で、私は。ぺリアル大公様は悲しまれたでしょうが、止めなかったでしょう・・・、計画段階から・・・。」

 彼女はラミエルの下で、悲し気に言った、金髪の小柄な女は北方の熊女、ハラリエル・アンドュだった。

 彼女は、降将として礼儀をもって丁重な待遇で捕虜となり、その後、特赦令で解放され、ラミエルの監視下に置かれることになった。比較的自由な待遇の中、彼の安藤昌益ことウェパルとの問答を経て、彼の弟子となり、最終的にラミエルに仕えることとなり、その有能ぶりをしめすようになった。ラグエラをはじめ皆、凄惨な処刑を望んでいたことは、とうに忘れていた。

 内戦終了後、2人で奮戦した結果、3人の子供を産んだラグエラは、まだ20代にしか見えなかったが、40を目の前に風邪をこじらせて天界に召された。

 その三回忌を過ぎ、大公の位をラグエラとの間に生まれた長男に譲ったラミエルは、流石に反対する子供たちに、

「お互いに最愛の者を失った者同士」

と説明、力説して、たまたま近くにいることの多かったアンドュと再婚することになった。互いに50を目の前にした、熟婚である。

「死にそうです。」

「俺も死ぬかと思ったよ。」

 荒い息で、ゼイゼイ言いながら並んで仰向けに並んでいた。"あれ、あの課長から始まる漫画の主人公が中年になっての、同じくらいの女とのセックスでこんなセリフがあったような・・・。その年齢を超えているもんな、俺達は。"とラミエルと思い出したりしていた。

「まさか、あの時、婚約破棄イベントになると事前に察知していたのか、まさかとは思うが。」

「婚約破棄イベント?ああ、ラグエラ様が婚約破棄された時のことですね。ええ、仰るとおりです。3人の関係は分かっていましたし、忍び込ませていた学生や侍女から情報がありましたから。しっかり、その後のことも完璧に計画を立てていました。」

 恐ろしいな、とラミエルはまず、思った。どうしてこいつらに勝てたんだ?と次に思った。その思いを察したように、

「セーレ大公様のことを全く考えていませんでした、全く。全てを先に見通しておられました。あの時、私はわかりませんでした。分かっていれば・・・ベリアル大公様に、セーレ大公様とともに、新しい世を担うようにお勧めしたのに・・・きっとおわかりになってくれる方だったのに・・・。」

 彼女は、ラミエルの胸に頬を摺り寄せながら、悲し気に言った。

"分からなかったと思うな。"と思うラミエルの心の内を無視するかのように、

「あなた様は、私など足下に及ばない素晴らしい方々を見出し、よく使い、導きました。どうして私は分からなかっのか?所詮私は愚か者だったのです。ぺリアル大公を・・・父上の期待に応えられなかった・・・。」

 とめどもなく後悔の言葉を紡ぐ彼女の頭を撫でるしかなかったラミエルは、"あいつらは・・・あいつらのおかげで・・・俺は何もしていない。・・・それなのに、俺だけが長生きしてしまって・・・。"

 義経以外は全員彼よりも年上だった。その半ばが、今現在の彼よりも長く生きたものの、既に死んではいる。義経などは、一昨年40代半ばで死んだ。"女達が大泣きしたな。秀吉の時も・・・葬式の時は、悲しんでいたが思い出話で沢山の女達でにぎやかだったな・・・このために功徳を積んで来たのか、あいつは?と思ってしまったな。三人組の中の女好きの奴が映画の最後で語ったセリフだったな。"皆、国内外で大活躍していたにも関わらず、あくまでセーレ大公、ラミエルの部下、家臣であり続けた。"あれだけ優れた連中が揃いもそろって・・・、馬鹿野郎どもが。"と彼は憎々し気に思わざるを得なかった。全員、

「閣下の家臣で幸せでした。」

「ラミエル閣下の下で、私はありえたのです。」

と今わの際ですら口にしたのである。"何か悲しくなってくるな。"と思うと、後悔のループに陥っていたアンドゥと互いの顔を見つめると、また惹きつけられるように唇を重ねてしまつた。また、死にそうだった、と口にすることになったのである。


 その彼女も三年足らずで、亡くなった。俺の妻として、秘書官として、側近としてよく努めてくれた。俺が、国のために尽くせたとしたら、彼女のおかげだろう。

「ラミエル様と・・・最初から・・・その傍らで働いていたら・・・。でも、それが最後の最後でできて、私は幸せでした。」

と満足気に、ラミエルの手を握って言った。それが最後の言葉だった。


「全く。お前は・・・あらゆる意味で女殺しだな。」

「それは酷すぎるぞ。元気すぎるのが、悪いんだろう?」

「それじゃ、ますますひどい言い方になるのではありませんか?一番苦しんでいるのは、ラミエルなんですから。」

「まあな。で、どうだ、この間もってきてやった話は?」

「話ってなんだい?」

「まさか、再再婚話を持って来たというのですか?ちょっと、それは・・・。」

「それより、そんなもの好きがいるのかい?・・・悪い、悪い。」

「何言ってるんだよ。結構人気なんだぞ。若いのから妖艶な未亡人まで、さらに、美人を厳選してやったんだぞ。十人だったかな。」

「いや、十一人だったよ。」

 悪友3人組の騒がしい議論の中に、苦笑しながらラミエルは参加した。国の檜舞台で活躍している彼らとは、今日のように、時々酒を呑みながら語り合っていた。半年前には、ラミエルの傍らにアンドュがいたし、数年前にはラグエラがいた。彼らもそれを思い出すと心が痛んだ、だからこそ忘れるために、ラミエルに思い出させないために、そらに議論を続けた。ラミエルもそれを何となくわかっていたから、微笑んでいるしかなかった。



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