夜。やっと見つけた羽化始めの幼虫を撮影している最中、虹人くんが、虫取りをしている。

 

 飛び回る蝶を、全力で追いかけている。

 思わず、頬が緩む。

 同じ虫好きとして、虫と対面するときは、笑っているべきだろう。

 ……初めてセミを撮った日と比べて、彼の表情は明るくなった。

 それはとても、嬉しいとも。


 おや。


「灯奈さん!つかまえました」


 虹人くんが報告に来た。彼のカゴの中に、セミが一匹いた。じぃじぃ、と泣いている。


「すごいじゃないか」


 笑う虹人くんの、頭を撫でる。くすぐったそうに首を縮める姿が、かわいらしかった。

 と。

 犬みたいに顔を揺らす彼の動きが止まる。

 その視線の先には、虫がいた。

 まだ新鮮な、蝶の死骸だった。


「灯奈さん」


 と、熱っぽく虹人くんが言う。

 彼と共通していることが、私と同じエゴを持っていることが、嬉しくなる。

 初めて彼が、怒りに狂ってセミを握りつぶした姿を見たときと同じく、安堵に笑む。

 私と同じ間違いに転げ落ちてくれてありがとう。一生、仲良くいようね。


「いいよ。じゃ、まずは羽を───」


 そんなことを、思いながら。

 七日で死ぬセミが鳴く中。

 私は彼と、仲睦まじく。

 二回目の、共同作業を始めた。

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飛んで■に入る。 創(x @start_tsukuru) @tu__k__u__ru

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