問題ありすぎる異世界転生

マネーコイコイ

第一話 神様の言うとおり。柿の種。くわっくわっくわ!

「うっ持病の心臓の病が……なかったか」


 俺は生きていた。


 死んだはずだった。あれは会社で休日で急遽休んでしまった同僚の代わりに荷物の整理整頓を頼まれて、39度でエアコンのないところで作業してたら、熱中症で意識が吹っ飛んだ。


 のどが渇いた。最初にそう思って目を覚ました。そこは白い空間だった。


【おお、親愛なる人類の子よ。神のためにまこといままで頑張ってくれた】


「なんだ? 声がする。でも、誰もいないぞ」


【ここよ。ここ。お前の頭の中に直接話しかけている】


 俺の右手が勝手に動き、頭をコツコツたたいた。なんとも嫌な気分だ。自分の体が自分のものじゃないような。


【我は神。地球統一転生神六十二柱の一人。アマデウス。今日はお前に新たな生をさずけにきた】


「神? 一体、何の話だ」


【言葉を慎め。我は神ぞ】


「俺は神なんてしらん」


【もう一度、お前を現世に戻すこともできる。だが、仕事を忘れ異世界スローライフを送ることもできる】


「スローライフ。何かの文献で読んだことがある。それは憧れの田舎ぐらしというやつか?」


【そういうものだ。転生。聞いたことはないのか? 異世界転生したらスライムだった件とか、お前はしらんのか?】


「知らない」


【ふむ。お前は勤勉なものだな。趣味はもたないのか?】


「プライバシーをなんであんたに話さないといけない」


【それもそうだ。では、本題に移ろう。今からお前を転生する。だが、お前にはまだ現世に未練がある】


「未練?」


【まずは仕事を辞めろ。話はそれからだ。そして、もし本当に異世界でスローライフを送りたいなら、今の仕事を辞めてニートになれ。そして、我を呼べ。さすれば汝に祝福が訪れる】


「それは一体どういう――」


 白い世界は終わり、目の前が真っ暗になったと思ったら、二つの光が見えた。


「うっ持病の心臓の病が……なかったか」


 話は戻ったが、俺は生きていた。どうやら俺には未練というものがこの現世にあららしい。俺は憧れの田舎暮らしというものに興味がある。


「会社辞めるか。もう無理だ」

 

 体は汗だくだった。倉庫内の温度計をみたら42度になっていた。普通に死ぬ気温だ。俺はどうしていままでこんなブラックな会社で働いていたんだろう。そうだ。楽して生きたいからだ。


 俺は今年で30歳になる。まだ老後まで十分な資金はないが、田舎で倹約を心掛けながら、仕事を探したらなんとかなると思う。


「帰るか」


 俺はネクタイを外して、まずは糞ったれの上司のデスクの上にばしっとたたきつけてやった。ざまあみろ。上司がいないから何も怖くない。今日はみんな休みだ。会社にいるのは俺一人。そもそもどうして休みの日に俺だけ働かないといけないのか。来月の納品に間に合わないとか、そんなこと知るものか。だいたい、いつも休みの日まで仕事をためるのがだめだ。それを俺と同期の友人と二人で作業してたとかありえんだろ。


 友人すまんな。俺は会社を辞めるぞ、先にな。


「家に帰ったら、どうするか。まずは寝よう」


 俺は近くのコンビニでジュース三本を買って、歩きながらまずは炭酸のきいたものを飲んだ。


「くぅーーーーうめえ」ゴクゴクゴク。たまらん。


 夏の炎天下の日差しが強い。腕がパンになりそうだ。蝉がミンミンミン、ミーーーーーーン! とけたたましく鳴く、夏というのはこれくらいでちょうどいい。久方ぶりな気がする。いままでいた場所があまりに地獄すぎた。この暑さがまるで天国のように思える。


「家に到着。ただいま。俺しかおらんけど」

 

 俺は畳の上にジュースを丁寧において、そのまま畳の上で横になった。

 もう動きたくない。眠い。死ぬほど気持ちしい。ぽかぽかだし。なんだか寒気もするくらいだ。


【お休み】


 あれ? 呼んでないぞ。


【二度目だな。だが、安心しろ。お前にはまだ現世に未練がある。次はお前の好きな彼女に告白しろ】


「いや、俺ニートなんだが? どうしろと?」


 たしかに俺には好きな人がいる。会社で知り合って、LINEでくらいしかやり取りしたことないけど。


【告白しろ。さすれば、汝に祝福が訪れる。目を覚ませ。祝福の力をみろ。そして、神を信じろ】


 俺はじりじりとなる糞うるさい目覚ましを止めた。


「朝か……俺はまだ生きてたのか」


 昨日は二度死んだような気がする。とりあえず、畳の上をみるとジュースが五本あった。買った覚えはないんだが、牛丼もあった。


「祝福……寝ぼけて買ったかな」


 俺はコンビニのレシートをみた。そこにはジュース三本で三百円とだけ書かれていた。


「まじか。神様ばんざいだな」


 得した気分だ。牛丼代で300円は儲かった。

 

 俺は朝飯の牛丼を食べて、少し祝福の力というものを試したくなった。どうせ今はニートだ。あの人に告白して振られたほうがいいと思う。彼女は俺が好きなのはなんとなく知ってたけど、今振られる方が彼女の人生のためにもなる。時間を無駄にしちゃいけない。だから、告白しよう。


「少し悲しい告白だな。だけど、もし本当に祝福で恋が叶うなら、例えそれが夏のほんのひとときでもいい」


 俺は蝉になりたかった。


「スマホ、LINE」


 俺は彼女へとメッセージを送る。すぐに既読がついた。


「今から会えますか? まじか!」

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