第7話 人間飛び箱(そう呼んでるの私だけ?)
「好きな人同士でペアを組んでー」
体育教師のそんな指令にアタフタしていたのは、昔のことだと分かっていても、どうにも胃が痛くなる。
「桜ちゃん、一緒にやりましょう」
駆け寄ってそう言ってくれる摩耶ちゃんに癒されて、徐々に体調が良くなる。
「うん」
改めてお礼を言っても困らせてしまうだけだから、簡素な返事に留める。
準備運動史上最も楽しい、人間跳び箱をする。
1人がかがんで、1人が飛び越えるアレだ。
準備運動として機能しているかは分からないこれが好きという同志は多いのではないだろうか。
「私、先に箱やるねー」
「うん。お願い」
こんな時くらいしかすることのないやり取りをして、腰を曲げる。
私は身体が硬いので、手が靴に触れるまでが精一杯だ。
「いくよー」
摩耶ちゃんが手のひらの体温を背中に感じる。
一気に重力が背中にのしかかってくる。摩耶ちゃんは小さいから、まだマシだ。
トータルで10回飛ぶ。
なんとなくのマナーとして、箱側の私が数える。
「いーち、にーぃ、さーん、しぃーい」
古今東西に伝わるアホみたいな数え方をしていると、平和だなぁと感じる。
・・・摩耶ちゃんは小ちゃいから、アレができるか?
飛んだ瞬間に背中を伸ばして無理やり跳躍させるやつ!
中学までは、そんなことを試せる友達がいなかったけど、体育会系の男子がやっていて、楽しそうだなとは思っていた。
摩耶ちゃんなら笑って受け入れてくれそうな気がする。
今こそ、憧れのノリをする時だ!
「きゅうぅう(※九と言いました)」
ふんっ、と背中を上に上げる。
飛んだと言えば飛んだかもしれないけど、思ったより飛ばなかった。あと、つまらなかった。
「・・・?」
仕掛けられた摩耶ちゃんは、何が起きたか分からないという顔をしていたけど、無視をした。これ以上スベリたくなかった。
「あ。じゃあ桜ちゃんの番だよ」
「おうよ」
恥ずかしさを紛らわすために、変な口調になってしまった。
この間の数学の授業と言い、最近の私はスベリすぎている。
それからは大人しく準備運動をした。
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これは持論なんだけど、学校のペアの準備運動って、身体はもちろんだけど、心も整える役割を担っていると思う。
でも、ペアと気まずい空気が流れていると逆効果になりかねない諸刃の剣。
ペアを組んで、軽くおしゃべりしながら動く。
そうすることで、辛い長距離走に耐えられる。
「摩耶ちゃん、一緒に走ろうね。絶対だよ」
「大丈夫。絶対に裏切らないから」
中学の頃は辛いだけだった道のりを、同志と走れる私は、幸せものだ。
日常と百合、時々シリアス ガビ @adatitosimamura
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