妹の手紙

ごじょー

妹の手紙

 地元民なら誰もが知っている、小さな遊園地。

 私がここで、着ぐるみの中の人としてバイトを始めたのは、ちょうど半年前。高校生活が始まってすぐのことだった。


 昔、5歳下の妹の寧が交通事故にあって、下半身不随で一生車いす生活になって。

 突然家を出て行った最低な父とは違い、お母さんは文句ひとつ言わず私たちを女手一つで育ててくれた。


 寧は人懐っこい子で、子供らしく無邪気に遊び回る反面、泣きじゃくったり、弱音を吐いたところを見たことがない。

 それは車いす生活が始まってからも変わらず、無理して自分の心に蓋をしているんじゃないかと、勝手にそう思っていた。


 お母さんは毎日、電話対応のお仕事から疲れて帰ってきて、「今日も理不尽なことばっかりいうお客さんにつかまっちゃってねぇ」とため息をついていた。そのまま荷物を降ろしてすぐエプロンを着る姿に、私は計り知れない無力さを感じていた。


 何か二人に対して、できることはないか。

 何の取り柄もない、何もしてあげられていない私にできることはないのか。

 そう思って、スマホでネット検索しているときに偶然見つけた、アルバイト募集のサイト。

 そこでみかけた、目を引く一行があった。


『高校生歓迎! ○○パークの着ぐるみスタッフ募集!』


 写真を見ると、それは地元民しか知らない小さな遊園地の、見たことのあるキャラクターの着ぐるみ写真だった。

 その遊園地は、寧が事故にあう前に一度行ったっきり。その時寧は、初めての遊園地の衝撃が忘れられなくなったようで、今でも遊園地の思い出話を昨日のことのように熱く語ってくる。

 寧がこの上なく好きだったクマのテフィーも、サイト上の写真にしっかり写っていた。


「これだ。バイトをすればお母さんの負担も減らせるし、妹もきっと喜んでくれる。高校に入ったら絶対ここでバイトするんだ」


 高校受験の最中、一人決意した目標。

 それを原動力に、私は地元の高校に合格。

 同時に、お母さんにバイトをしてもいいか懇願して、「あなたがそんなに言うなら、いいよ」の二つ返事で許可をもらった。


 入学後、すぐ電話をかけて応募。とんとん拍子で話は進み、初めての面接で緊張もしたけれど、運良く採用となった。

 基本は土日のみのシフト。高校へのバイト申請は、保護者印もあってすんなり通った。

 学業との両立は大変だけど、遊園地のキャラクターになりきって子供たちと触れ合い、お客さんの笑顔を見るのは、とてもやりがいがある。


 ーーそして今日に至る。

 今日は、とても大切な日。寧の10歳の誕生日だ。

 午後には、お母さんと寧と三人で遊園地を回る約束をしている。


 しかし、今。

 現在時刻は、開園後すぐの午前10時。

 私は普段のシフトの時と変わらず、園内の裏手にあるロッカールームで待機していた。

 寧が大好きな、テフィーの着ぐるみの胴体部分だけを着て。


 なぜ、約束よりも早い午前中から、手元にあるテフィーの頭部と見つめあっているのか。

 私には、このバイトをやると決めた日から、ずっと計画していたある目標があったからだ。


 ーーそれは、このテフィーの着ぐるみを着て、寧へのバースデーサプライズを決行すること。


 これまで、毎日車いすでの生活を続けて、普通とはかけ離れた生活をしてきた寧。 

 小学校では、養護教諭の人が親身に面倒を見ていると聞いている。それ以外、どんな学校生活を送っているのかまではわからない。

 ただひとつ言えるのは、他の子から普通じゃない目で見られているのだと言うこと。


 本当に笑顔の絶えない子で、ついつい私が夕ご飯のおかずを分けてあげたり、テフィ―のキーホルダーを買ってあげたりすると、いつも明るく「うれしい!」「ありがとう!」と言葉にできる、とても純粋で愛おしい妹。


 そんな寧に対して私は、これでもかと優しく接してきたつもりだった。

 けれど、どこか引け目を感じている自分がいることに、私は気づいていた。


 あの日、父が失踪して、泣き崩れていた母の後ろ姿。


 数か月の間、病院のベッドで寝たきりだった寧。


 その光景に、絶望と怒りを感じた私。


 もっと泣いていいのに、もっと愚痴をこぼしたっていいのに。

 翌日から何もなかったかのように、泣き腫らした跡が残った笑顔でキッチンに立つお母さんもそうだけど。

 極めつけは車いす生活が始まった時の、寧の一言だ。


「わぁ、車いすだ! 乗っていいの?」


 どこか寧のことを、かわいそうに思ってしまっていた私がばかみたいだった。


 寧は車いすに乗った日もそれからも、前よりパワーアップしたように元気になって、今の生活を楽しんでいるように見える。


 今まで、寧に心から気持ちをぶつけられなかった私。

 定期的に心が切なくなってしまうこともあるけれど、それでも私は妹の笑顔が大好きで、守ってあげたいと思ってる。その気持ちに偽りはない。

 だからこそ、ちゃんと形として、私が寧のことを大好きな気持ちを、寧のおかげで今の私がいることを、テフィーを通して寧の思い出に強く刻んであげたい。

 同時に、今まで私たち二人の面倒を見てくれたお母さんにも、今度は私が支える立場になれると証明したい。


 それが、今日叶うんだ。

 緊張と高揚と、ほかにもいろんな気持ちが混ざり合って、心臓がばくばく言ってる。


「すぅー……はぁー……すぅー……はぁっ」


 数回深呼吸して、私は手に抱えたテフィーの頭を被ろうと持ち上げた――。


「け、い、ちゃん!」

「わぁっ!?」


 ロッカールームの長椅子に座っていた私は、突然響いた女性の声に間抜けな叫び声をあげて転げ落ちた。

 テフィーの頭が落ちかけたが、なんとか抱きかかえて死守できた。


「と、藤堂さん! 驚かすのはやめてって前から何度も言ってるじゃないですか!」

「あっははー! ごめんね? 圭ちゃんってば、毎回新喜劇みたいに上手に驚いてくれるから、つい体が無意識にさー」


 からからと笑う、藤堂さん。

 私の先輩アルバイターである彼女は、半年前から私の研修だったり、着ぐるみの立ち居振る舞いだったり、この遊園地で働くいろはを叩き込んでくれた、一番信用している人だ。

 私の名前、圭子を愛称で呼ぶ、数少ない人の一人。


「もう……今日はほんとに勘弁してくださいよ、ただでさえおかしくなりそうなんですから」

「ごめんごめん。ついに今日だね、圭ちゃんのお母さんと妹さんが来るの」

「……はい。私事でお手数かけて、すみません」


 藤堂さんには、今日のバースデーサプライズのことを相談させてもらっていた。

 キャラクターと触れ合うグリーティングルームを空けてもらうため、タイムスケジュールを上に掛け合ってもらったり、部屋のデザインやらBGMやら、細かなところまでこれ以上ないくらい手伝ってもらった。

 本業は大学生で忙しいはずなのに、以前大丈夫なのかと尋ねたら「いいのいいの、単位とれてるし!」と笑っていなされてしまった。


「いいっていったでしょ。私もサプライズ好きだし、愛する圭ちゃんのためなら何のそのってね」


 手慣れたように、ウィンクしてくる藤堂さん。

 全くこの人は、いつまでも憎めない人だなぁ。


「本当にいろいろ、ありがとうございます」

「お礼は全部終わった後でまとめて返してもらうからね。ふふ、さ、そろそろ行こうか」

「……はい!」


 そういって、私は決意と共に立ち上がり、テフィーの頭を深くかぶって、ロッカールームの扉を開けた。





 ――正午。


 私はグリーティングルームで、テフィーの着ぐるみに身を包んだまま待っている。

 部屋は狭くもなく広くもない、お客さんと触れ合うには十分すぎる空間。

 カラフルな風船や飾り付けで、ゲストを迎え入れる準備は万端だ。


 お母さんには、今日のことを伝えてある。「テフィーと会える時間を少し長く取れたから、正午に寧と一緒に来て」と。

 お母さんも寧の喜ぶ姿を思い浮かべて、「楽しみね」と言ってくれた。


 思い描いた計画が、いま現実に起ころうとしている。

 心臓が痛いくらいに跳ねていた。


「緊張してる?」


 私の横で、園内スタッフの明るい衣装に身を包む、慣れ親しんだ藤堂さんの姿。

 私がテフィーとして話せない分、うまく事が運ぶように進行役を買って出てくれた。本当に心強い。


「……そりゃあ、もう。私、うまくテフィーになれるかな……」

「大丈夫だって! 研修監督である私のお墨付きだから! 普段のお子さんよりも、ちょーっと特別扱いするくらいの姿勢で行けば問題ないよ」

「は、はい……」


 藤堂さんの励ましに、言葉を詰まらせながら返事をする。

 バイトを始めた当初、研修期間は一か月間だった。内容は様々で、園内施設の把握や業務内容、言葉遣いや接客マナーだったり、着ぐるみをきた状態でキャラクターとしてふるまう所作。

 そのすべてを藤堂さんに叩き込んでもらい、失敗しながらもグリーティングやショーを経験して、園内の最年少スタッフでありながらも多少の自身をつけることができた。


 すべては、今日のためにあったこと。

 ここで頑張らなければ、すべての苦労が水の泡だ。


「すぅー……はぁー……すぅー…………驚かさないでくださいね」

「しないってば! まったく……ふふ、そんな冗談が言えるなら、きっと大丈夫かな。さ、時間ね」


 扉の外から、聞きなれた二人の声がする。

 ついに来た。


「……よしっ!」


 着ぐるみで頬を叩くことが出来ないので、脇を絞ってふんっと力を入れた。


「……あけるよ」

「お願いします!」


 私の一つ返事で、藤堂さんは笑顔でコクリとうなずき、扉をゆっくり開いた。


「寧ちゃん、お誕生日おめでとー!」


 藤堂さんの明るく響くお祝いの言葉をきっかけに、大音量で遊園地のテーマソングが流された。

 扉を開けた先にいたのは、目をまんまるにさせたお母さんと、本日の主役である寧だった。


 藤堂さんの拍手とともに、私はお祝いと歓迎の気持ちをたんと込めて手を振った。


「わぁー! テフィーだぁ!」


 呆気に取られていたが、すぐにぱぁーっと花のような笑顔を浮かべた寧。 

 車いすのハンドリムを慣れた手つきでまわし、前のめりになりながら近づいてきた。

 テフィーの話をする時はいつも楽しそうにしているけれど、今の寧はこれまで見たことがないくらいに目をキラキラさせていた。


「まぁまぁ、すごいわねぇ」


 お母さんも突然車いすを走らせた寧を気にしながら、丁寧に飾り付けられた部屋を見回して、感嘆のため息が漏れていた。


「わたしの誕生日、なんでしってるの? すごい、すごい!」


 上半身をこれでもかとぶんぶん揺らしながら、両手を伸ばしてくる寧。

 こんなに体で喜びをあらわにする寧は初めて見たな。

 私はその小さな両手に、ふかふかの手のひらをぴったりと合わせた。


「本物のテフィーだ、やっと会えた! お祝いありがとう、とってもうれしい!」


 全力で気持ちを伝えてくれる寧に、私はテフィーとして、できるかぎりコミカルに、かわいく振舞った。


「テフィーはね、今日来てくれる寧ちゃんが誕生日だって聞いて、いてもたってもいられなかったんだって! ね、テフィー?」


 寧ちゃんにやさしく語りかける藤堂さん。

 今、さりげなくこっちにウィンクしたよね。テフィーじゃなくて、私に言ったよね?

 こんな時でも私をからかおうとする藤堂さんの目論見は置いておいて、私はあくまでテフィーとして、両手を口元にあてて照れくさそうにする。

 あくまで、私はテフィーだから。


「かわいいー! うれしいな、うれしいな!」


 目いっぱい喜びをあらわにする寧。

 これが、もし――。


 ――もし、車いすじゃなかったら……飛び跳ねて喜んだんだろうな。


 一瞬、涙がこみ上げてきそうになった。


 寧は目の前で、見たことがないくらい喜んでくれている。

 お母さんに「テフィーがわたしのためにお祝いしてくれてる!」と嬉しそうに報告していて、お母さんも「よかったねぇ」とほんの少し涙をにじませながら笑顔を浮かべていた。


 ――大成功だ。


 これ以上ないくらい、わたしの目標が達成された瞬間だ。


 ……でも、なんでだろう。


 私は、この景色に、物足りなさを感じている。


 理由はすぐわかった。

 寧が、もっと体を使って喜びたいはずなのに、それが制限されているという現実。

 寧の上半身の騒ぎようとは正反対に、下半身は微動だにしていない。


 事故がなければ、寧はこの部屋を疲れるまで駆け回っていたんじゃないか。


 事故がなければ、お母さんの手は車いすの手押しハンドルじゃなくて、寧の手を握ってあげられていたんじゃないか。


 事故がなければ、いなくなった父は変わらず一緒にいて、家族みんなで一緒にいられたんじゃないか。


 あんなことがなければ――。


「――っと、ちょっと、圭ちゃん!」


 ふと、藤堂さんの小声の呼びかけに、ハッと意識が戻る。


「しっかり! 今日のテフィーは、寧ちゃんとお母さんに幸せを分けてあげる存在、でしょ?」


 藤堂さんは私の隣で、寧ちゃんに拍手を送りながら言った。

 幸い、寧は興奮してお母さんのほうを向いていたようだ。


 過ぎたこと、変えられないことを考えても、何も変わらない。

 今の私は、寧の大好きなテフィーだ。

 私の気持ちの全てを込めて、寧を楽しませるために、お母さんに証明するために、この場に立っているんだ。


「……ありがとう」


 小声でそう言って、私は再びテフィーとして、寧とお母さんと一時のバースデーサプライズを過ごすのだった。




 ――そして、時間はあっという間に過ぎた。


 寧の気が済むまでハグしたり、寧のテフィーに対する熱烈な好意を延々と語られたり。

 「車いすを押してほしい」とせがまれ、藤堂さんがお母さんに許可をとりつつ、気を付けながら手押しハンドルを握った。

 内心ヒヤッとしたけれど、寧はこっちの気も知らず、ジェットコースターみたいにきゃいきゃいはしゃいでくれたり。


 最後には、藤堂さんが用意してくれたチェキで写真を何枚か撮って、サイン入りのものをプレゼントしてあげた。

 寧と二人、そしてお母さんも含めた三人の写真。

 寧はずっと「うれしい」「ありがとう」を連発して、あふれかえった気持ちを私にたくさんぶつけてくれた。


 いろいろ思うところはあったサプライズだけれど、間違いなく大成功だったのはいうまでもない。


 今日のグリーティングタイムは15分ほど。普通のグリーティングなら1分弱、ごく稀に長いときは2~3分くらい。

 本来あり得ない特別なグリーティングタイムも、私のわがままに付き合ってくれた藤堂さんの計らいのたまもの。


 私の可愛い妹とお母さんのために、関わってくれたすべての人への感謝が止まらない。


「寧ちゃん、まだ遊園地で遊んでいくなら、またテフィーにあえるかもね!」

「うん……」


 別れ際、寧は私のほうを見て、少し寂しそうな顔をしている。

 普通、熱心なファンが何度も会いにきて行うグリーティングのイベントを、隅から隅まで堪能したというのに。

 遊園地はこれからが始まり。寧をあやすように、藤堂さんが声をかけた。


「……でも」


 ところが、寧の口から出たのは、予想していたものではなかった。


「わたしばっかりテフィーを独りじめしたら、ほかにテフィーをすきな子が会えなくなっちゃうもん。だから、大丈夫!」

「あ……」

「ふふ……」


 眉間にしわを寄せて、口をきゅっと結ぶ寧。

 子供らしくもあり、いじらしい姿に藤堂さんは呆気にとられ、お母さんはにっこりと柔和な笑顔を浮かべていた。


「圭子おねえちゃんも待ってるし、わたしいくね! 今日はありがとー!」


 寧は目元を少し潤ませながらも、相変わらず涙を見せずに私と藤堂さんに大きく手を振った。最後もやっぱり、花のような笑顔で。


「ーーうん、またね! いいお誕生日を!」


 藤堂さんの一言とともに、私は一生懸命手を振って見送った。

 寧は車いすから何度も身を乗り出して、何度も手を振り返してくれた。

 お母さんも車いすを押しながら、数回お辞儀をしてくれた。


 最後、お母さんが私の方をじっと見ていたような気がしたけど、気のせい……だよね。

 私が午前中だけバイトして、午後から合流するとまでは伝えたけど、私がテフィーの着ぐるみを着ていることまでは伝えてないはず。

 ばれてた? いや、そんなことは……。


「……圭ちゃんがお母さんと妹さんを大事に思う気持ち、よくわかったよ」

「はい……」


 そういって、二人一緒にグリーティングルームへ戻って、扉を閉める。

 私は後片付けのため、着ぐるみの頭をかぽっと脱いだ。


「あ、圭ちゃん。そういえばね」

「はい?」


 振り向くと、藤堂さんがコスチュームの胸ポケットから、何かを取り出そうとしていた。

 ポケットから出したのは……紙?


「これ、寧ちゃんが隙を見て渡してきたの。『あとでテフィーに渡して』だって」

「え?」

「中身は見てないから安心して。私は裏でやることがあるから、ちょっと抜けるね」


 藤堂さんはそれだけ言って、グリーティングルームの隅のドアから裏手に回っていった。

 部屋には、着ぐるみの胴体だけ身に着けた、私一人だけが取り残されていた。


「えっと……なんだろう」


 私は部屋の真ん中で思考停止し、突っ立っていた。

 手元にあるのは、ノートの切れ端を女の子らしく丁寧に折り曲げて作ったような、簡易的な手紙。

 立ちつくしていたのも束の間、待ち合わせの時間もあるし、後片付けもしないといけない。

 寧には悪いけど、ぱぱっと読ませてもらおう。


 そう思って、着ぐるみを半分脱ぎつつ、両手を出して手紙を開いた。


「――――え――」




”おねえちゃんへ。


きょうはありがとう。


おねえちゃんはいつもやさしくて、わたしのことを大切にしてくれます。


でも、ときどき、わたしを見てこまったかおをしています。


わたしは、足が悪くて歩けないから、おねえちゃんにどこかでめいわくをかけているのかもしれません。


ごめんなさい。


わたしは、おかーさんとおねえちゃんみたいに、いつも明るくてやさしくて、とってもつよいひとになりたいです。


だから、わたしはおねえちゃんみたいに、笑って、楽しくて、幸せでいたいと思います。


おねえちゃんがわたしを見てこまったかおをしないように、わたしはいつまでも笑っていようと思います。


おねえちゃんの妹でよかったです。


まえにおねえちゃんが、おへやで一人でテフィーのダンスをおどっているのを見ました。


わたしはおかーさんに、おねえちゃんはテフィーなのかって、何回もきいたら、おねえちゃんだったらどうするのって言われました。


わたしは、テフィーがおねえちゃんだったら、もっとだいすきになるっていいました。


おかーさんに、この話はないしょだよっていわれました。


いまからテフィーとおねえちゃんに会うのが楽しみです。


だいすきだよ。


ねい”






 ――私は、その場で泣き崩れた。


 私の頭の中は、いろんな感情でごちゃ混ぜになった。


 寧が私をちゃんと見て、姉として好きでいてくれているということ。


 私が寧に引け目を感じているということに、気づかれていたこと。


 そして、私がテフィーだって、寧にもお母さんにもばれているであろうという恥ずかしさと、


 この後どんな顔して「おまたせ」って言えばいいのか、わからない羞恥心からの困惑。


 ただ一つ言えるのは、バースデーサプライズは大成功だった、ということ。


「……ありがとう、寧、お母さん」


 そう小さくつぶやいて、私は後片付けの為に、ゆっくりと立ち上がったのだった。

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