第8話 LGBTってムズカシイ




「・・・・アタシはいやだな。自分の心の中まで「誰か」に決められるなんて」


 アタシは思わず口に出していた。


「あたしも嫌です」


「俺だってイヤだぜ。そんな事」


 雪ちゃんと優希も続く。


「そうだよね、特にだれだれを好きになるか ? なんて事は。たとえ、それが同性同士どうせいどうしであったとしても」


 兄ちゃんの物静かな声に雪ちゃんがハッとした顔になる。


「あの、あたしの事も聞いているんですよね ? 優希くんから」


「うん。でも僕は優希から聞く前から雪ちゃんの気持ちには気づいていたよ」


 それを聞いて雪ちゃんはビックリした顔になる。

 そして、そのままうつむいてしまう。

 しかし、顔を上げるとハッキリとした口調で言った。


「あの、やっぱりあたしはおかしいんでしょうか ? あたしには自分が「女の子」だと言う明確な自覚があります。それなのに同じ「女の子」である勇気ちゃんを好きになってしまう、なんて事は」


「僕はそれが「おかしい」とは思わないよ」


 兄ちゃんの優しい声に雪ちゃんは力が抜けたように座り込む。

 そのまま横に崩れそうになったのでアタシが慌ててささえる。


「さっきも言ったけど」


 兄ちゃんは優しい声で続ける。


「誰かが誰かを好きになる事に僕は「どんな障害」もあってはならない、と考えている。勿論、不倫ふりんやレイプや痴漢ちかん児童性愛じどうせいあいなどのように法に触れる行為こういや相手の人格を無視して踏みにじる行為は絶対にダメだけど。例え何歳であろうが人間には人格が存在するんだから」


「そんなの当たり前じゃんか!」


 と優希がツッコム。

 アタシにはまだ良くわからない言葉が多いけど、アタシやアタシたちの学校に通ってる子たちにイタズラしたりする大人は「キモチワルイ」かなぁ。

 雪ちゃんは兄ちゃんに「おかしい事じゃない」と言われた事にホッとしてるみたい。 


「おっと、もうこんな時間か。肝心かんじんな事を話さなきゃいけないね。雪ちゃんが校長室に呼び出されてる原因や、勇気ちゃんが「変な授業」と言っている授業が行われている要因よういんになった「LGBT理解増進法案りかいぞうしんほうあん」についてね」


 兄ちゃんが時計を見てアタシと雪ちゃんと優希をマジメな顔つきで見る。

 雪ちゃんと優希はちょっと緊張した顔つきになる。

 アタシには「ナンノコトヤラ」だけど、マジメそうな顔はしておこう。


「あまり緊張しなくて良いよ。これから言う事も僕が自分で調べたり自分で考えたりした事だから。つまりは僕の価値観でもあるんだから鵜呑うのみにしたり全てが正しいとは思わないで欲しい。あくまでも、それをどうとらえるのかは君たち自身なんだ」


 兄ちゃんはアタシたちをリラックスさせる為に笑顔をまじえながら話し始める。


「LGBTは1988年くらいからアメリカの活動家たちによって使われ始めた言葉なんだ。性的せいてきなマイノリティ。少数派しょうすうはあらわす言葉として」


「エルジービーテーって言う言葉がそもそもワカンナイ」


 いきなりのアタシのソッチョクなセリフに雪ちゃんと優希は深いタメ息をつく。

 「勇気ちゃん、後で教えてあげるから今はおとなしく聞いていて」「雪の言う通り今は黙って聞いてろ」雪ちゃんと優希のなだめるようなセリフにアタシは「わかったよ」とぶうたれながらも、おとなしく聞く事にした。

 兄ちゃんはニコニコしながらアタシたちを見ていてから話の続きを始める。


「僕は最初にLGBとTを混在こんざいさせた事が間違いだと思ってるけどね。ま、その事は後で話すとして、それぞれの言葉の意味をみてみよう。Lはレズビアン、女性に対して恋愛的や性的な指向しこうを持つ女性。Gはゲイ、男性に対して恋愛的や性的な指向を持つ男性。Bはバイセクシュアル、男女の両方に対して恋愛的や性的な指向を持つ男性および女性。そして最後にTだ。Tはトランスジェンダー、生まれた時の性別と自分が認識している性別が一致しない男性および女性。と、ここまで話してきて何か違和感を感じる事は無いかな ?」


 兄ちゃんは1度、言葉を切る。


 雪ちゃんが発言する。



「最後のTの方達かたたちなんですけど。他のLGBの方達は「個人の指向」と言う言葉が入っていますがTの方達には入っていません。Tの方達、トランスジェンダーの方達は「自分が望まない性別」つまり「性同一性障害」では無いのでしょうか ?」











つづく




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アタシはあの娘とあの子が好き! 北浦十五 @kitaura

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