第6話

「おかえり、さくら。大会どうだった?」


「あぁ、うん。県出場決まったよ」


「ホント? すごいじゃん、よく頑張ったね」


 あぁ、うん。頑張ったんだよ、私。


 でもね、最近、射形崩し始めてるんだよ。


 前は引けば中ったのに、今は、全然中らない。


 まるで、的が私から逃げていくみたい。




 あの子は──悠希は、「努力してる」って言っていたけど、本当は違う。私が今まで中てた矢は全部、努力じゃなくて、先天的な才能によるものなんだよ。悠希の言う通りなんだよ。


 朝練は毎日行ってたけど、それは、一日でも弓を引かないと感覚を忘れるから。絶対に中る引きかたを、毎日毎日体に叩き込んでただけ。でも、その引きかたも最近は分からなくなってきた。


 あぁ、あの子みたいに、努力が報われて、その分だけ実力を証明できたらなぁ。


 羨望。羨望。羨望。


 私はいつだって、上から誰かを見下ろして、その子のことを羨んでいるんだよ。


 END

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激情 夜海ルネ @yoru_hoshizaki

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