第六の夜
無事、通運洲本との契約を取れ、隂山は満足して湯船に浸っていた。
――やはり、俺は先代よりも優れた社長なのだ。
さらに、月末の統計で見てみると、塩の販売は十七カ月連続で伸びている。これも嬉しいことだった。
ガチャン
「あなた」
「……なんやねん、気持ちいいところやったのに」
チッ、と突然入ってきた妻に向かって、隂山はわざとらしく舌打ちをした。
「いや、それが営業部長の岸梅さんが行方不明って聞いて……」
「岸梅がか? 行方不明か……警察には言うたんか?」
「これから電話しようと思うんですけど……それが、社員寮のすぐ近くで岸梅さんの悲鳴を聞いた人が大勢いるんです」
「ほぉ」
じゃあ、なぜ行方不明なんだ?
「確か、『影が私を飲み込んでくる!』って言ってたって……」
「影……?」
隂山は眉をひそめた。少なくとも、良い話ではなさそうだ。自分の名字に、字は違えどカゲという音が入っているのが余計嫌らしい。
「まあええわ。じゃ、早速岸梅の代わり準備しとこ。あいつ、せっかくのええとこでどっか行きよって……」
「えぇっ? これまで一番頑張ってきたのは岸梅さんじゃないの? そんな性格は好きじゃなかったけど、やり手の人だったじゃない」
「まあ、そんなんな、分かると思うけど経営は甘ったるいこと言ってられへん。誤解を恐れずに言うと、社員は駒やねん。分かるな? 駒はいくらでもある。これは見つかっても、岸梅の失態やな。じゃ、人事部に連絡しといてくれ」
「で、でも、そんな非情な……」
「うるさいわ!!」
隂山は浴槽に裸で立ち上がった。
「お前な、ただひたすら簡単そうな家事して不味い飯作っとるだけの人間がそんな一つの会社のことどうこう言える口ちゃうことくらい分かるやろ? お前は駒やとは思ってないが、その気になったらいくらでもできるんやぞ! なんてったって、社長やからな」
「す、すみませんでした」
顔を青くした妻は携帯電話を出して、スッとドアを閉め、下がっていった。
――ったく、俺は社長なんや。前社長の従弟の息子やからって、舐めやがって……!
窓の外では冬の入り口とも言える冷たい風がヒュウヒュウと吹いていた。
アマテラスノカゲ DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555
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