第7話
小三次は自分の足下に倒れている生き物を見た。それは人間でも蛇でもない奇怪な姿をしていた。人間の体に蛇の尾と鱗がついた、不思議な生き物。それの首筋から胸元にかけてはむごたらしい刀傷が残り、体の下に血溜まりを作っていた。しかし、その天女のように美しい顔は、失血によってひどく青ざめてはいたものの、確かに富野白雲その人の顔だった。
小三次は困惑していた。俺は何ということをしてしまったのだろうか。お頭の家の他に、自分には、帰るところがないというのに。仲間たちも皆、俺のせいで、過酷な旅の途中で命を落としている。全て自分が悪いのだ。おかげで、この世の中から、完全に孤立してしまった。
突然嫌な予感に襲われ、左の袖をまくって鱗がなかったはずの腕を確認する。もはやそこには人間の肌は残っておらず、緑色の鱗がびっしりと肉を覆っていた。作務衣の裾をめくってみても、視界に入るのは鱗ばかり。頬に触れても、さわれるのは硬い鱗だけだった。自分は恐ろしい怪物になってしまったのだ。己の下らない復讐心と欲得のために、仲間を見殺しにし、育ての親であるお頭を、自らの手で殺めてしまったがゆえに。俺はお頭以上に怪物だったのだろうか。その罰として、こんなあさましい姿に身を落としている。
小三次は一人寂しく空をみあげた。明け始めた薄青色の空には、白く、淡くなった月だけが一つ、所在なさげに取り残されていた。
白蛇 紫野晶子 @shoko531
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