第4話 うさ耳少女は復讐を決意する

 一睡もできなかったルマは、窓辺で外を見ている。今日何があるのか、何故母が罪が確定した地下牢にいたのか、考えれば考えるほど最悪の結果が頭をよぎってしまう。

(まだ決まっていないのだから)

 リヤはリュタチ王妃が大事にしていたネックレスをぎゅっと手で包む。

その時だ。荒々しくドアが開かれ、屈強な兵士たちが入ってきた。

「何事です。私は、幼くてもこの国の王女、礼儀を知りなさい」

 朗々とした声でリヤは兵士たちへ声をかける。

「何を言ってるんだ、国の情報を横流しにした売女の娘が」

 あざ笑うように兵士はそういうと、リヤの手に枷をつけようとする。

「お母さまは、無実です」

「なにを」

「そして、その手をどけなさい。私は逃げも隠れもしません。罪人のように枷をすることを許しはしないわ」

 王族の風格とはこういったことをいうのだろうか。

 齢9歳にして彼女の気品は、兵士たちを圧倒していた。

「そうはいっても、これは命令なんだ」

「許さないと言っています」

 しかし、リヤの主張も空しく、一瞬たじろいだ兵士たちは抵抗する彼女に手錠をかけた。

「許されなくてもいいんだよ、お嬢ちゃん」

 兵士は脂でぎらついた顔に黄色い歯でそういうと笑った。


 リヤはその後、メンテナンスがなされていないような質素な馬車へ乗らされた。

「どこへ行くのです」

 彼女が尋ねてもちらりと兵士は目をやるだけで、肝心なことに関しては答えなかった。それは言葉を交わせば、この幼い少女に丸め込まれるかもしれないといった兵士たちの潜在的な恐怖である。

 そして連れてこられたのはオステリア東帝国の首都である平民街の一角であった。リヤは動悸がひどくなることを感じながら兵士によって無理やり王族たちが座る壇上の塔のうち、一角の一番目立たない部屋に連れ込まれた。

(まさか、でも…この場所は…)

 最悪の結末に遭遇することを確信したリヤは窓から必死で母であるリュタチを探している。

「罪状、外患誘致罪。前リュタチ王妃は、獣人族であるハレミア西帝国に対し、オステリア東帝国の国庫や軍の状況などを流した罪でここに断罪される」

 高い声が耳鳴りのようにリヤに襲った。

「お母さま…!」

 リヤは身を乗り出して窓を壊そうと駆けよるが、近くに待機していた兵士たちによって椅子に座らせられる。

「この告発はフレリック王子と宰相殿による勇気ある行為である。皆の者、オステリア東帝国の安寧を願う彼らに平伏を!」

「フレリックお兄さま…?」

 民衆はその言葉に頭を垂れている。

「嘘よ!お母さまはそんなことはしないわ!お母さまほど清廉潔白な人はいないもの!何がスパイよ、お母さまはこの国の平和を心の底から願っているわ」

 彼女の声は誰にも届かない。

 二重窓に防音設備を施したこの場所は、世界のどこからも隔絶されていた。

「前リュタチ王妃、ここへ!」

 腰まで伸ばしていた長い髪は無残にも耳の下でざんばらに切られている。そして、その先には斧を持つ屈強な男がリュタチを待っていた。

「我らが偉大なる王は、前リュタチ王妃に対して罪を認めれば寛大な措置を取ろうとしたが、罪を認めようともしなかった。彼女の罪はあまりにも重い。これは国家反逆罪とみなし、最大刑を執行する」

 リヤは倒れそうになった。ここにはルマンがいないから、彼女は一人でこの事態に向かうしかない。

「お母さま…」

 リヤは昨日の出来事を思い出す。そう、母は認めなかったのだ。確かに嘘をついたとしても、本当のところ、死刑を免れることはできまい。そう思った彼女は一縷の恩情にかけるのではなく、自身の誇りに従ったのだ。

 後ろの若い兵士が、9歳と言う幼い少女が母を殺される瞬間を見ることに耐えられず顔を横にそむけた。

「ここに、死刑を執行する」

 単調なドラムロールがリヤの頭痛を加速させる。でも、目を離すまい。異国の地で、濡れ衣の罪でたった一人誇り高く死ぬ母のことから、私は決して目を離さない。

 首が切り落とされたその瞬間、リヤは声を出さなかった。

 怯えてもいなかった。

 ただ、底抜けに青く、やけにさらりとした間食の復讐の炎が胸に灯ることを感じた。

「許しはしない」

 リヤの言葉は蔦のように部屋に蔓延っていく。

「誰も、許しはしない」

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前代未聞の、うさ耳女王陛下になりますが 飯嶋シロ @shiroiijima304

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