私事ですが、この夏、越後の城を巡ってきたんですよ。
坂戸城、与板城、栖吉城、枇杷島城、柿崎城、そして春日山城。
春日山城は本当に見晴らしが良くてですね、頸城平野を一望できるのです。
上杉謙信は、ここから頸城野を見下ろしてどんなことを考えてたんだろうと思いを馳せました。
そして帰宅して数日後、カクヨムでこの作品に出合いました。
舞台となる城のイメージが鮮明だったので、没頭して読んでしまいました。
越後という土地の武士たちは、鎌倉時代のまんまの思考です。
一所懸命、御恩と奉公の世界。「鎌倉殿の13人」を視聴した方はあの世界を思い浮かべていただけると良いでしょう。少しの土地を、隣の領主から如何にかすめ取るか。国主や大名というのは実権を失った幕府に代わってそうした土地争いを裁定することが主たる役割ですが、国人領主たちはより自分に有利な裁定を下しそうなものを担ぎ上げようとする。結果国主争いが激化し度々合戦に及ぶという修羅の国です。
こうした越後で、戦の強さから担ぎ挙げられた純朴な価値観の青年が上杉謙信です。
彼はその価値観ゆえに悩み苦しみます。
また、自身の言葉を違えないという信念もあって、余計な苦労をしょい込むことにもなります。
多くの合戦に勝利しつつも殆ど利はなく、徒労感だけが残る――
そんな中でも絶対の信頼を置ける家臣たちとの出会いや、唯一の安息となる少女との出会い。
宿敵との激突と、付き従う者たちへの配慮の思い。
様々な出来事を重ね成長していく、そんな等身大の上杉謙信を描き切った力作です。