虹色の円盤
高黄森哉
新しい兵器
日本は、新しく製造した兵器を、早速、戦争で試すことにした。ヘリコプターに乗った日本の技術者が、カメラの前で、自信満々に、新作の大量破壊兵器を解説している。この兵器の実働は、メディアを通して、お茶の間に届けられる予定であった。
「ほら、あそこに虹色の円盤が見えるでしょう」
作業服の男は指を射した。
「ほんとうですね。ええ。皆さん、あれが日本の新型兵器です。皆さんもごいっしょに。破壊兵器さん、こんにちは~!」
外国の町の空に、無口な巨大な銀色の円盤は、浮遊していた。円盤は真ん中に小さな穴があって、その小さな穴を縁取るように、透明な円環が回っている。銀の身体は、角度を変えると様々な色彩に変化した。シャボン玉の表面みたいに。
「あれがうまい具合に回って、その表面の溝が針に引っかかるんです」
「へえ。凄い技術なんですねえ」
男性リポーターは感心して見せた。内心、兵器の構造なんてどうでも良いと思いながら。
結局、求められていることは、小難しい現象ではなく、これから起こる結果なのだ。さあ、沢山の命を奪ってくれ。
「そろそろだな」
「皆さん、そろそろ稼働するみたいです。さあ、世紀の瞬間です!」
薄べったい虹色の円盤は、円盤の奥にやはり浮いている、薄く四角く黒い構造物に、向かってゆっくりと飛んでいった。カメラは箱へズームする。おもむろに箱の側面が開いた。そして、箱の開口部から、一枚の板が飛び出て来る。よくよく見ると、そこには、円盤が着陸できるように円形の凹みがあった。勿論、この円環は、その窪みに着陸する。目的のものを収めた板は、満足したのか、元の位置に帰っていき、側面が蓋をしてしまうと、物体は元の四角い箱に戻った。出発点と違うのは、虹色の円盤がないのみである。
「さあ、始まります!」
町の人々は、重箱が空に静止しているかのような破壊兵器を、なすすべもなく見上げていた。彼らは、もはやどこにも居場所がないのである。逃げようにも、日本軍が周りを囲っていて射殺されてしまう。射殺されるくらいなら、射殺されない方がましだ。
いくつかの静寂のあと、それは稼働した。
それは音響兵器だった。なんと、四角い箱は CD プレイヤーで、円盤は CD そのものだった。箱から大音量で『吉本新喜劇』が流れ出し、その曲が終わるとき、町の人々は漫才師かなにかのようにずっこけ、死者五千人を記録し、町中の建物は、まるでセットかのように倒壊して、死者二万人を叩きだした。
虹色の円盤 高黄森哉 @kamikawa2001
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