提灯は笑う。

夕日ゆうや

灯火(ともしび)

 一つ。

 また一つ。

 太鼓の音が鳴る。

 泉が岳から吹きすさぶ風が山の中腹に当たっては消えていく。

 ドンドン。

 太鼓の音が鳴る。

「今宵は夏祭り! あ、そこの恋人さんもチョコバナナどうぞ!」

 どこか芝居じみた声を上げるおっちゃんに釣られて、俺は文子さんの分も含めてチョコバナナを二つ買う。

 あ、それ。

 盆踊りに興じる人々の波は美しく、気持ちを高ぶらせていく。

 中央のやぐらからヒモが四方に散っており、提灯ちょうちんを下げている。その数は十六。

 賑わっている祭りの中、提灯を手に持った男の子が前を通り過ぎていく。

 俺はその様子をつぶさに観察していた。

 なんだか目を離してはいけない気がした。

 振り返る提灯男。いや提灯小僧こぞう

 笑い声が聞こえてくる。

 櫓から伸びた提灯の一つが消える。

 文子さんは俺を探して会場内を彷徨う。

 俺はそれを提灯の中から観察していた。

「誰だ? 提灯を消したのは」

 そう言っている間にもまた一つ提灯の灯りが消えていく。

 大工でこの祭りのボランティアも務めているおれは困ったように頬を掻く。

 提灯が消えると、再び火を入れるのは難しい。

 強風もないし、火を消すような輩もいない。

 はて。

 なぜ消えたのか。

 思い詰めても答えはでない。

 十六ある提灯は徐々に消えていく。

 まあ、この祭りもそろそろお開きってことか。

 ドンっと大きな音とともに花火が鳴る。

 大輪の花を夜空に打ち上げる。

「あんなの昔はなかったのに」

 隣に座っていた小僧がニタニタとこちらを見やる。

 その手には提灯が握られていた――。

 提灯の火が消える。

 また一つ消えた。


 おれも消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

提灯は笑う。 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ