第30話 落ちこぼれドラゴン
まだ日が昇り始めた頃。
眠い目を擦り、北門でレグを待つ。
先日のミスリル採取でドラゴンと戦闘になりなぜかドラゴンに気に入られた。
そこで仲間にしろというので、テストを設けて無事に合格すれば入れるという約束をした。
彼にこれから行ってもらうクエストは、
Bランクモンスター、ミノタウロスの討伐だ。
ドラゴンだからというのもあり、同じ実力のモンスターを相手にしてもらった方がいいと考えたが、俺たちが受けられるクエストでSランクモンスターの討伐はない。
そもそもSランクモンスターのクエストがあること自体稀なのだ。
そこでBランクを単独で討伐すると考えれば、Aランク相当の実力と聞いているためその案を参考にすることにした。
ミノタウロスは牛の頭に武骨な体をした姿で、斧を振り回す凶悪なモンスター。人やモンスターを斧で倒して力を磨いているらしい。耐久力と攻撃力は、Aランクに匹敵するが、単調で読みやすい攻撃が多いため、Bランクなのだとか。
クリスとマオには、今日を休息日だと伝えて体を休めてもらっている。
今頃ぐっすり眠っているだろう。
あくびをしながら門の入り口脇で座りながら待っていると。
遠くから何かが近づいてきた。
近づくにつれてはっきりと声が聞こえる。
「おーい!!!きたぜーロイー!!!」
猛スピード滑空してきたのは、紅く巨大なドラゴン。
門番が敵襲だ!!!と言い始めたので慌てて止める。
事情を説明して納得してもらった。
「おっし!じゃあさっそく行こうぜ!」
気分が上がっているレグは、今すぐにでも飛んで行きたそうだ。
「ああ、その前にクエストについて話すぞ」
今日のクエストについてレグに説明する。
「ほう。ミノタウロスか。あの程度の小物なら俺の拳でワンパンだな!テストなんて余裕じゃねーか!」
高らかに笑うレグ。少し心配になったが、あくまでもテストだからと割り切る。
「じゃあ行こう。場所は北西にある洞窟だ」
「なら俺に乗ってけ!その方がはえーからよ!」
ドラゴンに乗る…なんだろうこの高揚感。
俺はレグの背中に飛び乗る。
…意外とあったかいな。
「振り落とされんなよ!…行くぜっ!」
うおっ!?
風を切り裂くように突き進むレグ。
本当に振り落とされそうな気がしたので、力一杯しがみつく。
ドラゴンに乗るってもっとワクワクするものと思っていたが、大きな誤解だった。
・・・・・・・・・
目的地である洞窟から。
近くの見晴らしの良い平地に着いた俺たちはさっそく洞窟へ向かう。
レグには竜化を解いてもらい、近くの森を抜ける。
その先には開かれた大きな穴が見えた。
きっとあの洞窟だ。
この洞窟には、武器や防具を作るための鉄鉱岩がある。
素材を集めるために掘っていた探窟家たちがミノタウロスに遭遇して命がけで逃げてきたらしい。
なぜかミノタウロスが居着いてしまい。このままでは仕事もできずに困るというのでギルドに依頼をお願いしたのだそうだ。
さっそくミノタウロスを討伐するべく、俺たちは洞窟内を歩き回る。
道途中で雑魚モンスターと遭遇するが、俺とレグは難なく討伐していく。
洞窟内をしばらく歩いていると。
「…ハハッ、やっぱりな!」
突然レグが声を上げる。
「何がだ?」
「やっぱり強いぜ、ロイは!」
突然なんだ、と。俺は理由を聞いてみる。
「だってよ。魔力は多くないはずなのに、魔法と似たような攻撃してたろ?」
どういうことだ?とレグは俺に詰め寄る。
「…スキルの力だ。これ以上は言えない」
スキルのことは話すわけにはいかないし、話してもわからないだろう。
レグが納得いかない顔を浮かべているが。
「まあいいけどよ。それよりあの辺りの壁見たか?」
レグの指差す方を見ると大きな、ばつ印の痕跡が残っていた。
「…ああ、おそらくいるな」
「おっし。ここからは一人でやる。邪魔すんなよ!」
レグは走り出して、洞窟奥に空いた穴へ向かう。
俺も後を追うように走る。
穴を抜けた先で、待っていたのは背を向けてモンスターを喰らっている。巨大なミノタウロスだった。
「デ、デカイな。おい!」
レグも驚いている。
それは無理もない、通常のミノタウロスであれば人間より一回り大きいくらい。
2mサイズといえばわかりやすいだろうか?
だが、目の前にいるのはその倍くらいあるオーク以上の体躯をしたミノタウロスだ。
何かがおかしい・・・。
鑑定で調べてみると。
名前は『アークミノタウロス』。ミノタウロスの中でも上位に属するモンスター。
数々の死地を乗り越えて進化した姿。斧を二本持ち、相対する敵とどちらかが負けるまで戦いを止めない。Sに限りなく近いAランクモンスターだ。
グアアアアア!!!!!
ミノタウロスの雄叫びが響く。
直後ステータスの値が大幅に上昇した。
どうやら強敵を相手にするとステータスが上がる特殊体質もあるらしい。
なんて厄介な相手だ。
「威勢がいいじゃねーか!喰らい尽くしてやるよ!」
戦闘態勢に入るレグと、
唸るアークミノタウロス。
一瞬だった。
アークミノタウロスの斧がレグに振りかかり直撃する。
だが全くの無傷。
「へっ…、その程度じゃ俺は倒せねーぞ!」
全力の拳で殴りつけたことで、壁まで吹っ飛びのめり込んでいるアークミノタウロス。
あの図体が飛んでいく様は圧巻だ。
アークミノタウロスは威嚇しながらも次々と攻めてくるが、一切レグには通じない。
やはり、レグの防御力は異常なまでに高い。
さすがはマオの最強魔法を耐えただけはある。
しかし、攻撃の方はあまり効いていないようにみえた。
現にアークミノタウロスはだんだん防御しなくても良いと判断して、攻撃の手を止めなくなってきた。
これは長期戦になると思い。
余裕のあるレグに話しかける。
「そうだレグ。聞きたいことがあるんだが」
「なんだ?こんな時に」
レグはアークミノタウロスを殴り蹴りつけているが、大きなダメージはない。
「なんで魔法を使わないんだ?」
その言葉を聞いた途端。
動かなくなったレグ。その隙にアークミノタウロスの斧が振り抜かれてレグは壁まで吹っ飛ばされる。
それでも続けて聞いた。
「お前の魔力量なら上級魔法くらいは使えそうな気がしてるんだが。どうなんだ?」
レグの答えを待っていると。
「俺は…魔法が使えない」
クリスのあり得ない方の予想があたっていたようだ。
せっかくの膨大な魔力は使えず仕舞いか…。
「…それともなんだ。魔法が使えないとパーティーには加入できないのか?」
レグが面白い条件を教えてくれたが、あいにくそんな野暮なことは考えていない。
「…そんなことはない。テストに合格すればパーティーへ入れるさ」
あくまでテストに合格すること。
それが今回のレグに向けた試練だ。
「それなら安心だな!絶対こいつに勝ってテストをクリアしてやる!証明するから見てろよ!」
・・・それから数時間。
互いに疲弊するレグとアークミノタウロスを見ている俺は、トドメを刺してしまおうかと何度も思ったがこらえる。
なぜなら、半日がもうすぐ経過しようとしていたからだ。
「おーいレグ!もうすぐ半日経つぞ!」
時間制限を設けて良かったと。
俺は帰宅の準備を進めた。
「…だったら、お前のその斧よこせ!」
グウ!?
アークミノタウロスは驚きのあまり、片方の斧を持ってかれる。
「斧ってのは一本ありゃ、足りてるんだよ牛頭が!!!」
斧が脳天を貫き、アークミノタウロスはその場で後ろから倒れて絶命する。
「やったぜ!勝ったぞロイ!」
マジか。
本気で勝っちまったのか。
「ああ、見てたよ。パーティー入りを認めるよ。おめでとう、レグ」
でもアークミノタウロスを単独で倒した。
これは事実だし、大したやつだ。
たとえ魔法が使えなくても大きな戦力になることは変わらない。
「…ロイ。俺はさ…実は、一族から追い出されたんだ」
「追い出された?なんで?」
「魔法が使えないドラゴンは要らないんだとよ…。そんで、俺は一族の落ちこぼれとして追い出されたのさ」
レグにもそんな過去があったのかと少し同情する。
「でも。ロイはこうやってテストって形で、公平に見てくれた。俺はお前のそういうところも気に入った!」
レグに褒められてさっきまで加入を渋っていた自分が恥ずかしくなってきた。
「…そうか、なら加入前に一つ聞いておく。俺たちは最強パーティーを目指している。お前はついてくる覚悟があるか?」
この目標にもし乗らないのであれば、パーティーに残っても意見が合わなくなる。
入る前にこれだけは聞いておきたかった。
「最高じゃねーか、そのでっかい目標!気に入ったぜ!俺がその目標を叶えてやるよ!」
どうやら気に入ってくれたみたいだ。
これ以上は何も聞くまい。
「それと俺個人のことも話しておこう。俺は英雄になるっていう夢がある。だからこれからも強いモンスターや強敵と戦うことになるぞ」
「だったら俺は最強のドラゴンになればいいだけだな!違うか?!」
確かに。と俺はその場で笑う。
薄々感じていた、レグは俺に似ている。
一族の話を聞いて同情したように、きっとレグにも思い出したくない過去があるのだろう。だが、それにめげず俺の前で一緒に立っている。
これも何かの因果なのだろうと感じた。
「一緒に来いレグ!お前の力を貸してくれ!」
「わかったぜロイ!俺たちで最強に登り詰めてやろうな!」
俺たちは固い握手を交わす。
これは男と男の約束だ。
俺たちはアークミノタウロスの解体やついでに鉄鉱石を採取して、レグに乗せてもらいギルドへ戻る。
フィオネストに近づいたころ。
雲は暗く。まるで嵐が来るかのような天気に変わった。
「なんだあれ?」
レグが気になることを言い。
止まるように指示する。
フィオネストの周囲に黒く禍々しい魔力を浴びた何かが、続々と現れた。
「様子がおかしい…。レグ、急いでギルドに戻ってくれ!」
おう!とレグは翼を羽ばたかせて、全力で飛行してギルドへ戻った。
まさかな…。
俺は勇者が言っていた魔王軍という言葉
が、脳裏から離れなかった。
ステータスが全ての世界で最弱ステで生まれた俺は神からスキル『ステータス操作』を授かり最強に成り上がるまで 綴ル @tudulu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ステータスが全ての世界で最弱ステで生まれた俺は神からスキル『ステータス操作』を授かり最強に成り上がるまでの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます